地球科学トピックス

2026年02月  2026年01月  2025年11月  2025年10月  過去のトピックス

はじめに

 このページは,世界各地のサイトでゲットした(おもに学術論文以外の)地球科学・(惑星)地質学の最新トピックスについて紹介するページです.紹介するテーマは私の個人的嗜好性にヒットしてきたものですので,バイアスだらけです.その内容についてのダイジェストやコメント等についても,言うまでもなく同様です.あと当然ですが,私の勘違い・錯誤・思い込み・認識不足...全部あり得ます.ご了解ください.


※ それにしても,現在のネット世界には紹介したい(・すべき)地質トピックスがなんと莫大に際限なく溢れていることか...私が学生のころとはまったく違い,探索すればするほどその wonder に圧倒されるばかりです.


2026年02月

2026/02/21: プチ・スポット火山

 2026/01/26 に MSN.com で配信された 科学記事 『こんな場所が滑るはずはない! 地震学者も驚いた東北沖の海底で起きたある現象から「プチスポット火山」に研究者が注目する理由』(岡田仁志)は,藤江 剛・海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門 地震発生帯研究センター長のインタビュー記事ですが,そのネタ元は Yamaguchi et al. (2026) による IODP (International Ocean Drilling Project) 報告です.
 “プチスポット火山” とは一体何でしょうか? 初めて聞いた名前なので読んでみると,興味深い驚きがありました.ここでは,この記事と Yamaguchi et al. (2026) を基にして,その概要と意義を紹介します.

 なお “プチスポット火山” は Hirano et al. (2006) によって発見され命名されたもので,なんと 20 年前から分かっていたもののようです.私はぜんぜん知りませんでした.


Yamaguchi, A., Kitajima, H. and Okutsu, N. (2026) Impact of Petit-Spot Magmatism on Subduction Zone Seismicity and Global Geochemical Cycles. IODP3 Expedition 502, Scientific Prospectus, Proceeding of the IODP.

Hirano, N., Takahashi, E., Yamamoto, J., Abe, N., Ingle, S. P., Kaneoka, I., Hirata, T., Kimura, J., Ishii, T., Ogawa, Y., Machida, S. and Suyehiro, K. (2006) Volcanism in Response to Plate Flexure, Science, 313, 1426–1428.


“プチ・スポット火山” のスキーム.Yamaguchi et al. (2026) の Fig.2 を参考に作成.

 右の図は,Yamaguchi et al. (2026) の Figure 2 を参考にして作成した東北日本沖の “プチ・スポット火山(petit-spot volcano)” の模式図です.プチ・スポット火山は,アウター・ライズの外側縁辺部に形成されています(右図).彼らの図にはプチ・スポット火山が平面的に見るとある範囲に散在しているように描かれていますので,この図では “火山複合体” としています.
 “アウター・ライズ(outer-rise)” というのは,海洋プレートが沈み込む時,(多分)沈み込み面の摩擦によって海洋プレートの縁部が『渋滞』してしまい,海溝外側が持ち上がる現象と思われます.そのさらに外側では緩い凹部が形成されるようです.Google Earth の海底地形図では認識できない程度の高低差です.アウター・ライズ内側では沈み込みによって引張場となり正断層群が発達します.アウター・ライズ地震はそれが原因です.


※ “アウター・ライズ” は,英語表記では outer rise, outerrise, outer-rise などがありますが,Wikipedia ではそのどれを検索してみても項目が見つかりません(!).なんと,海外では outer trench swell と呼ばれているようでした.


 ここでのポイントは,このプチ・スポット火山活動が,常識では通常ありえない場所で起きているということです.簡単に言えば地球における火山活動というのは,① プレート拡大軸・② 火山弧・③ プレート内ホットスポット,の3つしかありません.プチ・スポットはこのどれにも当てはまりません.もちろん,『ホットスポットによって海洋プレート上に何処かで生成したものがプレート移動でここまで来た = ③』ということは考えられます.しかし下に書くように,プチ・スポット火山はそうではなく,ほぼ現位置=アウター・ライズ外側で生成したものです.


