砂岩の岩石学
Sandstone Petrology

川村信人(北海道総合地質学研究センター)

※ 本アーティクルは,北海道大学理学研究院在職時に共同研究者と共に行った過去の検討を紹介するものです.モード測定データや鏡下写真・化学分析値などは,共同研究者で当時卒論生・大学院生だった小澤 聡・安田直樹・藤本樹快・望月 貴・今津太郎の各氏によるものを含んでおり,当該箇所にそれを注記しています.


はじめに

 まずはじめに,言わずもがなのことを書いておきたいと思います.このアーティクルのテーマ『砂岩の岩石学』は,現在では既に時代遅れ(obsolete)なものになっていると思われます.要するに “オワコン” です.

 大体 1980 年代から 2000 年代の初めまでは,日本国内でこの研究分野に従事している研究者がけっこういて,二つの大きな総研A『変動帯の砂岩-日本列島を例として-(研究代表者:君波和雄)1988~1990』および『東アジア変動帯の砂岩組成とテクトニクス(研究代表者:公文富士夫)1995~1997』が行われました.私もその分野を専門(の一つ)としており,かなりの注力をした時期があって,君波総研では分担者となりました.公文総研には残念ながらお呼びがかかりませんでしたが,その成果として出版された地質学論集『砕屑岩組成と堆積・造構環境』には論文を二つ投稿しています.


川村信人・安田直樹・渡辺暉夫・Mark Fanning・寺田 剛(2000)渡島帯ジュラ紀石英長石質砂岩の組成と供給地質体.地質学論集,No.57,63-72.

川村信人・藤本樹快(2000)中央北海道南部地域における白亜系蝦夷累層群砂岩の化学組成.地質学論集,No.57,119-132.


 この二つの論文が,私が砂岩研究者として関わった二つの主要な地質体,渡島帯ジュラ紀付加体と蝦夷層群に関するものとなっているのは,ある意味自分にとってのこの研究分野の集大成だったのかもしれません.これ以降,私としてもこのテーマでの検討は次第にフェードアウトしていきました.

 いまや国内にはこの研究分野自体が存在せず,そもそもそういう分野がある(・あった)ことすら知らない人が多いのではないかと思います.砂岩組成を扱った論文など最近はまったく見かけません.国際的にはどうなのかあまり確認していないのですが,程度の差こそあれ似たような状況でしょう.

 ということで,本アーティクルは『追究すべき興味深い地質テーマ』をポジティブに提供するものなどではありません.こういう研究があったということをすべて記録しウェブ上に残しておきたい,いわば 20 世紀鎮魂歌?!...といったところでしょうか.


岩石としての砂岩 -砂岩の岩石学とは?

 砂岩(sandstones)は言うまでもなく砂質堆積物が岩石化したものです.したがって,砂岩は岩石に決まっているのですが,その状態に対して “学” が成立するのかというと,いまやちょっと確信が持てません.私が学生のころ,国内では『堆積岩石学』(庄司力偉著:朝倉書店1971年刊)という教科書がありました.これは『堆積学』とペアになった庄司先生の先駆的な教科書だったと思います.当然私も買いましたが,正直なところ,自分の扱っている砂岩(当時は古生代砂岩)から “知りたいこと” との間に微妙な違和感があり,結局その教科書の内容が自分の中に入ってくることはあまりありませんでした.


岩石用偏光顕微鏡.筆者が現役時代使用していたもの.Nikon OPTIPHOTO なんとかというものだった.

 砂岩を岩石として検討する場合,必須の基本ツールとなるのが岩石薄片(thin section)を観察するための偏光顕微鏡(polarizing microscope)です(左写真).その光学的原理は非常に難しいもので私も正直良く理解していない点がありますが,簡単に言うと『鉱物(・ガラス)の特性を視覚化できる』ということになるでしょう.多色性・干渉色・消光・屈折率...それが目で見えるようになるわけです.偏光顕微鏡は,砂岩の岩石学のすべての始まり・原点と言えるでしょう.


 右に,『偏光顕微鏡で見た砂岩』というものを,その “端成分” で示しておきたいと思います.上が大陸性の陸成石英砂岩,下が島弧性の浅海成火山砂岩です.正確な産地・層準はもはや不明ですが,前者がヨーロッパのカンブリア系(故加藤誠先生提供),後者が北海道中央部の新第三系(学生実験用試料)だったと思います,多分.
 石英砂岩は,その粒子のほぼ 100 % が円磨した粒径の均一な石英粒子からなり,随所に石英の overgrowth によるダスト・リング(dust ring)が見られます.粒間孔隙部は炭酸塩でセメントされています.
 それに対して後者は,淘汰度・円磨度ともに悪く,構成粒子のすべてが安山岩・斜長石・単斜輝石・普通角閃石などの島弧型火山性粒子です.変質による粘土鉱物(緑泥石)の生成が顕著で,地質屋の好きな『汚い』という表現がぴったりです.

 要するに何を言いたいのかというと,①砂岩の持つバリエーションは非常に大きい,②それは堆積(造構)場・堆積環境と密接に関連している,③それらを私達にビジュアルとして如実に示してくれるのが偏光顕微鏡というツールである,ということになるでしょう.


砂岩薄片の偏光顕微鏡写真(開放ポーラー).マウスオーバーで直交ポーラー写真を表示する.左:蝦夷層群中部層準砂岩.夕張市大夕張川上流.藤本樹快氏の採集・調製・撮影によるものを高解像度化・画質復元したもの.右:蝦夷層群下部層準砂岩.芦別市奈江川下流.同じく,望月貴氏による.

 上の薄片写真は,私達が実際に扱った白亜系前弧海盆堆積体蝦夷層群の砂岩を偏光顕微鏡で見たものです.マウス・オーバーで開放・直交ポーラー像が切り替わります.こうして見ると,岩石薄片の直交ポーラー像というのは,他の手法では得られない “百聞は一見に如かず” の貴重な観察手法なんだ,と感動を覚えます.


ハンレイ岩の顕微鏡写真.Julien Leuthold (distributed via imaggeo.egu.eu) による.

 しかし少し引いた視点で見ると,偏光顕微鏡で見た砂岩という岩石の無秩序さというか,“汚さ” もいまさらながら印象的です.我ながら,こういう岩石の中に岩石学的に解析されるべきシステマティクスが本当にあるのか?と正直思えてきます.例えばネット画像検索で “gabbro thin section” とか検索してハンレイ岩の薄片写真(右写真)を見てみると,岩石学の観察対象とはやっぱりこういうものなのかな...と沈んだ気持ちになりますが,とりあえず気を取り直して前に進んでみます.

 砂岩の岩石学(Sandstone Petrologyとは,私が勝手にでっち上げたもので,広く認知されている分野名称ではありません. おそらく “岩石化した砂” を岩石学的に扱うには,①記載岩石学的な手法と,②岩石化学的な手法,それに③同位体年代学的な手法があると思われます.


記載岩石学

 記載岩石学だったら petrography だろう?という突っ込みは置いておいて,この分野に従事する当時の研究者のバイブルは, Sand and Sandstones. F.J. Pettijohn, P.E. Potter and R. Siever (1973) や,Petrology of Sedimentary Rocks, 2nd. ed. R.L. Folk (1974) だったと思います.少なくとも私はそうでした.特に前者は砂岩に特化した内容でしたから.


『堆積岩石学の概要』表紙.NSK出版のご厚意により掲載.

※ このアーティクルの執筆中に,八木下晃司さんによる『堆積岩石学の概要』(NSK出版)という教科書が 2015 年に出版されていることに気付きました.退職間際のどさくさで,まったく気付いていませんでした.Amazon でも買えますが,なんと中古で \20,000 (!)...上記 NSK 出版のページから \3,200 で購入できるようです.
八木下さんは砕屑物研究の重鎮で,この教科書も目次を見るだけで圧倒されます.産総研地質調査所の地質ニュースに,小松原純子さんが書かれた書評 が掲載されています.
この内容が “概要” ならば “詳細” はいったいどんなことになるんでしょう? このような立派な教科書がある以上,以下に書くことはすべて blown away になってしまうわけですが...まあ私は私ということで,考えないことにします.


 砂岩の記載岩石学としては,大きく分けて『組織』と『組成』に関する検討があります.以下には,その概説を述べておきます.


砂岩の組織

粒度パラメーター計算ソフト『Size-pm』の Windows11 上での実行画面.

 『組織(texture)』とは,砂岩の場合基本的には粒度(とその分布)ですが,基質量・円磨度なども含まれます.粒度分布(size distribution)の基本パラメータは平均粒径(average)・淘汰度(sorting)です.淘汰度は2次のパラメーターで,要するに統計的には標準偏差です.3次以上のパラメータとして歪み度(skewness)・尖度(kurtosis)があります.

 右図は,現役当時(1990 年代)に作成した粒度分布パラメータの計算ソフトです.粒度累積曲線の描画・頻度図の等幅変換機能・モーメント法とグラフィック法による各種パラメータの計算機能など,けっこう頑張ったものです.当時の VisualBasic 6 で開発したものですが,現在の Windows11 64bit でも問題なく動作します.しかしあくまでも学生実験用で,実際の研究に使用することはほとんどありませんでした.その理由は後で述べます.


 3次の粒度分布パラメータである歪み度は,粒度分布の “偏り” を表すものです(右図).歪み度がゼロの分布は対称で,三つの平均値,算術平均値(Mean)・最頻値(Mode)・中央値(Median)が等しくなります.歪み度が正の分布は粒度の大きな方へ偏っており,対称な分布に対して細粒側に “余剰な成分” があると見ることができます.歪み度が負の分布はその逆です.したがって,タービダイト砂岩のような dirty なものは歪み度が正,海浜砂のような clean なものは歪み度が負となる傾向があります.

 しかし固結した岩石である砂岩の場合,粒子を分離して扱うことができず,薄片下での断面しか観察できません.薄片下で見える粒子は『粒子のランダムな断面』を示していますので,そこから得られる粒径は実際の粒径より有意に小さくなります.大体 2/3 程度というのをどこかで見た記憶があるので実際に計算してみたら,球形粒子のランダムな断面の大きさの平均は実際の粒径の 0.76 倍でした.さらに当然ですが,標準偏差(淘汰度)は,同一径の粒子なら本来 0 であるはずのところが 0.26 となってしまい『偽特性』となっています.
 このことは,粒度分布を薄片から得る場合の大きな制約となり,その implication も非常に限定されたものとなってしまいます.『ある特定の砂岩群について粒度分布を相対的に扱う』ということはできるかもしれませんが.
 こういった制約から,粒度分布パラメーターを砂岩について系統的に検討した例はあまりないと思われます.


砂岩の組成

 『組成(composition)』ですが,単に “○○の粒子を多量に含む” でも組成記述になるとはいえ,砂岩の記載岩石学を解析的に扱う場面でキーになるのは,やはり『モード組成(modal composition)』ということになるでしょう.これについては後で詳述します.


岩石化学

 こちらは『全岩化学組成』と『砕屑性鉱物の化学組成』が二つの柱です.

 全岩化学組成(bulk-rock chemical composition)は蛍光X線分析(XRF: X-Ray Fluorescence analysis)の手法が一般的になって実用的に走り始めた分野です.それ以前は岩石の化学組成というのは『重量法』という,多大な手間と作業時間に加えて経験と熟練の必要な手法でしか得ることができませんでした.私も 1970-80 年代に挑戦しましたが,あまりに時間がかかりすぎ,情けないことですが研究期間中に解析するに十分なデータ量を得ることが出来ませんでした.XRF は粉末試料を作成してそれを融解しビードサンプルにすれば,(補正計算とかいろいろありますが)あとは分析装置が勝手にやってくれるわけなので別世界でした.前述の “君波・公文総研” は,いずれもこの砂岩の全岩化学組成を主要なテーマとしていました.

 砕屑性鉱物の化学組成については,その検討対象はザクロ石(garnet)が主なものですが,火山性砂岩については,単斜輝石粒子から導かれるものもあります.いずれも測定手法は EPMA (Electron Probe Micro-Analyzer) です.


