私的・北海道地質百選
『蝦夷層群の厚層タービダイト』
北海道中軸部の白亜系蝦夷層群の下部層準は,石英粒子に富む粗粒・厚層の砂質タービダイト互層が特徴的である.この部分は古くから “下部蝦夷層群” と呼ばれてきたが,この名称は層序区分名としてあまり適切ではないので,現在は使われないようになってきた.夕張-芦別-富良野地域の “下部蝦夷層群” に相当する部分は,シューパロ川層と再定義されている(Takashima et al., 2004).
シューパロ川層の砂質タービダイト互層に富んだ部分は『礼振峰(レフレップ)砂岩部層』と呼ばれる.
礼振峰砂岩部層の典型的な露出としては,伝統的に富良野市奈江川が有名であるが,狭くて暗い沢の中の露頭は苔に覆われている部分が多い.
奈江川の南方にあたる芦別市尻岸馬内(しりきしまない)林道沿いには,このタービダイト互層の良好な露出があり(右写真),観察に適している.
タービダイト砂岩層の一部は癒着しており,泥岩の挟みは比較的少なく,薄い.
砂岩層は厚層で,塊状無構造のものが多いが,一部には平行・斜交葉理を示し(Tb-c)シルト部(Td)を挟む部分もある(右下写真).
なお,この露頭のタービダイト砂岩はサンプリングして持ち帰り検討してみたが,なぜか炭酸塩鉱物セメントを多量に含み,思ったより風化が激しく分析には不適なものであった.理由は不明である.
本層準の砂岩化学組成・砕屑性ジルコン年代等の分析には,上に書いた富良野市奈江川露頭が適当である.
この互層中には,保存の悪いリップルマークなどが見られることがある(右下写真).波長は 15 - 20 cm で,かなり大型のものである.
写真上部に見えている凹凸は波長・形態が異なっており,フルートキャストあるいはロードキャストの可能性がある.
しかしこれらの外部堆積構造は,いずれも層面すべり・風化等により保存が悪く,詳細は不明である.
尻岸馬内林道は立ち入りには森林管理署の許可が必要である.筆者の見学の際(5 月初め)にはまだ残雪が多くて車で入れず,6 km 以上を歩く必要があった.林道は特に上流で荒れており注意が必要である.
なお尻岸馬内川は,富良野市と芦別市の境界となっている.
(なし)
※ 見学・撮影は,GPS レシーバーをまだ所有していなかった 2004 年のもので,位置は不正確なものである.
橋本 亘,1955,5万分の1地質図幅『下富良野』および同説明書,北海道開発庁,71 p.
Takashima, R., Kawabe, F., Nishi, H., Moriya, K., Wani, R. and Ando, H., 2004, Geology and stratigraphy of forearc basin sediments in Hokkaido, Japan: Cretaceous environmental events on the Northwest Pacific margin. Cretaceous Research, 25, 365-390.