“プチ・スポット火山” の模式的層序図.Fujie et al. (2020) の Fig.4 を基に作成.垂直スケールは正確ではなく目安程度のもの.

 左に示す図は,Fujie et al. (2020) によるプチ・スポット火山の層序模式図を基に作成したものです.東北日本沖では,沈み込んでいる海洋プレートは 120-130 Ma(前期白亜紀)という古いプレートで,遠洋性堆積物を挟んでその上に中期中新世以降の地層が堆積しています.プチ・スポット火山は,その中に岩脈/シルとして貫入していたり,その上に溶岩流として堆積しており,全体としてみると直径 1 km 以下の小規模な単成火山の集合体となっているようです.岩石化学的にはアルカリ岩系列の玄武岩です.
 噴出年代は必ずしも明確なものではありませんが,その多くは 100 ~ 200 万年前(第四紀更新世前期)と推定されています.仮にプレート沈み込み速度を 8 cm/yrs とすると 200 万年間の移動量は 160 km となります.日本海溝沖のアウター・ライズの規模はよく分からないのですが,その幅は 100 km を越えていると思われますので,まあまあ『範囲内』といったところでしょうか?

 プチ・スポット火山の成因ですが,組成的にはプレート内火山岩と思われます.そういう類のあまり規模の大きくないマグマソースが,アウター・ライズ周辺の引張割れ目系に沿って上昇・噴出したというところではないかと思われますが...正確なところはよく分かっていないようです.
 それにしても,このような海洋プレート上の堆積物の中に海溝接近時に生じた現地性火山活動があるとは,驚きました.以前に紹介したグランドキャニオンの溶岩流も陸と海という違いはありますが,同じようなものなのかもしれません.もし私が今どこかの付加体を調査してその変形砕屑岩の中にアルカリ玄武岩の岩体があったら,疑いなく『なんか現地性にも見えるけど,海山起源の異地性岩体だな』と安易に判断してしまうことでしょう.ちょっと怖ろしいです.Mother Earth の多様性というのはなかなか手強いものだと思います.

 最後に,藤江さんらが指摘しているプチ・スポット火山の持つ海溝型巨大地震発生に対する役割を私の推測・憶測を混じえて述べておきます.間違っているかもしれません.
 まず,このプチ・スポット火山のマグマ作用によって,周囲の中新世以降の堆積物は変質・変成作用を受けていると考えられています.これによって,遠洋性堆積物の最上位にある泥層中のスメクタイトもイライトに変化しているようです.スメクタイトはその物性からスラスト運動時に著しくスリップしやすい面を形成しますが,イライトに変化してしまうとその性質は失われます.
 それで何が起きるかと言うと,プチ・スポット火山が沈み込んだ場合,その部分は滑りにくい “アスペリティ” として挙動すると考えられます.他の項目でも書いているように,アスペリティは歪応力を蓄積するので,次の大規模なすべり(メガスラスト地震)における破壊領域となりえます(最初の図参照).


Fujie, G., Kodaira, S., Nakamura, Y., Morgan, J. P., Dannowski, A., Thorwart, M., Grevemeyer, I. and Miura, S.(2020) Spatial variations of incoming sediments at the northeastern Japan arc and their implications for megathrust earthquakes. Geology, 48, 614–619.


2026年01月

2026/01/30: シシリー島地すべり

ニシェーミ市街端部で発生した斜面崩壊.Gerd Dani (FreeAstroScience) による写真を編集したもの.

 イタリア・シシリー島のニシェーミ(Niscemi)で 2026/01/16 に発生した市街地端部の大規模な崩壊(右写真)は,そのシチュエーションの特異さから自然災害関係者に大きな衝撃を与え,Youtube でもいくつもの紹介動画がアップされています(下記リスト参照).
 その詳しいメカニズムや地質状況はまだ不明な点が多いのですが,ここでは,現時点で分かっていることに推測を交えて紹介したいと思います.


