私的・北海道地質百選
『咲梅川の基底層』
蝦夷層群中部層準基底部に不整合が存在することは,いくつかの場所で古くから指摘されていたが,川村ほか(1999)はそれらを再評価し,“本来の意味での” 不整合が存在することをあらためて確認した.
その基底部の多くは浅海成層であるが,三石地域では河川成層となっている.基底部に陸成層を含むのは,この地域だけである.
新ひだか町 咲梅(さくばい)川には,蝦夷層群中部層準の基底部が露出し,下部層準を不整合に覆っている(Ueda et al., 2002).
林道終点でクルマを降り川を遡行して行くと,向かって左側の川岸に淘汰の悪い砂岩の露頭が出てくる(右写真).これが基底部の最上部である.弱く成層し,黒色の泥質部を挟む.砂岩中には円礫が散在している.
この部分が河川成層なのか浅海成層なのかは,よく分からない.
今津ほか(2016)は,この砂岩の砕屑性ジルコン年代検討し,110 Ma (Albian) という堆積年代を得ている.
さらに川を進むと,基底部の河川成層が広く露出している(右写真).
円礫岩と砂岩の互層からなるが成層構造は乱雑である.
Ueda et al. (2002) によると礫種は緑色岩類・チャート・砂岩などからなり,青色角閃石を含む変成緑色岩を含んでいる.
この礫岩露頭のクローズアップを右に示す.
礫岩は淘汰が悪く乱雑で,大礫サイズの礫を含んでいる.礫の円磨度は高い.成層状態は無層理の部分が多いが,場所によっては crude bedding を示す.露頭上部では斜交成層をしているように見える部分もあるが確実ではない.
砂岩層は平行葉理を示し厚さは 20 cm 程度,横方向の連続性が悪く,平板状ではない.
このような産状から,これらの互層は扇状地性のもので,礫岩層は網状河川チャネル堆積物であると想像される.
基底部の最下部には,砂岩角礫が濃集した角礫岩が存在する.
砂岩角礫はその岩質から,下位に露出する下部層準(ツケナイ層:Ueda et al., 2002)のタービダイト砂岩に由来するものと判断される.
今津ほか(2016)は,このルートの礫岩中の砂岩礫から 125 Ma (Barremian) という砕屑性ジルコン年代を得ている.
なお,蝦夷層群下部層準との不整合関係が実際に確認されている露頭は残念ながら無い.
このような陸成堆積相が他に蝦夷層群中部層準下部から報告されたことはこれまでない.例えば,和田ほか(1992)では,新第三系西川層の礫岩層と誤認されている.つまり,このような陸成相が蝦夷層群の中にあるはずがないという先入観であろう.その意味で,蝦夷層群研究の常識を打ち破るサイトであると言える.
(なし)
今津 太郎・川村 信人・Keewook Yi・竹下 徹(2016) 砕屑性ジルコンU-Pb年代から見た蝦夷層群中部層準基底不整合のハイエタス.日本地球惑星科学連合2016年大会,SGL37-P03.
和田信彦・高橋功二・渡辺 順・蟹江康光,1992,5万分の1地質図幅説明書『三石』,北海道立地下資源調査所,73p.
Ueda, H., Kawamura, M. and Yoshida, K. (2002) Blueschist-bearing fluvial conglomerate and unconformity in the Cretaceous forearc sequence, south central Hokkaido, northern Japan: Rapid exhumation of high-P/T metamorphosed accretionary complex. Jour. Geol. Soc. Japan, 108, 133-152.
川村信人・植田勇人・鳴島 勤,1999,前弧海盆堆積物中の不整合とスランプ体-中部蝦夷層群基底部の層位学的現象-.地質学論集,No.52, 37-52.