札幌周辺から見える山々

川村信人(札幌市清田区在住)

はじめに

 このテーマの発端は,つい最近のことです.私の属する某地質関係法人の会員の方から『藻岩山山頂から見える大雪山系のピークの名前が分からないか?』というリクエストを受け,カシミール3D(+カシバード)でシミュレートして景観図を作成しました.それを契機として,大雪だけではなく他のいろいろな山々についてもシミュレートしてみると,それまで自分でもちゃんと意識していなかったことが明瞭になりました.私が昔から “あ~札幌(周辺)からも見えるんだ?!” と漠然と思っていた山々が,はっきりと名前付きでその姿を現わしたわけです(下図).


札幌市南区・藻岩山上空から見た大雪-十勝岳山系・芦別岳-夕張岳山系・日高山脈の景観シミュレーション図.焦点距離設定: 28 mm.国土地理院標高データを用い,カシミール3D(カシバード)により作成.マウスオーバーで山系の範囲を on/off する.

 こういう景観シミュレーションを踏まえて,今まで調査や趣味などいろいろな機会に撮った写真を眺めていると,『これが写っていたんだ!』『これを撮っていたんだ!』というのがいくつも出てきました.

 このアーティクルは,それらを紹介するページです.対象の中には,札幌周辺から;①見た記憶だけがあっても『写真など撮っていない』もの,②見えるはずだけど見たことのないもの,が含まれます.それらは “構想中” として項目タイトルと簡単なコメントとカシミール3Dによるシミュレーション結果だけをあげておきます.いずれは撮れる(・見れる)かもしれないし,黄砂+PM レベルが異様に高まっている昨今と私の余命を考えると永久に無理かも...


※ このアーティクルで紹介する山々の名前の同定は,その大部分はカシミール3D(+カシバード)による景観シミュレーション中の山名表示機能によっています.しかし一部は,(山名があるにもかかわらずなぜか)山名が表示されないものがあります.また,写真中で明瞭なピークとして写っているのに,もともと山名が付されていないものもあります.このようなものについては,国土地理院地図上で見て推測したり,近接からの景観をシミュレートして見当をつけ,ピークの名前や標高を判断して描き入れています.しかし,その作業は非常に難しいというか曖昧なもので,結果が正しいか確認の持てないものあります.したがって,間違いを含む可能性もあることをあらかじめことわっておきます.
※ パノラマ合成のもとになった写真の焦点距離は『35 mm 相当・換算値』です.カシミール3Dの景観シミュレーションの設定値における “焦点距離” も同様です.


日高山脈

 まずは,上のスペクタキュラーな景観シミュレーション図の右側にある『日高山脈』から逝ってみます.日高山脈は言うまでもなく北海道における最大の山脈で,新第三紀のプレート衝突によって形成された衝突山脈です.その神々しい姿は,十勝平野側や日高海岸側で拝することができますが,札幌からもちゃんと見えているわけです.

 下の長大なパノラマ写真(11枚合成!)は,もともと芦別岳~夕張岳をターゲットとして撮影したものですが,その右手前に夕張山地があり,さらに右側はるかに日高山脈が見えています.撮影地点は恵庭市恵庭墓園です.これを撮った時は,日高山脈が見えているな~...と思っただけで,その後まじめに追究することもなく忘れていました.クリックで拡大表示を示しますが,これで見ると,驚くというか意外なほど日高山脈の山並みがぞろぞろと見えています.


恵庭市恵庭墓園から 2006年3月撮影.焦点距離:300 mm.11枚合成.クリックで拡大表示を on/off する.

 ただ,札幌から遠距離にある日高山脈はさすがに haze で霞んでおりコントラストがありません.そこで,階調の回復のため自分のスキルの限界までトーンマッピングなどのレタッチを行いました(下写真).その副作用で,パノラマ合成の際不均一になっていた空の階調が強調され,不細工なまだら模様になってしまいました.最後の手段として,Photoshop で sky-replacement を施しています.嘘くさいですが,少なくとも日高山脈の部分は嘘ではありません.
 山名を見るとお分かりのように,日高山脈の北部から中央部にかけての部分が見えているようです.なにしろ日高山脈の最高峰・幌尻(ぽろしり)(2052.4 m)が見えているのですから感動します.