MASS EVACUATION ! COLLAPSING FAST -Town FALLING into 4 Mile LONG ABYSS! Sicily under EMERGENCY! by On the Pulse with Silki, 2026/01/27

IT's ALL COMING DOWN! WHOLE Town sits on GEOLOGICAL TRAP! BAD NEWS for Niscemi! TOWN IS DOOMED! by On the Pulse with Silki, 2026/01/28

Niscemi landslide -why did the side of a town fall off? by The GeoModels, 2026/01/29

Italy Landslide Update; Buildings Split in Half, Evacuations Triggered by GeologyHub, 2026/01/29


 まず,この斜面崩壊は一見すると単に台地上の市街端部の急崖での崩壊現象のようにも見えます.よくある “海岸侵食による海食崖の崩壊” にも似ています.しかし写真をよく見るとすぐに分かるように,それは急崖崩壊は現象の一部であって,実は大規模な既存の地すべりの再活動によるものです.崩壊した崖(滑落崖)の向かって左側の地盤全体が左方(平野側)へ移動しており,滑落崖は地表から下に続く凹状(円弧)すべり面の上端になっています.滑落量は Wikipedia によると 6 - 7 m となっていますが,上の写真を見る限りでは少なくとも 15 m はあるのではないかと思われます.

 滑落崖に露出している地層ですが,ほぼ水平の固結度の低い砂礫層です.その堆積年代や堆積環境・層序区分などはまったく分かりません.常識的に見れば第四紀更新世~新第三紀鮮新世とかだろうと思われますが,分かりません.成層構造がかなり整っているので,陸成層であっても扇状地堆積物などではないような感じです.
 上で紹介した Youtube 動画などによると,この砂礫層中には粘土層が挟在しており,遮水層となってその上位砂層の間隙水圧を上げています.粘土層はもちろん見えていませんが,実際どれくらいの深さにあって厚さがどうなのかなどは不明です.今回の滑落の直前にサイクロンの来襲によるかなりの降水量があり,その浸透によってさらに不安定な状況が発生しました.粘土層が低摩擦境界層となってすべり,その上方に円弧すべりを発生させたということのようです.

 ちなみに,Wikipedia によるとシチリア島はアフリカ-ユーラシアプレート境界にあって,その地質はかなり複雑なものです.ニシェーミの西の平野部がもろその境界で,“前縁沈降帯 foredeep”(=ユーラシア・プレート)が “前縁隆起帯 foreland”(=アフリカ・プレート)の上に衝上しているようにも見えます.この滑落崖の砂礫層も,そういう複雑な構造環境での構造性堆積場の堆積物なのかもしれません.


ニシェーミ地すべり.Google Earth(2025/06取得画像)による下方俯瞰画像.マウスオーバーで地すべり説明を消去したものを表示する.

 右の図はニシェーミ地すべりを今回のすべり・崩壊以前に取得された Google Earth 画像から大胆に類推したもの(黄色シェード)で,全然違っているかもしれません.幅は少なくとも 1 km 以上ありますがその東側範囲は Google Earth 画像ではよく分かりません.長さは 1 km 程度あるいはそれ以下です.赤点線が今回発生した滑落崖です.地すべり地の上部には,滑落崖にほぼ平行な弱い段差・リッジ状地形も見えます.地すべり体の移動によるものとも推測されますが確証はありません.

 ニシェーミ地すべり自体は,地すべりとして破格に大規模というわけでもなく,札幌周辺にも大きさ 1 km 程度の地すべり地形は珍しくありません.それでは何が特異なのかというと,写真や Google Earth 画像からお分かりのように,『大規模で活動的な地すべり地の上・周辺に人口密集地が形成されている』ということに尽きるでしょう.ニシェーミの人口がどれくらいなのかは分からないのですが,台地上の住宅密集地を見る限り,少なくとも数千人,おそらく万人のオーダーでしょう.今回のような崩壊被害はこれが最初ではなく過去にも起きています(1790, 1997 年など).すべりの発生は数十年単位で住宅地の奥側へと波及していくでしょう.