同位体年代学

 近年(2010 年代以降?),砂岩の岩石学として一躍脚光を浴び,あっという間に主流となってしまったのが,『砕屑性ジルコン同位体年代』です.なぜこれがそれだけブレークしたのかというと,それまで示準化石産出という間接的な方法でしか分からなかった砂岩の堆積年代を絶対年代として得ることができる,ということに尽きるでしょう.
 しかしこの画期的な手法にも短所というか cons があります.①特別な(高価な)分析機器が必要.②結局間接的な年代しか求まらない.②は,え...それって?!と思ってしまいますが,『堆積年代を保存している鉱物』というものはそもそも存在しません.砂岩中に含まれるジルコン粒子の年代は,堆積時に後背地に存在した火成岩(+変成岩)の年代ですので,堆積年代がそれよりも古くなることはない,という原理に基づくものです.したがって,砕屑性ジルコン粒子は『それを含む砂岩の堆積年代の下限を示す』ものです.砕屑性ジルコン粒子の年代の中でもっとも若い年代( “最若年代”)と堆積年代の差がどれだけなのかを見積もる方法は理論的にはありませんが,一般にその差は無視できるほど小さく,最若年代 ≒ 堆積年代 という近似が成り立つという『最若年代原理』が適用されています.

 私達は,1990 年代初めに故渡辺暉夫教授の示唆によって砕屑性ジルコン粒子年代の重要さに気づかされ,渡島帯ジュラ紀砂岩について渡辺教授にオーストラリアで測定をして頂き,非常に重要な知見を得ました(川村ほか,2000).これについては後に述べたいと思います.しかし,設備・資金的な問題から,それを発展させることは残念ながら出来ませんでした.


砂岩モード組成

 砂岩モード組成(sandstone modal composition)とは,砂岩が持っている実際の粒子組成を指します.“実際の(modal)” とはどういうことかというと,“ノルム(norm)” = 規格化の対置語です.もっとも,砂岩にはそもそもノルム鉱物が存在しないので,あまり意味はないのですが.


※ これについては,後に砂岩のノルム化試行について紹介します.しかしあくまでも個人的な試行に過ぎず,もちろん一般に認定されているものは存在しません.


 Glossary of Geology には,こう書かれています.“modal analysis: A statement of the composition of a rock in terms of the relative amounts of minerals present”.また, コトバンク には『鉱物容量比(= modal composition)』と単純明快に書かれています.
 しかし,これらはいずれも火成岩(・変成岩)の中でも完晶質岩を念頭に置いた表現であり,すべてが鉱物からなっているわけではない砕屑性堆積岩(砂岩)の場合は『砕屑粒子容量比(relative amounts of clastic particles)』と読み替える必要があります.


測定方法論

 上で示したモード組成の定義での “容量比(amounts ratio)” は,重量比(weight ratio)とも体積比(volume ratio)とも読めます.重量比を求めるのは,固結した岩石の場合ほとんど不可能なので,体積比が使われます.体積は面積の積分なので,すべての断面で面積比が同一と仮定すれば,体積比=面積比となります.つまり,岩石薄片中で各要素の面積比を測定すればモード組成が得られるということになります.

ポイント・カウンティングのイメージ.

 しかし,薄片中で面積比を測定するというのは非常に面倒な話で,特に砂岩の場合,デジタル処理前提でさえもほとんど不可能レベルです.
 そこでどうするかというと,薄片上の任意のポイント(・グリッド)で粒子種を判定し,ポイントの間隔を十分に小さくすれば,そのポイント数で面積比を近似できます(ポイント・カウンティング:右図).

 “任意のポイント” と書きましたが,薄片上で重複しない任意のポイントを数百個手動で得るというのは人間には事実上不可能です.そこで,『メカニカル・ステージ』という,微小なクリック幅で薄片をXY移動させる装置を使い,縦横グリッド(=顕微鏡視野の十字線交点)下にある粒子種を判定し,種類ごとの積算数を記録するという手法が使われています.

 経験的には1枚の薄片中で 300 ポイント程度を測定すれば,十分な近似となるとされています.私は念のため,500 - 1000 ポイントを測定していました.


三角ダイアグラム

三角ダイアグラムの原理と組成点のプロット法.クリックでプロット法に必要な補足説明を表示する.Shift+クリックで戻る.

 砂岩のモード組成を分かりやすく表現する手段として,特定の三成分のモード量比を取るというものがあります.三成分比を視覚的・直感的に表現する方法として,三角ダイアグラム(ternary diagram)が伝統的に使用されています.
 三角ダイアグラムの原理は右図のようなものです.つまり,ある三成分データ(A:B:C)のプロット点からその “底辺” に下ろした垂線の長さの比(a:b:c)が A:B:C に等しくなる,というものです.
 しかし,その原理そのままでは人間の頭と手ではプロットが不可能です.1970-80 年代にはパソコンでグラフを描くということはありませんでした.ここで,正三角形のある性質がポイントになります.つまり,三本の垂線の長さの合計(a+b+c)が三角形の高さ(h)に等しくなる,というものです.これは Wikipedia に Altitude method として紹介されています.


三角ダイアグラムの hand-plot の方法.

 当時は,“三角グラフ用紙” を入手し,それに手で描き入れていました.その際,上記の “altitude” から派生する性質『あるプロット点の組成比:A/(A+B+C)は,三角ダイアグラムの高さ(h)と上の “垂線” の長さとの比に等しい』を利用します.実際にどうやるかというと,例えば,あるデータが A:B:C = 20:30:50 だとすると,頂点Aについて高さが 20 % で底辺に平行,頂点Cについて高さが 50 % の同様な線分を描けば,その交点がデータプロット点となります(左図).

 1990 年代に入って表計算ソフトなどでグラフが描けるようになりましたが,定番の Excel にはそんなグラフはないし『等高線グラフ』というのはどうもピンときません.専用のグラフ作成ソフトには三角ダイアグラムを描く機能を持ったものがありましたが,高価でした.


※ 実は Excel を使って三角ダイアグラムを描く方法はあります.要するに上記の三角ダイアグラムの原理を使ってプロット点のXY座標を計算し,それをXY軸を非表示にしてその代わりに正三角形を描画した散布図グラフに表示させるというものです.例えば,この サイト に紹介されています.計算シートが配布されているところもあり,私も実際試してみましたが,あまりしっくりとは来ませんでした.


三角ダイアグラム作成ソフト.上:TER_DGM(自作).下:Triplot.

 しょうがないので,当時の VisualBasic 6 を使ってソフト(TER_DGM: Ternary Diagram)を自作しました(右図上).このソフトは,驚くべきことに現在の Windows11 64bit でも問題なく動作します.三角図の分割表示などいろいろ頑張っています.ポストスクリプトプリンタードライバーを使って三角図をポストスクリプト形式で出力できますので,Illustrator のようなドローソフトで好きなように編集可能です.現在であれば,PDF プリンタードライバーを使えば PDF ベクター形式で出力し Affinity Designer などのドローソフトで編集できます.しかしいかんせん...プログラミングスキルと VisualBasic そのもののグラフィックライブラリの問題で,そこまででした.

 おそらく,三角ダイアグラムを描画できるフリーソフトとして現在入手できるものは,Todd Thompson による Triplot がほとんど唯一のものでしょう(右図下).しかし,2009 年の Ver.4.1.2 を最後にアップデートされておらず,その掲載サイトも閉鎖されたようです.わずかに,いくつかの フリーソフトサイト でダウンロードできるだけとなっています.


 Triplot はデータ・マーカーや凡例の設定などに強い癖がありますが,それ以外は非常に良く作り込まれたソフトで重宝します.もちろん最新の Windows11 64bit でもほぼ問題なく動作します.
 グラフをベクタ形式(*.emf)でエクスポートできるので,ドローソフトでの編集も可能です.左図は,Affinity Designer に取り込んで編集したものです.ただし日本語の扱いにはかなり難があります.すべて英語で作成するのが無難でしょう.



QFL 組成

 砂岩のモード組成の三成分比としてもっともよく使われるものは,QFL 三成分比,Q: quartz, F: feldspars, L: lithic fragments です.もちろん砂岩の構成粒子はこの三成分だけではないので,他にもいろいろな組み合わせの三成分比が使われていますが,QFL 比はある意味砂岩の基本特徴をベストに表現できるもので,これだけで話が済む場合もあるほどです.


岡田 (1971) の QFL モード組成に基づく砂岩分類.

 右図は,岡田 (1971) による QFL モード組成に基づいた砂岩の分類案です.非常に単純明快な分類で,海外論文でも使用されているのを見た記憶があります.しかし,別な言い方をすれば,あまりに単純で砂岩に分類名(例えば lithic wacke とか)が付いたらそれ以上の何が分かる・言えるのか?という疑問も生じます.岡田(1971)自身もこの分類を『非成因的分類(non-genetic classification)』と呼び,砂岩に対するいわゆる “造構造規制(geotectonic control)” 的な分類を批判していたと思います.
 この点は,のちに述べる Dickinson らの一世を風靡したアプローチとは真逆のものです.私は,砂岩から何が分かるのかが知りたいという方です.というか,それが分からなければ極端な話,砂岩を研究する意味もないと...


岡田博有(1971)再び砂岩の分類と命名について.地質学雑誌,77, 395-396.


G-D 法

 ここで,ちょっと話が戻りますが,砂岩モード組成測定の際の粒子判定について少し触れておきます.G-D 法というのはもちろん略称ですが,正式には『Gazzi-Dickinson's Method』です.二人の共著ということではなく,Gazzi (1966) と Dickinson (1970) によってそれぞれ独立に提唱された方法のようです.前者は後者の4年前の公表ですが,イタリア語論文ですのでサーキュレーションが悪くこのような結果になったということなのかもしれません.
 “Gazzi” をどう発音すべきか私は分かりません.私達は慣習的に『ガッチ・ディキンソン法』と呼んでいました.G-D 法に対して,それ以前に行われていた方法は『伝統的な方法』と呼ばれ,そちらは誰がいつ規定したものかは不明です.
 なお,“行われていた” と過去形で書きましたが,伝統的な方法はもはや使われなくなった無効な方法という意味ではありません.Dickinson らのモード組成に基づく砂岩造構場分類(後述)は G-D 法を前提としているという意味です.


Gazzi, P. (1966) Le Arenarie del Flysch Sopracretaceo dell'Appennino Modenese: Correlazioni con il Flysch di Monghidoro. Mineralogica e Petrografica Acta, 12:69 97.

Dickinson, W.R. (1970) Interpreting detrital modes of graywacke and arkose. Journal of Sedimentary Petrology, 40, 695–707.


 右図に,伝統的な方法と G-D 法の違いを示します.簡単に言うと,“岩石破片” をどのようにカウントするかということになります.

 伝統的な方法では,岩石破片はどんなもの・大きさであろうと岩石破片としてカウントされます.
 それに対して G-D 法は,岩石破片中の鉱物粒子の(長)径が 62.5 μm 以上であれば,岩石破片ではなく鉱物粒子としてカウントされます.例えば花崗岩粒子中の 62.5 μm 以上の石英結晶は石英粒子としてカウントされます.“62.5 μm” というのは,0.0625 mm = 2-4 mm = 4 φ ということで,つまり砂サイズの下限という意味です.それ以下の粒径の鉱物粒子は岩石破片の一部としてカウントされます.

 いったいなぜそんな面倒な事をしなくてはいけないのでしょうか?


 G-D 法の意図するところについては,原著論文に書いてあるわけですが,私は現在それにアクセスすることはできず,当時の記憶を頼りに記述するといことをあらかじめ断っておきます.

 右の図をご覧ください.伝統的な方法は岩石破片と結晶破片を区別しますので,例えば四種の鉱物からなる花崗岩片の各鉱物が分離した瞬間に,それは各鉱物粒子のカウント 1 個ずつということになります.
 つまり,岩石破片の中に花崗岩質粒子が卓越する砂岩の場合,伝統的な方法では粒子分離がモード組成に及ぼす影響がより強いということになります.それに対して G-D 法ではその影響は非常に小さくなります.
 言い換えると,伝統的な方法では『淘汰・選別・成熟』といった過程を反映したモード組成となり,G-D 法では『源岩組成』がより強くモード組成に現れる,ということになるでしょう.