恵庭墓園からのパノラマ右半部に見える日高山脈.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.

夕張岳

(札幌周辺から見えるこの特徴的な山については,『夕張岳百景-西側からのビュー』で紹介していますので,そちらをご覧ください.)


夕張山地

 ここで『夕張山地』と呼んでいるのは,『夕張岳百景』で紹介した夕張岳~芦別岳と連なる急峻な山地のことではありません.その西側,夕張市街の東西にある低標高の山地を指します.地質的には,この夕張山地を構成するのは,東側ではおもに白亜系蝦夷層群(の上部),西側では古第三紀~新第三紀の地層となっています.そのことから分かるように,夕張山地を造っている地層・岩石は比較的軟質なものなので,起伏に乏しい低平な山地を構成しており,西側から見るとそのジェントルな佇まいに心が和みます.もっとも “低平” とは言っても,夕張市街東側で最高点が 800 - 900 m,西側で 500 - 600 m ありますが.

 雨霧山と鬼首山の間にある“625 m ピーク” はやや鋭い稜線になっています.川上ほか(2002)の地質図を見ると,この部分には NNW-SSE 走向の連続性の良い含礫泥岩層が分布していますが,地形との関係はよく分かりません.


川上源太郎・塩野正道・川村信人・卜部暁子・小泉 格(2002)北海道中央部,夕張山地に分布する中新統川端層の層序と堆積年代.地質雑,108, 186-200.


由仁町馬追丘陵東麓 から見た夕張山地.2001年11月撮影.焦点距離 90 mm で撮影したものを5枚合成.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.

 夕張山地の地形でもう一つ興味深いのは,パノラマ写真左側の丸山から左に見える “台地状地形” です.その地質学的背景は日高山脈や夕張岳の形成との関係で実に興味深いものです.それについては,カシミール3Dと地形・地質:地形探索 のページで詳しく紹介しましたので,ここでは省略します.興味のある方は参照してください.


支笏カルデラ

ジェット旅客機の窓から見た支笏湖.苫小牧沖上空(推定飛行高度 3600 m)から 2005年12月撮影.焦点距離 35 mm.

 『支笏カルデラ』は,数万年前に破局的噴火を起こした支笏火山の頂部が陥没したもので,そこに雨水が溜まって支笏湖となりました(右写真).
 その噴火で発生した火砕流は札幌市街まで達しています.直径約 15 km の支笏カルデラの全貌は外輪山などによって囲まれているため札幌周辺からは直接見ることはできませんが,その “横顔” からカルデラをイメージすることは可能です.

 下のパノラマは,支笏カルデラの横顔を長沼町から見たものですが...知っている人にはそう見えるというもので,そうでなければ単なる山々にしか見えないでしょう.左端の冠雪した特徴的なドーム状のピークが樽前山.その右が風不死(ふっぷし)岳です.中央部のピラミッド状のピークが恵庭岳で,この範囲が支笏カルデラです.風不死岳と恵庭岳の間には紋別岳が見えていますが,これは支笏カルデラの外輪山ではなく古期の火山体です.
 恵庭岳から右側の札幌西方山地前面には緩く傾斜する平坦面が見えています.写真の右端が北広島市街で,そのすぐ右には札幌市街がありますが,写真には入っていません.この緩傾斜平坦面は,支笏火砕流の作る台地です.恵庭岳から北広島市街までの距離は約 30 km です.


長沼町ながぬま温泉付近 からみた支笏カルデラ.2005年4月撮影.焦点距離 120 mm で撮影したものを3枚合成.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.

 この写真を見ていると,私は直径 15 km のカルデラとそれを形成した約4万年前の巨大破局的噴火のイメージがはっきりと浮かぶのですが,それは『想像が逞し過ぎる』というものでしょうか...?