 この地すべりの問題は,自然災害と人間社会活動との関係性について考えさせるもので,最近話題になっているナポリ近郊の『巨大活火山のカルデラ内部に数万人が住んでいる(!)』 Campi Fregrei の問題と共通したものではないかと思われます.


2025年11月

2025/11/28: マッコーリー島

 オーストラリア領・マッコーリー島(Macquarie Island)は,南太平洋とタスマン海の境界域に位置する長さ約 30 km・幅約 5 km の細長い島で,オーストラリア大陸から南へ約 2,000 km,南極大陸から北東へ約 1,600 km,ニュージーランド南島からも約 1,000 km 離れた南緯 54 度付近に位置する “絶海の孤島” です.皇帝ペンギンやゾウアザラシなどの貴重・希少な動物の生息地となっています.荒天地帯として有名な,いわゆる “狂う 50 度(Furious Fifties)” の中にある無人島で,調査研究以外の立ち入りが禁止されています.

 2025/11/25 に Latitude Tales によって公開された Youtube 動画 What Makes This Australian Island the Strangest on Earth は,マッコーリー島の希少価値を紹介するものですが,そこで指摘された地質セッティングの特異さには注目すべき点があります.この動画のサムネールのキャッチには,THE EARTH'S RAREST ISLAND(地球で最も稀有な島)と書かれているのですから.


マッコーリー海嶺.左下方が北であることに注意.海底地形図は Google Earth による.

 マッコーリー島の地形を Google Earth で確認してみると,まず驚くのは大洋底中のリッジ(マッコーリー海嶺)の上面がそのまま海面上に出ていることです(右図).周囲の大洋底の深度は 4,000 - 5,000 m です.島の形状は細長いほぼ長方形で,海洋島・海山のような火山ではなく,構造島(tectonic island)であることが明白です.
 マッコーリー海嶺の東側には海溝状の地形が発達しており,その最深部の深さは 5,700 m 以上あります.リッジの頂部は二つに分離しグラーベン(graben)状になっています.分離した “稜線” は東側のほうが高くなっており,その上にマッコーリー島があります.


マッコーリー島の位置とプレート境界.GEMOC ARC National Key Centre, Research Highlights 2003 などを参考に作成.海底地形図は Google Earth による.マウスオーバーで説明線なしの画像を表示する.

 これをもっと大きなスケールで見るとどうなっているでしょうか?
 実はマッコーリー海嶺は,ニュージーランド南島を切断する有名な右横ずれトランスフォーム断層・『アルパイン断層』の南方延長に連続しており,西側のオーストラリア・プレートと東側の太平洋プレートの境界になっています.
 オーストラリア・プレートは東北東へ年間 3.6 cm,太平洋プレートはほぼ西へ年間 4.5 cm の速度で移動しており,マッコーリー海嶺は両者の衝突・横ずれ帯となっています.

 トランスフォーム断層が陸域に延長するのはサン・アンドレアス断層を持ち出すまでもなく,特に珍しくありません.しかし,大洋底のトランスフォーム断層の一部が 5,000 m も隆起して海面上に露出しているというのは,かなり珍しい・稀なことと思われます.もしかすると唯一の例なのかも(未確認).


※ マッコーリー海嶺の南北に続くプレート境界は,その性格が単一ではなく沈み込み帯と横ずれ断層が交互に出てくるという複雑なものです.そういうプレート境界がどのように動いているものか,沈み込んでいる部分はどうなっているのか,なかなかイメージができないのですが,現実というのはそういうものなのかもしれません.

※ “ジーランディア(Zealandia)” と言うのは最近注目されたようで『沈水大陸』とされているものです.私もこれには非常に興味があるのですが,ここでは話にぜんぜん関係ありません.別の機会に紹介できればと思っています.