 左の図は,渡島帯ジュラ紀砂岩について,伝統的な方法と G-D 法の両方でモード組成を測定した結果です.測定者は当時私の研究室の大学院生だった安田直樹さんです.
 花崗岩質の岩石破片・結晶破片粒子が卓越する渡島帯ジュラ紀砂岩(上磯・江差・渡島地域)では,測定法による差異が顕著に現れています.当然の結果ですが,G-D 法のデータは Q-F 辺により近い領域にプロットされます.
 一方,乙部地域の砂岩は,チャート岩片を大量に含む特異なものなので,どちらの方法で測定しても同じプロット結果となっています.

 結論として,どちらの方法が適切・正解ということではなく,分析の目的によるということだと思われます.


測定者偏差

 これは,砂岩モード組成という手法が抱える非常に厄介な問題です.右の図は,君波総研で配布された『日本列島の標準砂岩薄片』について,総研に参加している何人かの砂岩岩石学研究者がモード測定を行った結果です(公文ほか,1992).幸いにも(?)この中に私は参加していません.


公文富士夫・君波和雄・足立 守・別所孝範・川端清司・楠 利夫・西村年晴 ・岡田博有 ・大上和良・鈴木茂之・寺岡易司(1992)日本列島の代表的砂岩のモード組成と造構場.地質学論集,第38号,385 - 401.


 このプロット結果を見てすぐに分かることは測定者によるばらつきが大きいということです.特に標準砂岩B・E・Fのばらつきはかなりのものがあります.
 次に気づくことは,このばらつきはランダムではなく,測定者ごとに “傾向” が見られるということでしょう.例えば測定者1の結果は,常にクラスターのQ寄りに位置しています.測定者7はL寄りになっています.測定者8は逆にF寄り傾向が顕著です.
 このような偏差がどのような要因で発生しているのかは分かりませんが,モード測定があくまでも “視認” であることを考えると,まあ当然のことかもしれません.
 『測定者間の偏差が顕著なので測定者が異なるデータは比較すべきではない』という結論にただちに達する訳ではありませんが,測定者の異なるモード組成データを比較する時は十分に注意すべきレベルということになるでしょう.


 ちなみに,私の研究室で学生・院生が砂岩モード組成を測定する際は,まずこの標準砂岩の測定を行い,そのプロットが上の図の範囲に収まることを確認してから,自分の検討試料についての測定を行っていました.
 右の図は,私の研究室のある院生が標準砂岩AとFについて3回ずつのモード測定をした結果です.シェード部が国内砂岩研究者による測定結果(公文ほか,1992)です.標準砂岩Aは少しLが少なすぎるような気がしますが,まあまあの結果だと思います.統計的な検定とかをしたわけではないので,それで十分なものだったかは分かりませんが.


組成データ問題

 砂岩モード組成の中から特定の三成分を抜き出して三角ダイアグラム上で表示する場合,三成分の合計はサンプルごとに異なります.そのため,それぞれのデータは三成分の合計値に対する比(一般に%値)として normalize されて表現されます.つまり,三成分値の合計は常に 100 % で一定です.このような特徴(定数和)を持った統計値は『組成データ(compositional data)』と呼ばれ,その統計的処理・評価の手法は通常のデータに対する手法と同じではないとされています(例えば;太田・新井,2006).組成データの統計的扱いについての詳細は,組成データの問題 のページに紹介しましたのでご覧ください.


太田 亨・新井宏嘉(2006)組成データ解析の問題点とその解決方法.地質学雑誌,112,173-187.


 したがって,砂岩モード組成の三成分データ(例えば平均値とか)を通常の統計手法で解析したり,それらを三角ダイアグラム上にプロットして統計的傾向を見ることは,上記『組成データの問題』ページに書いた通り,厳密には誤りです.しかしそれは,“ありもしない傾向がはっきりと見えてしまう” といった致命的な結果をもたらすほどのものではないというのが,実際に組成データ解析手法をテストしてみての私の実感です.
 自己弁護するわけではありませんが...Aitchison の表現『混乱と解析方法の誤用』つまり “根本から間違っていたので全部やり直し!” の域には(幸いにも)達しておらず,“三成分の統計的傾向を見るときはこのことに留意しましょう” レベルのものではないかと思われます...やはり自己弁護でしょうか.


砂岩モード組成とテクトニクス場

 Dickinson et al. (1983) は,砂岩のモード組成,特に QFL 三成分が,その砂岩堆積場の造構環境と強い関連を持つということを指摘し,その『判別領域(discriminant domain)』を提案しました(右図).これはある意味,岡田(1970)の非成因的分類とは真逆のアプローチです.そのアプローチが正しかった(relevant)なものだったかどうかは私には分かりませんが,当時のプレートテクトニクスの隆盛と関連して非常に魅力的なものであったことは確かです.


Dickinson, W.R., Beard, L.S., Brakenridge, G.R., Erjavec, J.L., Ferguson, R.C., Inman, K.F., Knepp, R.A., Lindberg, E.A. and Ryberg, P.T. (1983) Provenance of North American Phanerozoic sandstones in relation to tectonic setting. Geol. Soc. Amer. Bull, 94, 222-235.


 下表は,Dickinson and Suczek (1979) による,各造構領域の特徴をまとめたものです.上の QFL 判別領域とは微妙に表現が異なっていますが,基本は同じですので,あまり気にしなくて良いと思います.
 今となっては非常に懐かしいもので,このような模式化が果たしてグローバルに妥当なものだったかどうかは,やっぱり確信がありません.


Dickinson, W.R., Suczek, C.A. (1979) Plate tectonics and sandstone compositions. American Association of Petroleum Geologist, 63, 2164–2182.


Dickinson and Suczek (1979) による砂岩の供給源とその特徴.リサイクル性供給源のサブカテゴリーは,上の三角ダイアグラムのものとは異なっているが対応関係は不明.

 例えばの話, “沈み込みコンプレックス” が『リサイクル性供給源』に入っているというのは,海溝充填堆積物が古い付加コンプレックス由来のリサイクルであり,そのためにQFL 組成が Qm-Lt 辺側に偏るという考え方です.これは,日本列島の付加体とは明らかにマッチしません.ちなみに,『前弧海盆堆積体』は “沈み込みコンプレックス” に含まれています.
 日本列島のような火山弧要素の強い造構場領域では,前弧海盆も海溝充填堆積体も,基本的に火山弧性(+大陸縁)供給源なので,『リサイクル性供給源』のこういう模式化にはどうも少しばかり違和感があります.北米で作られたスキームなので,まあ当たり前なわけですが.


ケーススタディ:渡島帯ジュラ紀砂岩のモード組成

 渡島帯は北海道西部のジュラ紀付加体です.その中に含まれる砕屑岩は,一般に陸源性の海溝充填堆積体と考えられます.つまり,その砂岩の砕屑物組成は,沈み込み帯前方に存在していた陸域の情報そのものです.上に書いたように,アジア大陸東縁に発達した島弧-海溝系に属する中生代の日本列島の場合は,基本的に島弧性砕屑物供給源を持つはずです.


渡島帯ジュラ紀砂岩の産状.上:江差コンプレックス下ノ沢ユニットのタービダイト互層.上ノ国町下の沢川.安田直樹氏撮影の写真を修復したもの.下:松前町折戸浜の厚層タービダイト砂岩層.

 まず渡島帯ジュラ紀砂岩の産状ですが,右写真に示すように,特に specific な点はなく,普通のタービダイト砂岩です.見た目も特に変わったところはありません.
 しかし,薄片を作製し顕微鏡で観察してみると,独特な岩石学的特徴を持っていることが分かります(下写真).


渡島帯ジュラ紀石英質砂岩.QZt: 石英岩粒子.ブルー・シェードの点滅でその外形を示す.Kf: アルカリ長石.薄片の横幅は約 3 mm.

 どんな特徴かというと,石英質(quartzose)であるということに尽きます.単結晶石英粒子が卓越することはもちろんですが,等粒状粗粒石英岩(QZt:左写真)が量は少ないながらも普通に見られます.アルカリ長石・斜長石粒子もかなりの量含まれていますが,岩石破片,特に火山岩粒子は非常に少量です.

 渡島帯砂岩中には,特殊な岩相としてチャート粒子を多量に含むチャート砂岩があります.しかし,チャート粒子を除いたその残りの部分は,他と同様な石英質砂岩です.

 これらの砂岩の QFL モード組成は下図のようになっています.チャート砂岩(乙部地域)も測定していますが,プロットからは除いています.


渡島帯ジュラ紀砂岩の QFL モード組成.安田直樹氏の測定による.マウスオーバーで白亜系前弧海盆堆積体蝦夷層群の砂岩モードプロット(望月 貴・藤本樹快氏測定)を表示する.

 特徴として,岩石破片(Lt)に非常に乏しく,Qm-F 辺に近いところにプロットが集中しています.Qm/F 比はほぼ 1:1 ですが,より Qm に富んだものも多く見られます.

 Dickinson らの造構場区分で言うと,『大陸性供給源』の “上昇基盤”から “クラトン内部” との遷移領域に入っています.上で示した等粒状石英岩粒子は,おそらく正珪岩(オルソクォーツァイト:orthoquartzite)起源と推測され,その供給源が大陸性であることを強く示唆しています.
 このような組成特徴は,例えば『火山弧性供給源』に大部分がプロットされる白亜紀前弧海盆堆積体蝦夷層群の砂岩とは大きく異なったもので,渡島帯ジュラ紀砂岩の大きな特徴です.

 この大陸性供給源の意味については,のちに述べる全岩化学組成(特に SiO2 量)と砕屑性ザクロ石組成とジルコン年代でさらに明瞭となっていきます.


砂岩の全岩化学組成

 全岩化学組成(bulk-rock chemical composition)とは,岩石全体の “平均的な” 化学組成を指します.“平均” を得る手法としては,岩石試料全体を破砕・粉末化し,それを十分に混合・均質化した上で,その一部についての化学分析を行います.粉末化する岩石試料の量は通常,数百 g ~ 1 kg 程度です.

 火成岩のような “岩石学的な系” を有するものであればその全岩化学組成は大きな意味を持ちます.例えば,玄武岩質マグマから急冷固結した玄武岩の組成は元のマグマの組成を “ほぼ” 反映しているでしょう.しかし砂岩の場合はどうでしょうか?
 砂岩は端的に言って『無系統的(non-systematic)な物質の雑多な集合体』です.それぞれの構成要素は堆積作用によって無秩序に混合・選別された結果であり,互いになんの成因的関係もない場合もあります.このような岩石の全岩化学組成がどんな意味を持ち得るかというと,『供給源地質体の造構場的性格を(確率的に)反映している』の一択ではないかと思われます.

 以下では,このようなことを踏まえたうえで,砂岩の全岩化学組成について述べてみたいと思います.


※ ちなみに私の知る限り,このような検討は 2000 年前後に日本国内で検討されたのみで,それ以降国内/国外問わずフォローされることはほとんどなかったと記憶しています.Bing/Google で “砂岩の化学組成”・“sandstone chemical composition” を検索してみると,君波・公文総研関係か 1960 年代の Middleton/Pettijohn のものしかヒットしてこない...その理由は,上に書いたような砂岩の全岩化学組成というものの “岩石化学的曖昧模糊さ” から来ているのかもしれません.


SiO2

 下の図の背景にある青色のヒストグラムは,君波総研後に参加者に配布された日本列島の砂岩の全岩化学組成データ(以下,“君波総研データ” と呼ぶ)から,その SiO2 量の頻度を求めたものです.
 君波総研データは非常に貴重な砂岩組成データベースで,それについてこのような統計処理をしたのは私だけではなかったと思いますが,こういったものに言及した研究者は他にいませんでした.私は,“日本列島の砂岩はこうなっていたのか!” と非常に驚きましたので,『あまり関心を持たれないことなのかな?』とちょっと不思議でした.その後の公文総研総括の地質論集に投稿した川村ほか(2000)と川村・藤本(2000)の両方でこの頻度図を出させてもらいました.