札幌西方山地

 『札幌西方山地』というのは,札幌市の西部を構成する山地のことで,その最高峰は赤井川村との境界に位置する余市岳(1488.0 m),2番目が京極町との境界に位置する無意根山(1460.2 m)です.札幌西方山地の大部分は新第三紀の火山岩類からなり,後に述べる手稲山もその一部です.
 この新第三紀火山岩類の中でも,その上部には大規模な溶岩流が発達します.その流走面が水平に近いため平頂なピークを造る場合があります.空沼岳・札幌岳・無意根山・手稲山などはその代表的なもので,遠目にもすぐに分かる特徴的な山容を示しています.この溶岩は『平頂溶岩(flat lava)』とも呼ばれ,その噴出年代は 3.7 Ma(鮮新世)前後とされています.


江別市東野幌 から見た札幌西方山地の雄大な風景.2022年7月撮影.焦点距離 120 mm で撮影したものを6枚合成.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.
札幌市清田区・平岡公園付近 から見た札幌西方山地.2021年6月撮影.焦点距離 250 mm で撮影したものを5枚合成.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.

 札幌市の南はじにある滝野霊園からは,上の札幌西方山地の山並みをほぼ真横から見たビューを得ることができます.ここでは,手稲山のはるか右に藻岩山が見えています.これは札幌市民の感覚とは真逆で,南側から見ているので当然とはいえ,ちょっと驚きます.手稲山の形もいつも見るとはかなり違っています.一番左に見えるのは烏帽子岳と神威岳ですが,特徴的なデビルズ・タワー神威岳は残念ながら烏帽子岳の前に重なっていて目立ちません.手稲山と藻岩山の間には,いくつもの低い三角形ピークが見えていますが,特定はできていません.


札幌市南区・滝野霊園 から見た札幌西方山地.2024年10月撮影.焦点距離 60 mm で撮影したものを4枚合成.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.

 実はこのビューの左側には,札幌西方山地の南側本体である札幌岳-空沼岳-漁岳,さらには支笏カルデラ南端の恵庭岳までが見えています.しかし非常に残念なことに,このパノラマとの間はまったく邪魔な林で遮られていてダメでした.


道の駅とうべつ から見た札幌西方山地(カシミール3Dシミュレーション).焦点距離設定: 18 mm.

 最近(2024/10)気づいたのですが,当別町周辺は広大な札幌西方山地を一望できるもう一つの良いロケーションだと思います(上の景観図参照).しかし,私がこの場所にいるのはいつも午前遅くか午後に入ってからなので,南を見るこのビューは逆光とその haze でいま一つクリアではありません.そのため,思うような写真はまだ撮れていません.おまけに,送電線とかの邪魔なオブジェクトもけっこう多い...まあそれは generative AI でなんとかなるかもしれません.季節的なものもあると思うので,そのへんを考慮してチャレンジしてみたいと思っています.


※『札幌西方山地』は,おそらく正式な名称ではありません.Google/Bing で検索してみると,ヒットしてくるのはほとんどが私自身のページ(!)ですが,しかし私の造語でもありません.例えば岡村ほか(2010)にもはっきりと使われています.この論文では『...を札幌西方山地と呼ぶ』と書かれているのですが,私がこの言葉を知って使うようになったのはもっと前の話なので,どこかにオリジナルがあるのかもしれませんが,不明です.


岡村 聡・八幡正弘・西戸裕嗣・指宿敦志・横井 悟・米島真由子・今山武志・前田仁一郎(2010)北海道中央部に分布する滝の上期火山岩類の放射年代と岩石学的特徴-勇払油ガス田の浅層貯留層を構成する火山岩の岩石化学的検討-.地質学雑誌,116,181-198.


手稲山

 『手稲山』は札幌の多分どこからでも見えるシンボルのような山です.その頂上は緩く左(南)に傾いたテーブル状の特徴的な形をしています.これは新第三紀の “平頂溶岩” が作る一種の火山地形であることは既に述べた通りです.
 しかし,札幌中心部から見える山々は手稲山だけではありません.札幌市街地のビルの向こうには手稲山から南へ続く山並みが鮮やかで,札幌という都市のイメージとなっています(下写真).


札幌市北区・北海道大学理学部6号館 から見た手稲山~砥石山.2005年4月撮影.焦点距離 112 mm で撮影したものを5枚合成.ピーク名をマウスオーバーで表示し,クリックで拡大表示を on/off する.
手稲山とその裾野の山々.上のパノラマの右を切り出し Adobe Photoshop により “空置換” を施したもの.

