パノラマの館
はじめに パノラマ地質写真ギャラリー:パノラマの館
我々野外地質研究者にとって,フィールドの事実を正確に記録する“写真”は,研究手法として必須だと思われます.現在そのツールとしては,『一眼レフカメラ』か『デジタルカメラ(以下;デジカメ)』のどちらかでしょう.デジカメには,現像不要とか,記録媒体が繰り返し使用可能とか,パソコンにそのまま入力できるとかの利点がありますが...ここでは,デジタルデータ(処理)の利点をそのまま使ったパノラマ写真作成機能に着目してみたいと思います.
我々研究者にとってのパノラマ写真
我々地質研究者は誰でも,『もっと広い画角で露頭を撮影できたら』『広い範囲をもっと精密に撮影できたら』...という欲求を感じたことがあるでしょう.広角レンズという手もありますが,いくら広角とは言っても画角は限られており,その独特な描写も我々の用途には大きな欠点になる場合があります.
そこでどうするかというと,『プリントした幾枚かの写真を糊で貼りあわせる』というのは,誰でもやったことがあるのではないでしょうか? しかし実際にやってみるとすぐに分かりますが,合わせ目をうまく自然に貼りあわせるのは非常に難しいものです.なぜかというと,紙にプリントされた写真は変形させることができない,からです.また,なにしろ印画紙を切って貼るわけですから,継ぎ目がモロ見えになる場合がほとんどです.手でぎざぎざに切るというテクニックもありますが...
パソコンで作成するパノラマ写真
ここで登場するのが,デジタル画像処理でパノラマ写真を合成するコンピュータソフトです.
私がこのジャンルのソフトに初めて接したのはだいぶ前ですが,エプソンのスキャナを買ったときに付属ソフトとして添付されていたナントカいうソフトでした.しかしこのソフトで実際にやってみると,これがぜんぜんうまくいかない.貼りあわせ部がうまく処理されず摩訶不思議な“振動画像”になってしまったり,貼りあわせ自体はうまくいっても変形が著しくて不自然だったり...『こんなのは研究には役立たない』と思いました.
しかし,二年ほど前に,個人用としてキャノンのコンパクトデジカメ(PowerShot S10)を買った時,この状況は一変しました.PhotoStitch という貼りあわせソフトが添付されていた(下注)のですが,これがとてもおまけの添付ソフトとは思えないような,優れものでした.自動処理でほぼ完璧に貼りあわせが実現できるし,継ぎ目を越えた階調補正までやってくれます.
上の写真は PhotoStitch で作成したパノラマ写真の例(新冠泥火山)です.横位置の2枚の写真を貼りあわせたものですが,いったいどこが継ぎ目なのか,作成完了後には撮影者でもわかりません.よく見ると同じクルマの列(ボンゴ車−黒いバン−白いバン)が二度写ってますが(笑).
注)当時はPhotoStitchが添付されているのはデジカメだけでしたが,現在は,インクジェットプリンタ(PIXUSシリーズ)にも添付されているようです.なお,私の持っているのは PowerShotS10添付の Ver.3.0 ですが,最近のデジカメに添付されているのは Ver.3.1 のようです.このバージョンで,例えば機能面で変更されている部分があるかどうかなどは,未確認です.
パノラマ作成ソフト PhotoStitch
PhotoStitch はすばらしいソフトです(下注).我々地質研究者がパノラマ写真を作成する際に,このソフトが持つ便利な点を列挙すると...
1.写真間の階調差を自動補正してくれる.したがって,多少露出や光線状態の異なる写真でも違和感なく貼りあわせてくれる.(上の写真参照)
2.他のメーカのデジカメの写真画像でも貼りあわせ可能.ただし,撮影時の焦点距離を指示してやる必要がある(たいていはやらなくてもOKだが).
3.ソフトの自動貼りあわせでうまくいかないときは,貼りあわせ点を手動で何点でも指定できる.
4.貼りあわせる枚数が多くなると,全体が紡錘形にゆがんでしまうが,そのパースペクティブをストレートな形に補正できる.
この写真(“雪の地層”)はその補正例で,上がオリジナルなパノラマ写真.下がそのパースを補正したものです.背後の木の部分はやや不自然になってますが,露頭の部分はストレートに見やすくなっているのが分かると思います.
注)私が持っているソフトでパノラマ貼り合わせ機能を持ったものについて簡単にコメントしておきます.
・MGX PicturePublisher10:貼り合わせ部分を指示する方法が極めて使いにくく(自動貼り合わせ機能無し),しかも結果は悲惨.
・CASIO Panorama Editor:まったく使いものにならない.それ以上(やる意味がないので)なんにも追究してません.
・Adobe Photoshop Element:このスティッチ機能 (PhotoMerge) は,けっこう高レベル.しかしいかにもアドビのソフトらしく,操作方法・動作結果ともに気難しい.貼り合わせ結果は大概は PhotoStitchに及ばない.しかし,PhotoStitch でうまくいかなかったものがこっちではできました,という少数の例(下写真)もある.
この例(野花南の蝦夷累層群変形破断互層:元大学院修士の藤本樹快君撮影)の場合,PhotoStitchでは,貼り合わせ自体はうまくいっているのだが,なぜかパノラマ画像が大きく湾曲してしまい,×だった.これは PhotoStitch と PhotoMerge の変形ロジックの差かもしれない.
・Corel PhotoPaint 9:完璧な論外.なんと貼り合わせオフセットを手動のスライダで調整するというもの.おまけにスライダを調整するときに貼り合わせ画像そのものが見えないという困り者.私にはまったく操作できなかったので,結果がどうなのかも不明.
・Ulead PhotoImpact6:ほとんど論外.自動貼り合わせはほとんどペケ.手動貼り合わせは画像を見ながらドラッグできるが,画像の変形も境界のスムージングも階調補正も何もしてくれない.
ノンデジタル写真でもパノラマ
PhotoStitch は上に書いた2番目の特徴を拡張すると,(当たり前といえばそうですが)デジカメ写真ばかりではなく,スキャナで取り込んだ普通の写真や画像も貼りあわせることが可能です.下の写真は,1978年に撮影したスライドフィルム(計7枚)をフィルムスキャナで読み込み,PhotoStitch で貼り合せたものです.いちばん左端の一枚は“イメージの重複部”が小さくて,残念ながら貼り合わせ不可能でしたので,適当に重ねてあります.
25年も前に撮影して,うまく貼り合わせる手法がなかったのでそのまま忘れていたパノラマ写真が PhotoStitch でよみがえったというのは,けっこう感動しましたね.
...ということで,私が PhotoStitch で作成した地質パノラマ写真のいくつかを,ギャラリーとして下に公開します.これを見て,パノラマ写真というのは地質学の教育・研究上,非常に有用なツール・手法なんだということを理解していただければうれしいです.