砂岩の SiO2 量頻度ダイアグラム.注)頻度階級の幅は 2 % なので,5 % 刻みの横軸目盛りとは合致していない.

 で,この頻度図で何が見えているのかというと,『日本列島の砂岩の SiO2 量はバイモーダルである』ということです.だいたい 65 wt% と 78 - 80 wt% のところに明瞭な二つの頻度ピークがあります.前者が “世界の通常の砂岩” の組成頻度ピークにほぼ対応します.後者はそれに対して,考えられないほど SiO2 量が多量であり,私はこれを『High-SiO2 peak』と名付けました.
 High-SiO2 peak を構成しているのは,付加体:丹波帯・四万十帯・北部北上帯・渡島帯,前弧海盆堆積体:和泉層群・蝦夷層群,の各地質体の砂岩です.その他に,少し性格が異なりますが,手取層群と相馬中村層群の砂岩もこのピークに属しています.なぜこれらの砂岩で SiO2 量が異常とも言えるほど多いのかというと,言うまでもなく石英粒子に富むためですが,地質体によっては珪長質火山岩由来の石英粒子・火山岩粒子に富んでいるのが要因となっているものもあるようです(例えば;四万十帯).それ以外にも,チャートや珪質泥岩など SiO2 の多い岩石破片に富むという理由もあるでしょう.つまり High-SiO2 peak の要因は必ずしも単一ではありません.

 私達の検討した渡島帯ジュラ紀砂岩(分析者:安田直樹氏)を赤紫のヒストグラムで示します.SiO2 量の最頻値ピークは,High-SiO2 peak よりもさらに大きい 80 - 82 wt% のところにあり,日本列島の付加体の中ではもっとも SiO2 量 の高い砂岩となっています.
 黄色ヒストグラムで示した蝦夷層群砂岩(分析者:藤本樹快・望月貴氏)の SiO2 量の最頻値ピークも High-SiO2 peak に重なっていますが,ピーク位置は僅かに低い側にあり,75 wt% 前後です.特に蝦夷層群下部層準の砂岩は, SiO2 量が高い傾向が見られます.しかし,前に示した QFL モード組成では蝦夷層群砂岩は渡島帯ジュラ紀砂岩の集中領域とはまったく異なった Lt-rich な部分に集中しています.蝦夷層群砂岩に含まれる岩石破片が,安山岩-玄武岩質火山岩に乏しく,チャートなどの珪質岩と珪長質火山岩類が卓越することが要因と考えられます.


酸化物組成

 岩石の全岩化学組成は,いくつかの特定の酸化物の重量%で表現されます.砂岩は上に述べた通り,岩石化学的には “雑多な集合体” ですが,その酸化物量の中には一定の特徴が見られる場合があります.以下では川村・藤本(2000)を基にして,北海道の白亜紀前弧海盆堆積体蝦夷層群砂岩の酸化物組成特徴について述べたいと思います.


蝦夷層群砂岩全岩化学組成におけるアルミナ-アルカリ金属酸化物量.分析者:藤本樹快・望月 貴氏.幌加内地域砂岩組成は君波ほか(1992)による.

 右のグラフは,アルミナ-アルカリ金属酸化物: Al2O3 - (Na2O+K2O) 量の関係を示したものです.全体に弱い正の相関(決定係数:約 0.7)を示しています.回帰直線は蝦夷層群下部層準の一部について示したものですが,その傾きは約 1.4 です.この相関関係は,両軸の酸化物を含む鉱物,斜長石(アルバイト)とアルカリ長石の増減によるものと考えられます.アルカリ金属酸化物の “平均的な分子量” を計算しアルミナの分子量との比を求めると 1.3 になり,その推測にある程度マッチします.Ca斜長石(アノーサイト)の寄与は,CO2 を定量していないため CaO 量からは見積もれません.約 4.7 という切片の値がその寄与(の一部)を示していると思われますが詳細は分かりません.
 なお,君波ほか(1992)による幌加内地域の蝦夷層群中部層準砂岩は,下部層準砂岩の回帰直線からはかなり離れた分布を示しています.これは,アルミナを含みアルカリ金属酸化物を含まない要素,つまり緑泥石のような苦鉄質粘土鉱物の寄与を示しています.上の述べた切片の一部もそうなのかもしれません.


※ アルミナ-アルカリ金属酸化物の相関関係が長石量にあるという推測は『モード組成で長石量を見れば(ある程度)分かるだろう?』と言われそうですが...実は同一サンプルについてその両方を測定しているとは限らず,なおかつ両者の比較には形式の異なるデータを一つ一つ突き合せる必要があり,やっていません.なにかうまい lookup の方法を思いついたらやってみたいとは思っていますが.


蝦夷層群砂岩全岩化学組成におけるマグネシウム-鉄酸化物量.分析者は上図に同じ.

 次に,マグネシウム-鉄酸化物: MgO - total Fe2O3 の量を見ると,やや強い正の相関関係(決定係数:約 0.8)が認められます(右図).蝦夷東帯中部層準砂岩については決定係数が 0.45 と低いのですが,これは MgO 1 wt% 近辺に三つある “外れ値” の影響でしょう.それ以外のデータの決定係数は 0.8 程度なのではないかと思われます.
 回帰直線の傾きは,中部層準(幌加内地域を除く)と下部層準ではやや異なっており,前者で 0.2 前後,後者が 0.45 です.つまり,後者で Fe/Mg 比が有意に高いということになるわけですが,その意味は不明です.
 これらの砂岩には単斜輝石やホルンブレンドなどの苦鉄質鉱物は含まれていないので,Fe-Mg は苦鉄質火山岩やその中の苦鉄質鉱物の変質で生成した緑泥石等の粘土鉱物に含まれていると考えられます.それが特定の Fe/Mg 比を持っており,しかもその比が層準によって異なっているということの意味は私には no idea です.単純に考えれば供給源岩である苦鉄質火山岩がそういう全岩組成を持っていることの反映であるということも当然考えられるわけですが,さてどうなんでしょうか? 蝦夷東帯中部層準砂岩の全 Fe2O3 量 5 - 6 wt% というのは通常の砂岩としてはかなりの量に見えるので,風化・変質などなにか別の要素が関係しているのかもしれません.


君波ダイアグラム

君波ダイアグラム.

 『君波ダイアグラム(Kiminami Diagram)』(君波ほか,1992)は,ある意味 1990-2000 年代の日本の堆積岩石学による “金字塔” です.それまでこのような視点で砂岩の化学組成を見た例はおそらくなく,秀逸な視点でした.なお,“君波ダイアグラム” というのは皆がそう呼んだという俗称で,君波ほか(1992)自身では,単に縦横軸の酸化物名を付した『判別図』とだけ書かれています.それを改訂した君波ほか(2000)では『Bl 図』とだけ.


君波和雄・公文富士夫・西村年晴・志岐常正(1992)火成弧に由来する砂岩の化学組成.地質学論集,no. 38, 361-372.

君波和雄・公文富士夫・宮本隆実・鈴木茂之・竹内 誠・吉田孝紀(2000)日本列島のペルム紀〜白亜紀砂岩の改訂Bl 図と後背地の造構場.地質学論集,no. 57,9- 18.


 君波ダイアグラムは,縦軸に Al2O3 / SiO2,縦軸に B.I. : Basicity Index = (FeO+MgO) / (SiO2+K2O+Na2O) を取ったものです.
 縦軸はアルミナ・シリカ比で,単純に言うと長石/石英比ということになるので,基本的には砂岩の成熟度を示す指標です.原点に近いほど成熟度が高いことを示しています.
 横軸は Basicity Index という名前(直訳すると塩基性度)が示すように,苦鉄質成分と珪長質成分の比です.原点から遠いほど苦鉄質ということになります.

 このダイアグラムで砂岩の何が判断できるのでしょうか? 島弧性供給源と限定した上で『CA&DA: Continental Arc and Dissected Arc』『EIA: Evolved Island Arc』『IIA: Immature Island Arc』起源を示す三つの判別領域が設定されています.非常に単純な言い方をすると,それぞれ『流紋岩~デイサイト質』『安山岩質』『玄武岩質』の島弧火山性供給源に対応したものと言えるでしょう.
 ただし,縦軸の “判別度” は領域境界線の傾きを見ると分かるように横軸に比べて低く,例えば同一の B.I. を持ったものが Al2O3 / SiO2 比の大小によって判別できるという場面はほぼありません.

 君波ほか(2000)での改訂は,横軸の B.I. 中の FeO の代わりに total FeO,つまり FeO + Fe2O3 を FeO 換算した値を使用したというものです.その背景は,君波ほか(2000)には XRF 分析法の普及により湿式滴定法による FeO 定量を必須とするのは適当ではない,とされています.個人的には,Fe2O3 を “二次的成分” として苦鉄質成分からすべて除外してしまう根拠が不明瞭だったということもあるのではないでしょうか.


※ これは君波ダイアグラムの問題というわけではありませんが...個人的には,三つの判別領域を規定する基になったデータの “単一性” がすこし気になります.それは,EIA と IIA ですが,その元データは前者が蝦夷層群中部層準と思われる幌加内地域の砂岩,後者が日高帯東部の湧別層群砂岩という,それぞれ一つの地質体によって規定されています.したがって,それらがその供給源環境を代表するものであるかどうかは,なかなか微妙なところです.欲を言えば,三つか四つは欲しかったところです.


渡島帯ジュラ紀砂岩の君波ダイアグラム.分析データの出典は図中に示した.

 右図に,渡島帯ジュラ紀砂岩の全岩化学組成の君波ダイアグラムへのプロットを示します.渡島帯砂岩は著しく石英長石質なモード組成を示し,Dickinson 等の判別図で “大陸性供給源” の領域に入ることは,既に述べた通りです.
 君波ダイアグラムにおいてもその特徴は如実に現れており,CA&DA 領域からさらに原点寄りの『より成熟した珪長質砂岩』であることを示しています.そのことから,私は CA&DA 領域のさらに原点寄りの部分を『CD: Continental Domain』と勝手に呼んでいます.これが DA: Dissected Arc ということでも構わないのですが,渡島帯ジュラ紀砂岩の供給源は,仮に深部まで開析していたとしても島弧(island arc)と呼ぶにはどうもそぐわないような気がします.


蝦夷層群砂岩の君波ダイアグラム.分析データの出典は図中に示した.

 右に示したのは,白亜紀前弧海盆堆積体蝦夷層群の君波ダイアグラムです.実は蝦夷層群という層序単元は,分布地域間の層序対比がいまだに明らかにはなっておらず,図中にある中部や下部といった表記は特に意味のある層序学的解像度を持ったものではありません.したがって,『蝦夷層群全体としてどうなっているか?』と見て欲しいと思います.

 蝦夷層群砂岩は全体として CA&DA 領域内にプロットされます.一部は私が勝手に作った領域 CD にまたがっています.この特徴は,上に述べた SiO2量の特徴や,石質岩片に富み Dissected Arc 領域に集中域を持つ QFL モード組成の特徴ともよく一致します.
 なおデータをよく見ると,『蝦夷層群中部層準(シューパロ湖)』とした砂岩の組成は,君波ダイアグラムの判別領域の下限を越えた(= Al2O3 / SiO2 比の小さな)場所に有意にプロットされています.この意味については,後の項で述べたいと思います.


判別分析

 『判別分析(Discriminant Analysis)』は,複数の変数からなるデータ群があって,それらがいくつかのカテゴリーに属している場合,各カテゴリーを変数によって判別する方法を探索する統計分析法です.
 私は川村・藤本(2000)の中で,蝦夷層群砂岩についてこの判別分析結果の紹介を行いました.しかし,統計学に対する勉強が不足しており,自分自身認識不足の点があったことは否めません.その欠点は今もそのままなのですが,『地質学にとって有効な解析法』と思われるこの手法について,自爆覚悟でもう一度 revisit してみたいと思います.