 右は,パノラマの右端を切り出して手稲山山頂部を拡大表示し,ちょっと “盛った” ものです.これを見ると,手稲山がなぜ札幌のシンボルと言われるのかが分かるような気がします.存在感というか,ボリューム感というか.

 山頂部が平坦・台形になっているのは,もちろん新第三紀火山活動による平頂溶岩(手稲山溶岩)の構造が見えているものですが,そこから右手前側に連なっていく “お饅頭型” のピークが印象的です.手稲山のすぐ右の丸いピークは 838 m ピークと思われますが,やや平頂なので多分平頂溶岩の一部ということなのでしょう.北海道地質百選の このページ によると,手稲山溶岩の下位にあたるネオパラ山溶岩となっています.手稲山溶岩の噴出年代は 3.7 Ma(前期鮮新世)とされています.
 下に述べる巨大地すべり地形は,この尾根筋の向こう側にあり,札幌市中心部からは隠れていて見えません.


 実は手稲山の東麓には,最大幅 4.5 km,手稲区稲穂の住宅地にまで広がりを持つ巨大な地すべり(+岩屑なだれ)地形があります.例えば,(本家)北海道地質百選の このページ をご覧ください.地すべりの発生時期は分かっていませんが,支笏火山の噴出以前で少なくとも5万年前より古いものです.
この景観は非常にスペクタキュラーなもので,私も撮影のチャンスをうかがっています.しかし,おそらく冬季の午前中で降雪なしという条件のほかに,札幌市街のかなり北側からでないと捉えられないと思われます.そうなると撮影地点も限られてきますが,どこが最適なのかは,まだ把握していません.下はとりあえずカシミール3Dでシミュレートしてみたもので,このへんが最適なビューポイントかと思われますが,市街地なのでどうなのか.Google Street-view で確認してみると,道路沿いの空き地がけっこうあるのでなんとかなりそうな感じもします.電線が邪魔かもしれませんが.

上:カシミール3Dによる手稲山岩屑なだれ地形.北区新琴似新川付近より.焦点距離設定 50 mm.
下:同断面図.カシミール3Dで作成したものに独自の(勝手な?)解釈を加えたもの.

羊蹄山

 羊蹄山が札幌周辺(の平地)からも見える可能性があることは このページ に詳しく述べています.下にあげたのは,その景観シミュレーションです.しかし,まだ実際にこの景観を確認できたわけではなく,したがって写真もありません. こんな話 もありますので(写真は無し),見えることは見えるんでしょうけど.もっと探ってみたら, こんなの もありました.写真は微妙すぎてよく分かりませんが.


南幌町 から見た羊蹄山(カシミール3Dシミュレーション).焦点距離設定: 135 mm.

大雪山-十勝岳連峰

 これは,このアーティクルのそもそもの発端なのですが...私自身は何度も藻岩山に登っているというのに,なんの記憶も記録もありません.自分としては,この景観シミュレーションを実証する写真は絶対にゲットしたいところです.


札幌市南区・藻岩山 から見た大雪-十勝岳(カシミール3Dシミュレーション).焦点距離設定: 135 mm.

樺戸-増毛山地

 実は私の住んでいる札幌南東端地域でも,視程の良いときなど『あの白い山は何?!』と驚くような見え方でこれが見えます.下のシミュレーションはそのさらに南からの(少し高いところですが)ものですので,絶対にこれもゲットしたいと思っています.
ちなみに,増毛山地は石狩湾をはさんで小樽側からの眺めは日本離れした素晴らしいものです.某大学ヨット部の新人訓練で湾に出たとき『あそこに見える陸地はロシアなんだよ』と冗談言うと,たいていの(本州出身の)新入生は信じてしまうという笑い話を聞いたことが.


札幌市清田区・白旗山 から見た増毛-樺戸山地(カシミール3Dシミュレーション).焦点距離設定: 50 mm.

(2024/05/29 公開)(2024/10/09 追加更新)(2024/11/27 構成変更・更新)



※ これまでこのアーティクル中にあった,札幌から見える山以外の『道内の山々の風景』を分離し,他のいくつかの題材と合わせて別アーティクルとして公開することにしました.公開時期はいまのところ未定です.



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