マッコーリー等の簡略地質図.Wikipedia によるものを編集.

 それでは,マッコーリー島にはどんな岩石が露出しているのでしょうか? 左図は Wikipedia にある簡略な地質図ですが,バレバレ当然というのか『海洋プレート構成物』です.上部マントルからすべて揃っているようで,要するにオフィオライトです.島の大部分は枕状玄武岩からなりますが,北端部付近では超苦鉄質岩に始まるオフィオライト・シーケンスが一通り揃っていて,構造は複雑ですが上部マントル-下部地殻岩石をコアとする複背斜・半ドーム構造のように見えます.

 島の形状は東岸部がより直線的で,一方で西岸部が入り組んでいることから,断層系の一部が東岸部付近を通過しており,島全体が西へ緩く傾動している可能性が考えられます.広く分布する枕状溶岩は水平に近い緩傾斜分布をしているものと思われます.

 トランスフォーム断層で形成された海嶺にオフィオライト層序が露出している要因として,Goscombe et al. (2024) は,拡大軸近傍に存在したアセノスフェア上昇部がその上位の海洋地殻に上昇・展張を引き起こし,正断層で囲まれた “地塁(horst)” を形成,そのコア部に上部マントル-下部地殻岩石が露出するようになったと考えています.この上昇期には小規模な玄武岩質火山活動も起こっているようです.“オフリッジ(off-ridge)” のマグマ活動ということなのかもしれません.

 上部地殻岩石(粗粒玄武岩・枕状玄武岩)は,上昇帯上部のデタッチメントによって横方向に取り去られたと解釈されています.このような上昇が起こったのは 8 - 9 Ma 前後(後期中新世)です.

 しかし,マッコーリー島の地質セッティングについては,論文等の読み込みが浅いせいか,私にはよく分からない・疑問に思う点が一つあります.オフィオライト・スーツの見られるところがなぜマッコリー島の北端部(5 x 7 km 程度)だけなのでしょうか? 引張場での上昇運動によるものとすれば,もっと南北に広く出ているはず.Goscombe et al. (2024) ではこの部分は “core complex” と表現されているので,マッコーリー海嶺上のスポット的なものということなのでしょうか?


B.D. Goscombe, D.A. Foster, B. Wade, J.J. Schwartz and C.R. Jeffcoat (2024) Tectonic evolution of Macquarie Island: Oceanic crust, metamorphism, new-type of core complex and transpression. Gondwana Research, 131, July 2024, 115-180.


2025/11/14: エディアカラ生物群と地磁気

エディアカラ生物群の一つ,Charnia sp. Wikipedia による.

 新原生代エディアカラ紀(635 - 539 Ma)は,エディアカラ生物群 と呼ばれる奇妙な化石生物群(右写真)によって特徴付けられる原生代最後の時代です.それは,複雑さと巨大なサイズを特徴としています.この生物群が三葉虫などの古生代型生物群によって取って代わられ,有名な『カンブリア爆発(Cambrian Explosion)』と呼ばれる生物進化における一大イベントが起こりました.

 2025/11/11 に公開された Anton Petrov の Youtube 動画 The 600 Million Year Old Magnetic Anomaly That Triggered Complex Life Evolution は,このエディアカラ生物群の出現と進化に地球核における大きな変化が関与していたという興味深い insight を提供しています.そのネタ元は Pierce et al. (2025) ですが,彼独自の見方も多分に含んでいるようです.以下ではそれに私自身の憶測も交えて紹介します.


Pierce, J.S., Evans, D.A.D., Polomski, D.E., Youbi, N., Linnemann, U. et al. (2025) Magnetostratigraphic constraints on the late Ediacaran paleomagnetic enigma. Science Advances, 11, 40.