STATISTICA による判別分析結果を変量1と2の散布グラフにしたもの.
判別分析によって得られた係数と定数.変量の計算方法を図下に示す.

 右に示したのは,蝦夷層群・渡島帯砂岩について判別分析を行ってみた結果です.使用したソフトは,今は亡き StatSoft 社の STATISTICA 6 というものです.
 分析に使用した変数は,SiO2・Al2O3・Fe2O3・MgO・CaO・Na2O・K2O・TiO2 の六つの酸化物量です.川村・藤本(2000)では,これらに加えて P2O5 も使用していますが,主要酸化物ではなくその意義も必ずしも明らかではないので外しています.
 データのカテゴリーは,①蝦夷層群下部層準・②蝦夷層群中部層準・③同幌加内地域・④渡島帯の四つです.幌加内地域の砂岩は,上に述べた君波ダイアグラムで『EIA 領域』を規定しているものですので比較のために加えてみました.

 判別分析の結果は,予想通りのところと予想外のところとが半々です.まず,上の四つのカテゴリーは,変数1と2のプロット図上で判別できます.しかし,②と④の領域はかなりの範囲で重なっています.①と②が明瞭に判別できたのは予想通りですが,④が(予想していた①とではなく)②と似通った領域を持っているというのは,まったく予想外でした.変数の他の組み合わせ(例えば変数1と3)で見ても本質的に変わりはありません.これは上で紹介した君波ダイアグラム上の特徴とはかなり異なっていますが,どのような要因・意味を持つのかは今のところ不明です.


所属未知の砂岩(千呂露地域の蝦夷層群:青丸・シェード)を判別した例.

 次に,判別分析で各カテゴリーのデータ領域が分かった段階で,それを『所属未知の砂岩の所属先推定に利用する』ことが重要なポイントになるでしょう.それが本来の目的(の一つ)です.
 右図に示したのは,蝦夷東帯に属する千呂露地域の蝦夷層群砂岩の組成からその所属を推定してみたものです.この地域は構造が複雑で層序的に不明な点が多いところです.川村・藤本(2000)に書いたように,その岩相から蝦夷層群中部層準と一般に思われてきました.しかし全体に逆転していて直下に空知層群緑色岩類が分布するなど,下部層準という可能性も捨てきれません.要するに層準不明ということです.
 この砂岩の組成を,変量1-2のグラフにプロットしてみると,下部層準のプロット領域の上部にオーバーラップしています(図中の青色シェード部).さらに,四つのカテゴリーのどれにどのくらいマッチするかという “事後確率” で見てみると,下部層準カテゴリーにほぼ 100 % の確率でマッチしていました.
 もちろんこの “変量” は,単に全岩化学組成の特定の酸化物量から導かれたものですし,そもそも砂岩組成のどの成分の寄与によるものでどんな岩石学的な意味を持つのかは結局よく分かりません.つまり,この判別によって千呂露地域の砂岩が下部層準であることが『判明した』というつもりは毛頭ありませんが,有力な参考情報の一つになることは間違いないと思われます.


単層間・単層内分散

 これまで,砂岩の全岩化学組成を特に何の注意もなく扱ってきました.つまり,砂岩サンプルを採ってきて粉末にして分析すれば,それがその砂岩組成の代表値であると暗黙的に扱ってきたわけです.ある程度の均質さが保証されている火成岩ならばそれで良いかもしれませんが,ここで扱っている砂岩のほとんどは,たかだか単層厚 数十 cm のタービダイト砂岩層です.級化構造もあります.本当に岩石化学的に均質として良いのでしょうか?
 君波ほか(1992)では,『単層中における化学組成の変化』という章が設けられ,現世タービダイト堆積物の粒度と化学組成の関係が示されていますが,試料の多数を占めるタービダイト砂岩については具体的な組成バリエーションのデータは示されていません.また,砂岩分析試料を採取・調製するうえでのガイドラインがどこかにあったような記憶があるのですが,見つけることはできませんでした.


単層間・単層内分散の検証露頭.A:夕張市シューパロ川上流.蝦夷層群中部層準.B:日高町千呂露.蝦夷層群(層準不明).

 砂岩,特にタービダイト砂岩の全岩化学組成を検討する場合には,『単層内でどのような組成差があるか(=単層内分散)』・『検討空間(≒ 露頭)内のそれぞれの単層の間でどのような組成差があるか(=単層間分散)』をキャリブレーションの意味で検討・把握しておくことが必須の前提であろうと考えられます.

 そこで,白亜系蝦夷層群砂岩の二つの露頭を選定し,そこからのサンプル採取で以下の2点を検証してみました(右写真).

① 露頭内の複数の単層からサンプルを採取し『単層間分散』を検討する.

② 同一単層から複数のサンプルを採取し『単層内分散』を検討する.

 単層内分散については,君波ほか(1992)にあるような “層理面に垂直な方向の分散” の検討もあり得ますが,このケースでは単層厚が十分ではないため平面的な分散を検討することにしました.
 採取したサンプルは,すべて単層内下部の塊状無構造の部分で,級化部・葉理部はもともとあまり見られませんが,あった場合はそれを避けるようにしています.


単層間・単層内分散の検証結果.川村・藤本(2000)による.マウスオーバーで露頭ごとの “トレンド” を表示する.

 その分析結果を君波ダイアグラム上に示します(右図).なお,データ作成の時期(=2000年以前)の関係で,グラフは FeO量を用いた『旧君波ダイアグラム』となっています.

 まず驚かされるのは,全岩化学組成が『それぞれ単層ごとに異なったまとまりを持っている』ということです.つまり,同一露頭であっても砂岩単層の組成はそれぞれに異なっており均質性を保持していないということです.そのため,シューパロ川露頭でも千呂露露頭でも B.I. 値には最大で2倍の隔たりがあります.①ある単層内ではそこそこまとまっている,②二つの異なるセッティングの露頭の組成範囲は基本的に重なっていない,という2点は救いなのですが,ちょっと意外というか説明に窮します.

 次に,各露頭ごとの組成値は,君波ダイアグラムにおいて “緩い右上がりの線状分布” を示しています.この右上がりトレンドは,君波ダイアグラム自体の判別領域の伸びとほぼ同方向です.
 さらに,その右上がりトレンドのミニチュア版が,ほぼすべての単層で単層内にも認められます.例外はシューパロ川露頭の単層 V8-10 だけです.

 この検証結果はもちろん,『露頭から一つサンプルを採って分析しただけでは不十分で意味がない』ことを示すわけではありません.なにより,他の地域・地質体で遍く検証したわけではなく『砂岩の化学組成というもの』を代表しているわけでもありません.
 しかし,砂岩の全岩化学組成を検討する際は,このようなことを知り念頭に置いたうえで注意深く行う必要があるということだけは言えるでしょう.特に,同一露頭内での単層間の組成不均質性は,記載岩石学的には差異がないのでその要因が思い当たらず,砂岩研究者として十分にショッキングです.
右上がりトレンド』の意味については次の項で述べたいと思います.


組成シミュレーション

 “シミュレーション” というのは,かなり大げさな表現です.むしろ机上計算と言った方がよいのかもしれません.要するに,ある砂岩全岩化学組成に対して特定の組成を付加・除去すると組成がどのように変化するかを計算する,というだけのものです.全岩化学組成は重量比なので単なる足し算引き算で済み,あとはトータルを再計算する程度で簡単です.


鉱物付加・除去

 前章で示した蝦夷層群砂岩の全岩化学組成は,君波ダイアグラム上で二つの特徴を示しています.既に述べた①単層間・単層内両方で認められる右上がりのトレンド,および②シューパロ川砂岩で顕著な君波ダイアグラム判別領域下方への逸脱,の二つです.ここでは,これら二つの特徴について,特定の鉱物を付加・除去するシミュレーションによってその意味を探ってみます.


 まず,『右上がりのトレンド』ですが...Roser (1996) は,おそらく海外研究者で君波ダイアグラムにコミットした(たぶん)唯一の研究者と思われますが,彼はこの論文の中で君波ダイアグラム上で右上がりの “トレンド” を認識し,原点方向を “成熟度の増大”,その逆方向を “hydraulic fractionation” によるものとしました(右図).後者は日本語訳はありませんが,『水力学的分化』といったところでしょうか?
 ちなみに彼はオーストラリア出身の地質学者ですが,キャリア初期に Roser and Korsh (1986) という砂岩化学組成を扱った有名な論文を書いています.


Roser, B. (1996) Sandstone geochemistry, provenance, and tectonic setting: 2 - Effects of grain size on the Al2O3/SiO2 - Basicity Index diagram, and application to recycled and medium-grade metamorphic terranes of New Zealand. Earth Sci. (Chikyuu Kagaku), 50, 238-250.

Roser, B. and Korsch, R. (1986) Determination of tectonic setting of sandstone-mudstone suites using SiO2 content and K2O/Na2O ratio. Jour. Geol., 94, 635-650.


 Roser (1996) は,オーストラリアの地質体に見られるこの右上がりトレンドを堆積時分化による苦鉄質粘土鉱物の増加で説明したわけですが,同じトレンドを持つ君波ダイアグラムの判別領域は,もちろん堆積時分化ではなく,苦鉄質成分に富んだ供給源の特徴を反映した一次的なものです.しかし,両者はもしかすると結果として同じ意味を持つものなのかもしれません.


緑泥石の付加・除去シミュレーション.川村・藤本(2000)による.

 そういう観点から,このトレンドの要因を説明するために,砂岩組成に苦鉄質粘土鉱物の代表として緑泥石成分を仮想的な出発組成に対して付加・除去してみるというシミュレーションを行いました(右図).
 緑泥石(chlorite)は非常に複雑な化学式を持つ鉱物なので,単純化するためにアメサイトを用い,かつその中の MgO・FeO分子数が等しい組成式:Mg4Fe4Al8Si4O20(OH)16 という条件を設定しました.この組成式はある意味 “非現実的なもの” ですが,大まかな挙動さえ分かればそれでよいので,必要以上にシミュレーションを複雑にしないという考え方です.
 その結果は非常にクリアなもので,緑泥石の付加・除去によって君波ダイアグラム上でゆるい右上がりのトレンドが得られました.これは,“hydraulic fractionation” や前章で示した “単層間分散” のトレンドに非常によくマッチしています.


アルバイトの付加・除去シミュレーション.川村・藤本(2000)による.

 次に,同様な手法で “君波ダイアグラム判別領域からの下方逸脱” を検証してみました.結論から言うと,『アルバイトの除去』がこの挙動の要因として一番効果的でした(右図).実際の砂岩中の斜長石の組成(アルバイト成分量)は不明なので,単純化のためアノ―サイトは無視しています.
 『石英の付加』『オルソクレースの除去』もシミュレートしてみましたが,前者はグラフの原点方向のトレンドになるため,さほど効果的ではありませんでした.また後者はアルバイトの除去とほぼ挙動が同じでした.つまり,この逸脱の要因として『長石類の除去』がもっとも支配的と考えられます.“除去” というのは人為的なニュアンスがあるので言い換えると,長石類に欠乏している,ということになるのではないでしょうか.長石類の欠乏は熟成度の増大ということになるわけですが,石英はそれほど増えていないといった状況が考えられます.それが具体的にどういった堆積テクトニクス上の意味を持つのかは,よく分かりません.


混合供給

 蝦夷層群下部層準砂岩については,従来から “石英に富んだ” というイメージ(e.g. 富問砂岩)がありますが,実際にその全岩化学組成を検討してみると,そのイメージよりもはるかにバリエーションに富んだ組成を持っていることが分かりました(望月,2004MS).


望月 貴(2004MS)白亜紀前弧海盆堆積体下部蝦夷層群の砂岩組成-アジア大陸縁白亜紀前弧海盆堆積体の砕屑物供給-.北海道大学大学院理学研究科修士論文.


 このバリエーションは,君波ダイアグラム上でよく見ると,① (CD ~) CA&DA 領域上部のクラスターと,② EIA 領域まで広がる広いトレンドを持ち判別領域の下限をはみ出しかけているもの,の二つがあることが分かります(君波ダイアグラムの項参照).
 もちろん,蝦夷層群下部層準はそんなものなのかもしれないし,そもそもそういった層準認識に問題がある(=異なる層準のものを誤認している)可能性も否定できません.

