私的・北海道地質百選
『滝の沢下流部の蝦夷層群』
日高町滝の沢は,蝦夷層群の下部層準から中部層準までのほぼ全体が連続的に露出する貴重なサイトである(鳴島ほか,2018).
沙流川との合流部には,蝦夷層群の下位にあたる上部空知層群(千呂露層)が露出しているが,両者の関係は露出不連続により不明となっている.
滝の沢の入り口,国道 274号線下から上流側には,下部層準を特徴づける厚層理タービダイト砂岩が露出する(右写真).層理面は高角で上流(向かって右)側に傾斜している.
しかし露出の状況はあまり良くなく,タービダイト互層の構造を詳しく観察することはできない.
互層の上位は急激に上方細粒化し,薄層理の砂岩泥岩互層から成層泥岩に移化している(鳴島ほか,2018).
滝の沢を 150 m ほど遡行していくと,河床堆積物中に特徴的な礫岩層の露出がある(右写真).大量の貝化石と堆積岩類の円礫を少量含む不淘汰な含礫砂岩円礫岩で,黒色泥岩中にレンズ状に挟在している.
※ この礫岩露頭は,2003 年 8 月の集中豪雨に伴って河床堆積物が除去されて出現したもので,2015 年現在,河床堆積物中に埋もれていて観察できなかった.現在どのようになっているかは未確認である.
この礫岩自体は不淘汰・未成熟なデブリ・フロー堆積物(右写真)であるが,ストームに関連して形成されたものと考えられている(鳴島ほか,2018).
含まれている貝化石は鳴島ほか(2018)によると,三角貝(Trigonia)とカキ類(Ostrea)で(下写真),三角貝殻表面にはゴカイ棲管の付着も認められる.
蝦夷層群の下部層準では,このような堆積物の存在はかなり珍しいものと言える.
沢の上流へ進むと,しだいに上位の層準が露出する.
岩相は薄層理の葉理砂岩と泥岩の互層で,葉理砂岩層には波状の葉理が発達し(右写真左),単層上面にはリップルマークが見られる場合がある.リップルマークの形状はほぼ対称で,ウェーブリップルの可能性が高い(右写真右).
泥岩には,掘り込み型の著しい生物擾乱構造が見られる場合がある.
このような岩相は,浅海~上部陸棚相と考えられ,従来の蝦夷層群下部層準について従来想定されている “タービダイト堆積盆” というイメージからは程遠いものがある.
さらに上位では薄層理細粒タービダイト互層(右写真)に移化し,粗粒珪長質凝灰岩・厚層タービダイト互層(右下写真)を挟むようになる.
タービダイト単層底面には,フルートキャストなどのソールマークが発達する(右下写真).
このようなタービダイト岩相は,従来の蝦夷層群下部層準(シューパロ川層・三石川層・ツケナイ層など)のイメージに合致するもので,滝の沢分岐部を越えてその上流側の 中部層準 “基底礫岩” まで続いている.
つまり(極言すれば),蝦夷層群の堆積相や堆積環境については,一部の層準・地域では詳しく検討されているものの,それ以外ではまだほとんど明らかになっていない.
滝の沢下流部はそのことを如実に示してくれるサイトということになるだろう.
(なし)
鳴島 勤・川村信人・今津太郎(2018)日高町滝の沢の蝦夷層群下部~中部層準の層序と岩相.日高山脈博物館紀要「日高山脈研究」,1, 1-19.