 まず,591 Ma 頃に地球磁場が消失あるいは数十分の1に減少しました.このイベントは 26 myrs 続きました.その減少・変動パターンは現在のそれとは異なり,混沌としたものだったようです.
 その期間,地球磁場による保護がないために,太陽風の影響で海水中の水素が大気中に失われていくということが起きました.こういったことは,過去の火星でも何度も起こっています.そのため,本来水素と結合するはずだった酸素が遊離酸素として海水中に増加しました.言うまでもなく,酸素濃度の増大は,複雑・大型な生命体の進化を助長します.これがエディアカラ生物群の出現と進化の要因です.

 このあと,地球磁場は回復します.その要因は,地球内核(inner core)の形成・出現であると Anton Petrov は述べています.このことについて,もう少し考察してみます.


鉄の温度-圧力による簡略化した状態図と地球内部構造.広瀬(2012)のスライド を参考に作成.温度曲線変化は独自に加えたもの.初期状態が表示されていて,マウスオーバーで現在の状態を表示する.

 左に示したのは,金属鉄の温度-圧力による相図です.固相としたものには,その結晶構造によっていくつかのタイプがありますが,ここでは省略しています.また,地球核を形成しているのは鉄-ニッケル合金だと思いますが,この図の元図(広瀬,2012)ではそれがどう考慮されているかは分かりません.また,このスキームは,その元図を見てこの分野には素人の私が適当に描いたものなので,全然間違っているかもしれません.そういう前提で見てください.

 まず初期状態では,深さ約 2,900 km で地球内部に想定される温度曲線(Geotherm)が液相内に入ります.これが初期の(分化していない)核の外側部です.その後地球内部の冷却によって温度曲線の勾配が低下し,既に述べたエディアカラ紀の地球磁場消失イベントの後に深さ約 5,100 km で液相-固相境界線の下に入るようになり,固体鉄の内核が誕生しました.
 Anton Petrov によると,内核が誕生して外核との境界面が出現したことと凝固熱の放出は,効率的で安定した外核内の対流を助長します.その結果として地球は安定磁場を獲得し,生物にとっての安定した防御スクリーンとなりました.これがカンブリア爆発の一つの要因です.軟体部のみで “無駄に大きい” エディアカラ生物群は,強固な殻を持ったコンパクトな古生代型動物群によって捕食され駆逐されてしまったという見方もあるようです(ex. Wikipedia:エディアカラ生物群).


※ 個人的にちょっと分からない点は,『なぜ(どういう機構で)固体内核の誕生時にまず地球磁場が消滅・減少し,その後回復したのか?』という点です.これについては Anton Petrov の動画では “内核形成の直前の状態としてそうなった” という以外の言及はありません.Pierce et al. (2025) は地質学的な見地から地磁気イベントの詳細を扱ったもので,その原因については触れていません.もしかするとこの論文への上記リンクはアブストのようなもので,何処かに詳細を議論した原典があるのかもしれませんが,いまのところ不明です.


2025年10月

2025/10/20: 能登アスペリティ

 2025/10/16 の各種新聞で『能登半島地震 古いマグマの破壊、大規模化の引き金か』といったタイトルの記事が配信されました.能登半島地震のメカニズムに関しては私も非常に興味がありこのトピックスでも何度か紹介しています.早速 Yahoo ニュース で読んでみたのですが,固結したマグマ(深成岩体?)がアスペリティーとして働いたということ以上は詳しくは理解できませんでした.それらの記事には出典が明記されていませんでしたが,ネットを漁ってみると Takagi et al. (2025) にすぐ到達できました.以下では,この論文を基にして,能登半島でなぜあのような大きな地震が発生したのかを紹介します.


R. Takagi, K. Yoshida and T. Okada (2025) Rupture of solidified ancient magma that impeded preceding swarm migrations led to the 2024 Noto earthquake. Science Advances, Vol. 11, No. 42.


 下の図は,Takagi et al. (2025) に掲載されているスキーム図を基にして作成したものです.深部流体の寄与による基本的な能登地震の発生メカニズムやその震源断層(図右半部)については,既にこのトピックスや『活断層の諸問題』で紹介しているため省略します.