 しかしここでは,この “単一層準の砂岩とは思えない” ような組成の広さについて,ある大胆な仮説を立ててみました.その根拠というか材料は...①下部層準砂岩は渡島帯砂岩と似通った粗粒石英長石質な特徴を持つ,②渡島帯と空知-エゾ帯との間には前期石炭紀火山弧である礼文-樺戸帯が存在する,の2点です.このことから導いた仮説が,蝦夷層群下部層準砂岩の砕屑物供給は渡島帯と同一の大陸性供給と礼文-樺戸帯からの火山弧性供給とが混合したものではないか?というものです.


渡島帯砂岩組成と礼文-樺戸帯玄武岩の混合シミュレーション.望月(2004MS)のデータをもとに川村が計算・図化を行ったもの.

 そこで,上に書いた鉱物付加シミュレーションと同じ手法を用い,『大陸性供給』を渡島帯砂岩組成で,『火山弧性供給』を礼文-樺戸帯のソレアイト質玄武岩の組成でそれぞれ代表し,両者を混合するとどのような砂岩組成になるかをシミュレートしました.その結果を右図に示します.
 まず,君波ダイアグラム上で右側に広がる組成分布は,大陸性:火山弧性 = 2:1 の混合で充分作れることが分かります(緑矢印).それだけではダイアグラム下方への逸脱が説明できませんが,アルバイトの 20 % の除去(グレー矢印)で説明できます.
 前項で書いたように,“除去” とは堆積岩石学的にどういった現象を示すのかという疑問は残りますが,『蝦夷層群下部層準=大陸性供給源(渡島帯)+火山弧性供給源(礼文-樺戸帯)』という混合供給源の大まかな図式が十分に示されていると思われます.


“砂岩ノルム”

 この項は,“こういうことをやったらこういう成果が得られた” という類の話ではありません.模索してはみたが,結局うまくいかず諦めたという話です.論文などには絶対に書けないことですが,本アーティクルは論文ではありませんので.

 『ノルム組成(norm composition)』とは,モード組成の対語のようなものですが,一般に火成岩の化学組成を特定のノルム鉱物にあてはめてその量比で表わしたものです.実際の鉱物組成とは異なるので,例えばノルム石英が含まれていても実際に石英結晶が含まれているとは限りません.これは(おそらく)完晶質ではない火山岩などの岩石の鉱物組成を “正規化” して表現するための手法と思われます.

 砂岩は,雑多な物質の集合体なのでその組成をノルム鉱物の形で表現すればより分かりやすくなるのではないか.そういうことは誰もやっていない...それが『砂岩ノルム』を考えてみたきっかけです.私には難しすぎて結局うまくいきませんでしたが.以下はその単なる記録です.


 まず,砂岩のノルム鉱物をどうするかを考えてみます(右表).通常の付加体-前弧海盆の砂岩で輝石・角閃石・カンラン石などの苦鉄質鉱物を含むことはそうそうないので,入れていません.その他は常識的なところですが,砕屑性堆積岩なので炭酸塩鉱物(方解石)と酸化鉄鉱物を入れています.磁鉄鉱は緑泥石とのからみが問題なので外しています.なにしろ砂岩ですから粘土鉱物を外すわけにはいきませんので.苦鉄質/シアル質粘土鉱物として,緑泥石と白雲母で代表しています.
 一番頭の痛いのは緑泥石です.砂岩には細粒基質や火山性砕屑物の変質物として普通に含まれていますが,その化学組成(・化学式)は非常に複雑なものなので,とてもノルムという単純化したスキームに入るのは難しい点があります.そこで,現実からは乖離するかもしれませんが,アメサイトとし Al の置換も無い極限まで単純化したものに思い切っています.

 肝心の分配法ですが...難しい.とても CIPW ノルムのようには行きません.とにかく私の頭で可能な単純な分配としています(右表).( )内に入っている酸化物は,それぞれの分配時に消費されるものを示します.


 これで良いものかまったく分からないので,とりあえずテスト的に蝦夷層群砂岩と渡島帯砂岩の SiO2 量の似通ったものを一つずつ適当に選んでノルム計算をやってみました(右表).岩石化学的な根拠はまったくないのですが,緑泥石中の Fe/Mg 比は全岩組成中の Fe/Mg 比で単純配分することにしています.また,渡島帯砂岩では CO2 を定量していないので,LOI を適当に 2:1 で H2O と CO2 に割り振っています.
 実際にやってみると想定外の事態だらけでした.H2O が足りなくなって Fe2O3 が余ってしまい急遽赤鉄鉱をノルム鉱物に加えたり,斜長石に割り振る Al2O3 が無くなってしまったり,CO2 がまだ残っているのに CaO を使い切ってしまったり...つまり,どこかに無理・間違いがあるんでしょう.
 あと,計算は Excel で行いましたが,条件判断が多いので処理が定型化できず非常に複雑面倒になってしまいます.やってませんが,なんらかのプログラミング言語で書いた方がすっきりとすると思います.

 テスト結果のノルム組成ですが,数字は出たものの,たった2ケースですので,これで砂岩化学組成の何が記述できているのかは,まったく分かりません.全然間違っているかもしれませんし.
 しかし,同じような SiO2 量なのに蝦夷では orthoclase が出てこないとか,渡島では anorthite が出てこないとか,なんだかそれなりに reasonable なところ(?)も見られます.

 とりあえず,こういったところです.私がこれを今から更に結果を増やして追究していくなどということは...残念ながらまったくあり(得)ません.


砕屑性重鉱物

 “重鉱物(heavy minerals)” とは比重 2.8 (- 2.9) 以上の鉱物を指します.つまり通常の造岩鉱物としては石英・長石類以外はほぼ全部が重鉱物ということになりますので,あまり意味のある表現ではないかもしれません.この項では,砂岩中に含まれるいくつかの砕屑性(detrital)重鉱物から得られるデータについて述べたいと思います.


ザクロ石組成

 砕屑性ザクロ石組成は,少なくとも国内では 2000 年頃までかなり流行した研究テーマです.竹内(2000)にその意義が良く理解できるレビュー的なまとめがあります.


竹内 誠(2000)砕屑粒子の化学組成からのメッセージ:砕屑性ザクロ石の化学組成に基づく後背地解析と東アジアの地殻変勦.地質学論集,第57号,183-194.


渡島帯砂岩中砕屑性ザクロ石の (Gr+Sp)-Py-Alm 組成.川村ほか(2000)より.分析者:安田直樹.

 右図は,渡島帯ジュラ紀砂岩中の砕屑性ザクロ石組成です.川村ほか(2000)に掲載した図ほぼそのままで,あえてモノクロのままにしています.三角ダイアグラムは私自作の TER_DGM で作成したものを基にしています.


※ 当時の修士課程院生だった安田直樹さんの EPMA 分析によるものです.ザクロ石組成を検討するきっかけとなったのはもちろん岩石薄片中にザクロ石が認められたからですが,薄片断面中にザクロ石が出現するのは当然のことながら確率が低く,測定数を稼げません.そこで,岩石を粉砕して重液分離を行い,さらにそれをハンド・ピッキングして封入試料にし EPMA 分析のための研磨を行う,という大変な作業が必要です.安田さんは私の研究室でのこの分野の先鞭を付けた方です.彼無しでは以降の検討は無かったでしょう.


 で,この組成図から言えることはあまり多くはありませんが,Py-Alm 辺と (Gro+Sp)-Alm 辺との間に組成ギャップがあって二つのクラスターを形成しているようにも見えます.地質コンプレックス・ユニットによる差異は特に無いようです.
 しかし一番重要なポイントは,Py 分子比が 30 % を越える部分に大量のデータがプロットされているということでしょう.明確な判断基準は無いようですが,一般に Py 分子比が 30 % を越えるザクロ石は,比較的高変成度のグラニュライト相変成岩から由来したものとされています.現在の渡島帯(~北部北上帯)周辺に先ジュラ紀のグラニュライト相変成岩はもちろん存在しませんので,このザクロ石組成は『先カンブリア紀高度変成コンプレックスの分布する西方の大陸地域から供給された可能性が高い』という推論を導きます.この推論は,後に述べる砕屑性ジルコン年代によって証明されました.


渡島帯・蝦夷層群砂岩の砕屑性ザクロ石の組成.渡島帯砂岩は川村ほか(2000)分析者:安田直樹,蝦夷層群砂岩は今津(2017MS)による.クリックで表示を変更する.戻るときは Shift+クリック.

 その後 2015 年になって,今津M論で白亜紀前弧海盆堆積体蝦夷層群の砕屑性ザクロ石をやっと検討することができました.蝦夷層群の砕屑物供給は,既に述べたように渡島帯と同一の大陸性供給に加えて,前期白亜紀までに出現した礼文-樺戸島弧からの火山弧性供給が混在していると考えられます.

 右図は,渡島帯砂岩-蝦夷層群下部層準-同中部層準の砂岩中の砕屑性ザクロ石の組成を Pyp - (Alm+Sps) - (Gro+And) 三角図上で示したものです.図のクリックで表示が変更されます.三角図端成分の取り方が上の渡島帯のものとは異なっていますので注意してください.
 これで分かるように,渡島帯と蝦夷層群下部との間にはほとんど組成差は認められません.わずかに蝦夷層群では Ca-rich な側にデータの散在があります.中部層準でも基本的な組成範囲は同じですが,Ca 頂点付近にプロットされるものがいくつか出てきます.
 これらの意味するところはなかなか難しいのですが,①蝦夷層群砂岩の基本的な供給は渡島帯と同じ大陸性のもの,②中部層準になって渡島帯の前期白亜紀深成活動の影響が出てきている,ということでしょう.火山弧性供給の中にはザクロ石は無いかあってもごく少量なので,その供給はほとんど反映されていないものと思われます.


渡島帯-蝦夷層群砂岩の砕屑性ザクロ石の Mg# 値の頻度ヒストグラム.頻度は比ではなく個数なので,渡島帯と蝦夷層群とで頻度軸のスケールが異なっていることに注意.データは,上の三角ダイアグラムと同じもの.

 右のヒストグラムは,Mg# = Mg / (Mg+Fe) の頻度を示したものです.Mg# のスケールは %値になっています.渡島帯と蝦夷中部層準では,Mg# =35 前後のところにグラニュライト相変成岩からの供給を示唆する不明瞭なピークがあります.蝦夷下部層準ではこのピークが見られませんが,その理由は不明です.それ以外は全体に,どこと言って特徴のない分散した分布になっており,砕屑性ザクロ石の起源が単一ではないことを現わしていると思われます.

 砕屑性ザクロ石の組成を扱っていると,誰しもが思うのが『その組成プロットから起源を判別できないか?』ということでしょう.
 国内研究者でそれを提案したのが,寺岡ほか(1997)の通称 “寺岡ダイアグラム” です.


寺岡易司・鈴木盛久・林 武広・川上久美(1997)大野川地域の中・古生界砂岩に含まれる砕屑性ザクロ石.広島大学校教育紀要,第1部,19,87-101.


“寺岡ダイアグラム”.クリックで各地質体の砕屑性ザクロ石組成を表示を変更する.戻るときは Shift+クリック.

 寺岡ダイアグラムは,ザクロ石の Mn-Mg-Ca 三角図上での判別領域です(右図).Mg 頂点側がグラニュライト領域というのはある意味当然ですが,Ca 頂点側に低温高圧型変成岩領域が設定されていることが,判別を期待する側には魅力的に映ります.
 このダイアグラム上に,上で示した渡島帯・蝦夷層群下部・蝦夷層群上部の砕屑性ザクロ石組成をプロットしてみると,その多くはグラニュライト領域にプロットされます.渡島帯砂岩では Mn 頂点付近に集中域がありますが,その意義は不明です.低温高圧変成岩領域にプロットされるデータも多少ありますが,実際そのような変成テレーンが供給源にあったかは,さすがになんとも言えません.


