私的・北海道地質百選
『“中部蝦夷層群” の基底礫岩』
北海道を代表する地層である白亜系蝦夷層群の中には,不整合関係を示す部分があるとされていた.それが “中部蝦夷層群” の基底礫岩である.しかしそのほとんどは,最近の研究によって否定され,不整合は北海道の南部地域に限られることが分かってきた(川村ほか,1999).“中部蝦夷層群” という層序単位が実在するかどうかについても大きな疑問がある.
日高町滝の沢川の北支流にあるこの露頭は,“中部蝦夷層群” の基底礫岩とされてきた(高橋ほか,1986)もので,同層準の礫岩の露頭としてはおそらく最大に近いものである(上写真).その意味で貴重であり,北海道大学総合博物館にも,この露頭から採取された礫岩の大標本が展示されている.
滝の沢林道の入り口にはゲートが設置されているので,自動車での立ち入りには,森林管理署の許可が必要である.
しかしこの林道は荒れが激しく,自動車で立ち入ることはお勧めしない.林道入り口の適当なところにクルマを停め,そこから徒歩で立ち入るのが適当であろう.その距離は約 1.9 km である.
礫岩は砂基質で,含まれる礫は一般に小礫~中礫であるが,最大で人頭大のものまである.円磨度は高い.礫種は,島弧性火山岩類と,古期付加体起源の岩石(チャート・石英質砂岩)を主体とする.(右上写真)
礫岩層の下底面には,有方向性のものを含むさまざまなソールマークが観察され,この礫岩層が重力流堆積物であることを明確に示す(右写真).
礫岩層の下位には,葉理シルト岩と砂岩の互層がある.この露頭のすぐ層位学的下位には,ソールマークの発達した粗粒砂岩タービダイト層が存在する.
一方,礫岩層上位には海底地すべり等で形成された崩壊堆積物である含礫泥岩と砂岩の互層が重なっている(右写真).
結論として,この礫岩層は海成砂泥互層中に挟まれる礫質重力流堆積物であり,陸上侵食面上に堆積した河川性礫岩ではなく,不整合現象を示すものではない(川村ほか,1999).
礫岩層の横方向の連続性は悪く,例えば 600 m ほど東に離れた滝の沢川本流にも同一の層準が露出しているが,そこでは礫岩層の介在は認められない.その場合,基底礫岩によって境されるはずの “下部蝦夷層群” と “中部蝦夷層群” を層序単位として規定すること自体できなくなってしまう.この事実は,蝦夷層群の層序区分に関する重大な制約となっている.
(なし)
川村信人・植田勇人・鳴島 勤,1999,前弧海盆堆積物中の不整合とスランプ体-中部蝦夷層群基底部の層位学的現象-.地質学論集,No.52,37-52.
高橋功二・鈴木 守,1986,5万分の1地質図幅「日高」および同説明書.北海道立地下資源調査所,44p.