 今回ポイントとなるのは,主要な震源の西側,地下 5 km 以下の部分に位置する『固結マグマ solidified magma』です.これは地震波トモグラフィーにおける高速度部として示されるもので,その物性から過去の火山活動の際に上昇したマグマが地下深部で冷却固結した岩体(後述)と推定されます.

能登半島地下のアスペリティの模式図.Takagi et al. (2025) の Fig. 4 を参考にして作成したもの.

 この岩体は,能登半島で最近起きている主要な地震の震源断層(珠洲 すず 沖断層・輪島沖断層)によって切断されています.しかし,割れ目が少なく堅硬な岩相から,断層活動に際して周囲の部分よりも滑りにくい “固着領域(アスペリティ asperity)” を形成していると考えられます.
 断層面にアスペリティが存在するとどうなるかは,海溝型地震で既に周知のことですが,破壊が起きないため歪応力が解放されず,周囲の破壊滑りが進行するにつれてそれが増大していきます.その大きさがアスペリティの破壊強度を超えた時点で滑りが発生し,蓄積された応力の解放によって大きな地震が発生します.これが 2025 年に発生した M7.5 地震の発生機構です.

 以前紹介した “深部流体関与” による起震メカニズムでは,相対的に小さな地震が頻発することは説明できましたが,なぜ大きな地震が時折発生するのかについては必ずしも明確ではありませんでした.この固結マグマ体の発見とアスペリティの認識によって,その点が明確に説明できるものとなりました.
 アスペリティでの滑り破壊が生じたあと,滑り面は局在的な透水通路(conduit)となり,おそらく熱水性の再結晶作用により “治癒(heal)” してしまい,再びアスペリティとなると考えられます.


能登半島北東部の地質分布と 2024 年 M7.5 地震震源の関係.地質分布は産総研シームレス地質図による.

 アスペリティを形成する “固結マグマ” について,もう少し地質学的に見てみます.右図は,産総研地質図 Navi による能登半島北東部のシームレス地質図です.
 上図に示したように,半島北岸部の鞍崎付近には 2024 年地震の際に有意に隆起した領域があります.その隆起量は最大で約 2.5 m 程度です.この部分には,高洲山(こうのすやま)層と呼ばれる 30 - 26 Ma(古第三紀漸新世前期)の安山岩質陸成火山岩類が,短い軸を持つ背斜構造を持って露出しています.その周辺はおもに中新世の火山岩・堆積岩が分布し,高洲山層の分布は東西に長い不明瞭なドーム構造の中心部となっています.鞍崎周辺の北に張り出した地形は,その地質構造に関連したものでしょう.

 したがって,Takagi et al. (2025) が示した “固結マグマ” は,このドーム構造の下に存在する深成岩体と考えられます.その貫入固結時期は明確には分かりませんが,Takagi et al. (2025) は,隆起域の西端部に漸新世~新第三紀中新世火山岩の噴出中心が存在すると述べていますので,その時期のマグマ上昇によるものであることは間違いないでしょう.
 しかし,火山活動はこの地域のあちこちで起きているわけなので,なぜこの場所にそのような大規模な “固結マグマ” が形成されたのかは分かりません.参考までに,背斜構造部の西方には漸新世火山岩類が広範囲に分布しており,その中に “忍(しのぶ)閃緑岩” という露出径 2 km 程度の深成岩体があります.その貫入固結年代は 28.9 Ma です.こういったものが隆起域の下部にも存在しているのかもしれません.

 最後に,自分的に少し分からないというか,気になる点は...2024 年の M7.5 震源(main shock)は,想定される “固結マグマ”(=深成岩体)のアスペリティ外側に位置しています.蓄積された歪応力の解放による main shock がアスペリティ外にあるのはなぜなのでしょうか? 地震発生と岩盤破壊との関係を私はよく分かっていないような気がします.



過去のトピックスへ


トップページへ戻る