※ 実は正確な出典を失念したのですが,ある外国の論文に “ザクロ石組成に関する各種の源岩判別法を検証する” というのがあって,その結論は『ほぼすべて,判別には使用できない』というものでした.検証対象には寺岡ダイアグラムも入っていました.要するに,ザクロ石組成の温度圧力条件依存度はあまり高くなく,むしろ源岩のバルク組成に制御される点が大きい,というものだったと思います.しかし,Mg-rich=グラニュライトという図式に関してはまず大丈夫ということだったと.この論文は,もし見つけることができたら紹介したいと思います.砕屑性ザクロ石組成を検討した者にとっては,あまり元気の出る内容ではないのですが.


単斜輝石組成

 この検討は,砂岩中に含まれる苦鉄質斑晶鉱物粒子の組成からその供給源の性格を推定し,ジオテクトニックな意義を考察するというものです.砂岩中にそのような粒子が含まれるのはそんなに珍しいことではないのですが,実際に検討された例はあまり無いと思われます.北海道の新第三紀以前の地質体では,日高帯湧別層群・根室帯根室層群・空知-エゾ帯蝦夷層群などにそのような粒子が含まれていますが(君波ほか,1992 など),いずれも供給源が自明なので検討対象にはなっていません.

 ここで検討対象になった斑晶鉱物は単斜輝石です.なぜかと言うと,それ以外の斑晶鉱物で “tectonic signature” が検討されたものが無いからです.


戸井コンプレックスの模式柱状図.川村ほか(1997)の図を編集したもの.

 検討されたのは,渡島帯戸井コンプレックスの砂岩で,川村ほか(1997)で報告されたものですが,そのネタになったのは小澤 聡さんの卒業研究(1989)です.


川村信人・小澤 聡・亀山聖二・岩田圭示(1997)渡島帯東部,上磯・戸井コンプレックスに関する補足的データ.川村信人・岡 孝雄・近藤 務編「加藤誠教授退官記念論文集」,111-120.


 戸井コンプレックスは,渡島帯東部の付加コンプレックスで,見かけ上下位の尻岸内ユニット(混在相)と上位の唐川ユニット(砕屑岩相)から構成されます.両者の関係は構造的なもの(≒ 断層)です(左図).
 唐川ユニットは,層状チャートに始まる上方粗粒化を示すチャート砕屑岩シーケンスと,その上位の厚いタービダイトシーケンスからなります.それらの中に含まれる砂岩の大部分は通常の陸源(石英長石質)のものですが,両シーケンスの境界付近に特徴的な緑色砂岩層が挟在しています.緑色砂岩層近傍には安山岩ブロックを含む含礫泥岩転石が多数見られますが,その産状は不明で緑色砂岩との関係は不明です.


緑色砂岩の顕微鏡写真.上:単一ポーラー,下:直交ポーラー.小澤 聡氏採集・調製の薄片を川村撮影.

 緑色砂岩には,鏡下で大量の単斜輝石粒子が含まれていることが分かります(右写真).粒子にはプレッシャー・シャドウが生じているものがあり,全体に剪断変形を被っています.粒子は斜長石・単斜輝石および火山岩片です.斜長石は変質しており,干渉色の高いプレーナイトとアルバイトで置換されています.火山岩片は薄片下で珪長質な微晶質石基に見えるものが多く,安山岩質の可能性があります.
 単斜輝石は,結晶周縁や劈開に沿ってやや変質していますが,単一ポーラーで薄い緑褐色を示し干渉色もはっきりしたものです.

 付加体砕屑岩中にこのような未成熟な火山性砕屑物が含まれる場合,通常は『海溝斜面に付加した海山体由来』と考えるのが妥当なところです.その場合,砕屑物はほぼ玄武岩質のみとなるので,このケースにはちょっと当てはまらないように思われます.
 そこで,この単斜輝石の tectonic signature を得るために,EMPA で組成を測定してみました(分析者:小澤 聡).判別には,Leterrier et al. (1982) と Nisbet and Pearce (1977) による判別方法を用いました.


Leterrier, J., Maury, R.C., Thonon ,P., Girard, D. and Marchal, M. (1982) Clinopyroxene composition as a method of identification of the magmatic affinities of paleo-volcanic series.Earth Planet. Sci. Lett., 59,139-154.

Nisbet, E.G. and Pearce, J.A. (1977) Clinopyroxene composition in mafic lavas from different tectonic settings. Contr. Mineral. Petrol., 63, 149-160.


 Leterrier et al. (1982) の判別図では,Ti+Cr - Ca 図で “orogenic basalts”,“tholoeiitec basalts” と判別されました(下図).“orogenic basalts” というのは耳慣れない表現ですが,通常の表現をすると,『MORB・プレート内玄武岩以外』≒島弧玄武岩ということです.つまりこの単斜輝石は,『島弧ソレアイト』から由来した可能性が高いということになります.あくまでも,玄武岩以外の玄武岩質安山岩~輝石安山岩にも適用できるとすれば,という限定付きですが.


戸井コンプレックス唐川ユニット単斜輝石砕屑粒子の組成を Leterrier et al. (1982) の判別図にプロットしたもの.
唐川ユニット単斜輝石砕屑粒子の組成を Nisbet and Pearce (1977) の判別図にプロットしたもの.

 左図は Nisbet and Pearce (1977) による判別図です.これは前の章でも紹介した判別分析(discriminant analysis)で得られた判別関数によるもので,図中に示した式で判別関数を計算してプロットしています.式に定数項が無いのがちょっと不思議ですが,正規化係数ということなのかも.唐川ユニットの砕屑性単斜輝石は,島弧玄武岩および島弧玄武岩と MORB の共有領域の上部にプロットされます.これは上の判別結果とよく合致していると判断されます.

 ここで問題となるのは言うまでもなく,『これらの判別方法の妥当性』です.提案された時期(1970-1980 年代)がかなり古く,現在では他のもっと良い判別手法(微量元素とか)が出現しているかもしれません.また,上の判別方法は既にとっくに廃棄されているものかもしれません.残念ながら私はそれをまったくフォローできていないので,以下ではその推論が正しいと仮定して,唐川ユニット単斜輝石のジオテクトニックな意義について考察してみます.あくまでも仮定の話です.


北海道南西部~中央部の先新第三紀構造層序図.川村ほか(2000)などを基に編集.

 それを考える上で,まず唐川ユニットのジオテクトニックなあるいは構造層序学的な位置を理解しておく必要があります(右図).
 戸井コンプレックスは渡島帯東部に属し,渡島半島の中ではもっとも東側,つまりもっとも時代の若い付加体です.渡島帯の付加年代は主要には中期ジュラ紀ですが,戸井コンプレックスの付加年代は前期白亜紀まで若くなる可能性があるとされています.
 渡島帯の東側には前弧白亜紀火山弧である礼文-樺戸帯が存在します.その活動時期は,上限下限ともに不明です.また,その火山弧が『どんな地質体の上に形成された』のか,また当時の配列形態なども分かっていません.ここでは,当時も西から東へ渡島帯~礼文-樺戸帯~空知-エゾ帯が配列していたものとします.その場合,以下のような発達過程が想定できます.

① ジュラ紀付加体渡島帯の形成.

② ジュラ紀最末期~白亜紀最初期の海溝ジャンプによりトラップされた海洋プレートの上に蝦夷前弧海盆が形成される.

③ 非アクティブになった “渡島海溝” とその沈みこみ体は放棄され,前弧海盆中で埋積されていく.

④ 沈み込みにより前弧海盆西縁部に礼文-樺戸火山弧が発生する.

⑤ 沈み込みの進行に伴って礼文-樺戸島弧~渡島帯に前期白亜紀珪長質プルトンが大規模に形成される.


白亜紀前期の渡島帯~空知-エゾ帯テクトニックスキーム.川村(2010)を基に編集.

 この想定が成り立つ時,唐川ユニットのテクトニクスは,右図のように図式化できます.


川村信人(2010)地質体の形成モデル-ジュラ紀~前期白亜紀.日本地質学会(編集),日本地方地質誌『北海道』,朝倉書店,519-522.


 渡島帯東縁部の唐川ユニットは,はじめは海溝充填堆積体でしたが,海溝ジャンプによって前弧海盆域となりました.その中に礼文-樺戸島弧が出現したことにより,唐川ユニットの造構場は背弧域に転化し,西方からの陸源性砕屑物供給と共に東方からも火山性砕屑物供給を受けることになったのではないかと想像されます.それによって堆積したのが上で紹介した輝石結晶粒子を含む緑色砂岩というわけです.


ジルコン年代

 砂岩中の砕屑性ジルコン年代は,まさに up-to-date な手法・テーマで,現在砂岩の何かを研究するとしたらこれしかないのでは?と思われるほどです.その背景は,砂岩に限った話ではなく『堆積岩の堆積年代を直接知る方法は無い』からです.通常は化石による間接的な方法しかないので,“化石を(ほとんど)含まない” ような岩相・層準に対しては打つ手がありません.そのため,多くの堆積体が堆積年代『不詳』あるいは『不確実』ななままでした.そうすると,堆積盆や造構場の発達を考える際にも,時間軸上に大きな不確実性の谷間が生じてしまい,なかなか思うようには進みませんでした.

 砕屑性ジルコン年代は,その地層学的フラストレーションを大きく解消させてくれますが,“分析コスト” 以外にも,手法的制約が無いわけではありません.それについては最後に述べたいと思います.


先カンブリア紀年代

渡島帯ジュラ紀砂岩中の砕屑性ジルコン年代のコンコーディア図上のプロット.川村ほか(2000).
渡島帯ジュラ紀砂岩中の砕屑性ジルコン年代の頻度ダイアグラム.川村ほか(2000).“Density probability curve” は今回独自に計算したもので原著にはない.

 私の研究室で渡島帯ジュラ紀付加体の砕屑性ジルコン年代を出そうという動きがあったのは,なんと 1992 年のことでした.それに大きな役割を果たしたのが,故渡辺暉夫教授による提案です.
 サンプル採取とジルコン抽出作業は当時のM論生の安田直樹氏が行い,オーストラリアでの SHRIMP 分析実行は渡辺教授が行いました.年代値が得られたのは 1993-1994 年のことで,川村ほか(1994)でその学会発表を行っています.


川村信人・渡辺暉夫・Mark Fanning・安田直樹・寺田 剛・吉田孝紀(1994)渡島帯ジュラ紀砂岩中の砕屑性ジルコンの原生代 SHRIMP 年代.第101年学術大会(札幌)講演要旨,124.


 で,このジルコン年代で何が得られたかというと,『ジュラ紀の砕屑物供給源岩は先カンブリア系』という驚くべきものでした(右図).その当時すでに名古屋大学の足立守さんらによって美濃帯上麻生礫岩中の片麻岩礫が先カンブリア紀年代を示す(Shibata and Adachi, 1972 など)ことが報告されていましたので最初の発見というわけではありませんでしたが.
 年代値は,1860-70 Ma(前期原生代)に明瞭なピークを持ち,2400-2500 Ma(原生代最初期)にサブピークがあります.もちろんこのような年代の岩石は日本列島の内部にはありませんので,西方の大陸地域(南中国地塊?)から由来したものということになります.このことは,モード組成の項で述べた砂岩の石英質な特徴とよく一致します.また,時に含まれる石英岩粒子は,おそらく原生代後期~古生代初期の大陸性プラットフォーム堆積体中のオルソクォーツァイトに由来すると考えるのが妥当でしょう.


Shibata, K and Adachi, M. (1972) Rb-Sr and K-Ar Geochronology of Metamorphic Rocks in the Kamiaso Conglomerate, Central Japan. Jour. Geol. Soc. Japan, 78, 265-271.


※ なお,川村ほか(2000)で報告した渡島帯砂岩のジルコン年代測定値は 1400 - 2600 Ma の先カンブリア年代のみとなっています.これは今になってみるとある意味少し不思議で,堆積年代と考えられる 160 - 170 Ma(ジュラ紀中期)から古生代初期の年代値がありません.これは,実際そうだという可能性もありますが,測定や後処理の段階で人為的に omit された可能性もゼロではありません.筆頭著者がこう言うのもどうかと思われますが,当時はこれで堆積年代を出すという観点はなく,供給源年代しか頭にありませんでした.実際に年代測定とその後処理を行った渡辺暉夫教授が亡くなっていますので,確認は不可能となっています.


ハイエタスと上昇速度

 砂岩の砕屑性ジルコン年代の “使われ方” として,『堆積年代を求める』というのが現在の主要なものです.そこで私の研究室でも,北海道の白亜紀前弧海盆堆積体蝦夷層群のジルコン年代をわずかなものですが,機会を得て行ってみました.試料の採取は私も同行しましたが,ジルコン粒子の抽出と韓国基礎科学研究院(KBSI)での実際の測定は,M論生だった今津太郎氏によるものです.その結果は,今津ほか(2016)で学会発表されました.検討地域は,蝦夷層群の中に存在する中蝦夷不整合の見られる場所の中でも唯一,河川成基底層が露出する(Ueda et al., 2002)新ひだか町咲梅川(さくばいがわ)地域です.


今津 太郎・川村 信人・Keewook Yi・竹下 徹(2016)砕屑性ジルコンU-Pb年代から見た蝦夷層群中部層準基底不整合のハイエタス.日本地球惑星科学連合2016年大会,SGL37-P03.

Ueda, H., Kawamura, M. and Yoshida, K. (2002) Blueschist-bearing fluvial conglomerate and unconformity in the Cretaceous forearc sequence, south central Hokkaido, northern Japan: Rapid exhumation of high-P/T metamorphosed accretionary complex. Jour. Geol. Soc. Japan, 108, 133-152.


蝦夷層群中部層群の砕屑性ジルコン年代検討露頭.新ひだか町咲梅川.

 で,この堆積年代を求めた目的は,まず最初に『中蝦夷不整合の形成時期とそのハイエタス(下注)を見積もる』というものです.砕屑性ジルコン年代の測定対象は,咲梅川の 中蝦夷不整合の基底層 の比較的上部層準と思われる礫質砂岩の基質と砂岩礫です.
 本来は基底不整合直上の河川成砂岩と礫岩でやりたかったのですが,露頭とサンプルの状況が悪く無理でした.採取露頭(右写真)の岩相は浅海性というには淘汰が悪く炭質層も含みますので,おそらく河川・河口成のものかとも思われるのですが,詳細は不明です.
 これに加えて,蝦夷層群下部層準の模式地の一つである 芦別市奈江川下流部 の砂岩を,リファレンスとして測定を行いました.


注)ハイエタス(hiatus):chatGPT に『ハイエタスとは何ですか?』と質問してみると,ハイエイタスと変換され,気象・環境学的なものしか出てきません.英語で聞いてみても同じです.Wikipedia にもありません.コトバンクではハイアタスと表記され,要するに『地層記録の欠如』であるとされています.
 しょうがないので Glossary of Geology で見ると『A break or interruption in the continuity of the geologic record, such as the absence in a stratigraphic sequence of rocks that would normally be present but either were never deposited or were eroded before deposition of the overlying beds.』となっていました.訳すと,『地質記録における休止あるいは中断.例えば,通常存在すると期待される層序シーケンスが,その上位層堆積以前の無堆積や浸食によって欠如していること.』となります.
 蛇足:英語発音はハイエイタスだと思いますが,国内地質学界では伝統的にハイエタスと呼ばれていますのでそう表記しておきます.


ジルコン年代のすべての測定結果を頻度ヒストグラムにしたもの.測定者:今津太郎.相対確率カーブは川村が独自に計算したもの.
蝦夷層群中部層準基底相の砂岩基質と砂岩礫のジルコン年代.

 3試料の測定結果を頻度ヒストグラムにまとめたものを右図に示します.100 - 300 Ma 前後の中生代主体の年代クラスターが多数を占めていますが,1850 Ma 付近に顕著なピークがあります.この先カンブリア紀年代は,上に示した渡島帯ジュラ紀砂岩のそれとほぼ同じです.2100 - 2600 Ma の原生代初期の年代も数は少ないながらも認められます.このことは,蝦夷層群への砕屑物供給の少なくとも一部が渡島帯のそれと共通したものであることを示しています.

 次に,中生代の年代クラスターを詳しく見ると右図下のようになります.砂岩基質・砂岩礫ともに分布の強い集中はありませんが,砂岩礫は 130 Ma 前後にピークがあり,250 Ma 付近までになだらかに減少する分布をしています.砂岩基質は 110 - 120 Ma,180 Ma 付近に不明瞭なピークがあります.最若年代は前者が 125 ± 2 Ma,後者は 110 ± 3 Ma です.

 これらのことは,この礫質砂岩の堆積年代が 110 Ma で,砂岩礫の供給層の堆積年代が 125 Ma であることを示唆しています.つまり,中蝦夷不整合のハイエタス期間は約 15 m.y です.この点を模式図で示して説明したいと思います.


中蝦夷不整合のハイエタスの模式図.

 中蝦夷不整合は蝦夷層群分布地全体の中ではローカルな現象です.ここでは,中蝦夷不整合が存在する地域に話を限定します.
 まずエゾ海盆に 125 Ma のタービダイト砂岩層が堆積します.これがハイエタスの開始点です.タービダイト堆積盆ですから,そんなに浅い海ではありません.砂岩層は埋没していきますが,その後海盆の上昇が始まり,ついには陸化します.125 Ma 砂岩層の堆積から陸化までの経過時間は皆目分かりませんが,堆積した前弧海盆堆積体の全層厚と堆積速度を考えると,おそらく 数 m.y. あるいはそれ以下ではないかと考えています.なお,上昇の開始時期が 125 Ma 以前の可能性もありますが,ハイエタス期間に関しては同じことです.
 陸化後に浸食が進行しますが,上昇速度が浸食速度を下回った時点で陸域の低下が始まり,ついには再び海域へと変化します.その直前に浸食面上に陸成堆積物が堆積した時点がハイエタスの終わりです.110 Ma と測定された砂岩は,ハイエタスの終わりから少し遅れて堆積したものですが,その期間は非常に短いものと推測されます.エゾ海盆はその後徐々に深化し,再びタービダイト堆積盆となっていきます.


 次に,『中蝦夷不整合の原因となった上昇体の上昇速度を見積もる』という “意欲的な” ことを考えてみたいと思います.そのジオテクトニックな背景というか文脈は非常に複雑で長い話なので,ここでは省略します. 岩清水古陸と前弧リッジ のページをご覧ください.
 『上昇体』というのは,もちろん蝦夷層群自身もそうなのですが,上のページを見るとお分かりのように,蝦夷層群の下位に存在した付加変成体(≒神居古潭変成岩)です.この上昇体は,蝦夷層群堆積体を引き裂き,その側方除去を引き起こしながら上昇し(下図),エゾ海盆中に “岩清水古陸” を出現させました.


 上昇体の平均的な上昇速度は 上昇量/(上昇開始年代-陸化年代 )で求めることができます.
 陸化年代を直接求めることはできませんので,基底層中の浅海性砂岩の砕屑性ジルコン年代で近似します.また上昇開始年代は蝦夷層群砕屑岩の検討からは出てこないものですので,変成岩岩石学的なデータ(Ueda et al., 2002)から外挿しました.その値は偶然ですが蝦夷層群下部層準砂岩のジルコン年代と等しい 125 Ma です.
 上昇量は神居古潭変成岩類の最大変成圧力の見積もり幅 0.7 - 0.8 GPa(中野,1981 など)から 0.7 GPa を用い,上載岩体の平均密度を 2800 kg/m3 として計算した深度 25 km で近似します.


中野仁礼(1981). 北海道, 静内・三石地域の神居古潭帯および: 日高西縁構造帯緑色岩類の変成作用. 地質学雜誌, 87, 211-224.


 この考え方で求めた中蝦夷不整合の上昇速度は 0.20 cm/y でした.これは,プレート衝突山脈である日高山脈の上昇速度(例えば;0.25 cm/y)にも匹敵するものです.
 通常,非変動地域の浸食等による自然上昇速度は 0.02 cm/y 程度とされていますので,それよりも一桁上の速度ということになります.前弧海盆という場所も,一般には構造的に “静穏な” 領域とされていますので,そこでこのような著しい上昇運動がおこるというのは,なにか特別な状況を考える必要があります.どんな状況かというと,活動的な前弧リッジの出現です.上記『岩清水古陸と前弧リッジ』ページや黒歴史ページにまとめましたのでご覧ください.


最若年代仮定

 上の項で,蝦夷層群砂岩の堆積年代を,その砕屑性ジルコン年代から導きました.しかしその当時(2016年),私にはちょっと分からないことがありました.それは,『砕屑性ジルコンの最若年代を堆積年代として本当に良いのだろうか?』ということです.これについては,少なくとも二つの仮定が存在します.

① 砕屑性ジルコンは堆積同時的な火成活動に由来する.

② その最若年代クラスターは集中の良い頻度分布を示す.

 ①は例えばの話,準同時的なプルトン由来だった場合,岩体の emergence までの期間は無視できない長さがあるだろうということです.もっとも,無視できるかできないかは,分析対象や目的によって変わりますので,一概には言えませんが.


 ②は,ちょっと厄介です.頻度分布が右図のようになっていればなにも悩む必要はありませんが,最若年代クラスターの分布がフラットだったりイレギュラーだったりすると,ピークをどこに取るかが問題となる場合があるでしょう.

 実は白状しておくと,この項で示した蝦夷層群の砕屑性ジルコン年代は,分析粒子数が少ないせいもあり,上に頻度ヒストグラムで示した通り,クリアな “最若年代クラスター” が認識できません.そのため,最若年代クラスターではなく『最若年代』を堆積年代と仮定して議論を進めています.これは少し乱暴な話かもしれません.


 既に示した頻度ダイアグラムで見ると,160 Ma 付近に礫・基質ともに年代ギャップがあり,それよりも若い年代の部分に不明瞭なクラスターがあるようにも見えます.そこで,これを最若年代クラスターとみなして,その平均を求めると右表のようになります.ただしデータ数が少なく最頻値(Mode)は定まりません.少し無理筋の力技かもしれませんが,上に示した頻度ヒストグラムの最頻階級の中に入るデータの平均を Mode 値としています.砂岩基質の方は分布に “裾野” があるので,Mean/Median/Mode にはかなりの差が出ています.
 ここで求めた “最頻値” を採用すると,砂岩礫の堆積年代は 136 Ma,砂岩基質は 114 Ma となります.その場合ハイエタス期間は 22 Ma と長くなりますが,変成岩岩石学的に決まる上昇開始時期は変わらず,砂岩基質の堆積年代がやや古くなるので上昇期間は短くなり,上昇速度の見積もりは(都合の良いことに)かなり大きくなります(約 0.33 cm/y).

 結論として,年代データが質・量ともに十分に得られればあまり悩むこともありませんが,そうでない場合はジルコン年代と堆積年代との間にはかなり微妙な関係が生じてしまうということになるでしょう.


あとがき

 非常に長いアーティクルになってしまいましたが,その内容は私の研究室全体としての研究結果によるもので,砂岩サンプル採取からその調製・抽出・分析は,研究室のメンバーで共同研究者だった多くの学生・院生の努力によるものです.

 右表に,その名前と研究期間・研究対象・研究手法を記録しておきたいと思います(敬称略).不完全な記録と記憶によるものですので,間違いや漏れがあるかもしれませんが.



 アーティクルの最初に,このテーマ『砂岩の岩石学』はオワコンであるとの勝手な見解を書いてしまいましたが,終わりに記述した砕屑性ジルコン年代については,現在もホットなテーマであり,その発展を期待するものです.しかし欲を言えば,『砂岩に対する層序学的・岩石学的な(再)検討』も置き去りにして欲しくないものだと思っています.不適切な言い方かもしれませんが,ジルコン年代と雖も所詮単なる数字に過ぎません.そのデータを支える基礎が無い(・弱い)と砂上の楼閣に...このくらいにしておきます.


(2023/12/03 公開)



mak-kawa ウェブの目次へ戻る