このページは,世界各地のサイトでゲットした(おもに学術論文以外の)地球科学・(惑星)地質学の最新トピックスについて紹介するページです.紹介するテーマは私の個人的嗜好性にヒットしてきたものですので,バイアスだらけです.その内容についてのダイジェストやコメント等についても,言うまでもなく同様です.あと当然ですが,私の勘違い・錯誤・思い込み・認識不足...全部あり得ます.ご了解ください.
※ それにしても,現在のネット世界には紹介したい(・すべき)地質トピックスがなんと莫大に際限なく溢れていることか...私が学生のころとはまったく違い,探索すればするほどその wonder に圧倒されるばかりです.
グランド・キャニオン(Grand Canyon)は言うまでもなくアメリカ随一の超有名な地質景観で,西部のアリゾナ州にあります(右写真).ここでは,カンブリア紀からペルム紀にわたる,古生代の地層のほぼ全部が一つの峡谷壁に『水平に』露出しており,変動帯日本列島の地質屋の私には,とても信じられないような羨ましい場所です.
私は “変動というものの無い大陸プレート上の安定地塊はやっぱり違うな...” などと,漠然とイメージで思い込んでいたのですが,違いました.なんとグランドキャニオンには『活火山(!)』があるのです.
2025/02/14 に公開された GeologyHub の Youtube 動画 The Active Volcano in the Grand Canyon; Arizona's Uinkaret Volcano は,その事実を見事に紹介しています.ここではそれを基に,グランドキャニオンの活火山について紹介します.
GeologyHub が紹介したものは,Uinkaret Volcanic Field と呼ばれる火山域(Wikipedia 参照)で,グランドキャニオンの北西側にあります.“Uinkaret” というのはどう呼ぶのか分からないのですが,GeologyHub の動画では “ユインカレッ” と発音されています.なんとなくネイティブ・アメリカン風ですが,その由来などは分かりません.
右図の上は,グランドキャニオンの地層の上に溶けたチョコレートのように被さった溶岩流です.下は左(西)側から見たもので,いくつもの溶岩ローブを伴った溶岩流の様相が非常に印象的です.
右図上の中央手前から右端にかけては,グランドキャニオンの平原頂部から峡谷に流れ落ちた『溶岩滝(lava fall)』が何本も見えています.GeologyHub によると,これは “地球上で最大落差の滝” だそうです.水が落ちる滝として最大落差のものは,ベネズエラにある Angel Falls でその落差は 3,212 ft = 979 m です(Wikipedia).ところがこのグランドキャニオンの溶岩滝の落差は Geology Hub によると 3,281 ft = 1,000 m で地球最大ということになるんだそうです.なかなかユニークな視点です.
この溶岩流の中で最新のものは 1,100 CE とされており,たった 900 年ちょっと前です.文字通り活火山です.
左の図は,Uinkaret Volcanic Field の主要部を垂直に見下ろしたものです.図の南北方向が約 13 km です.Volcanic field 全体の大きさは不明ですが,Google Earth で見る限りは,南北 36 km・東西 22 km 以上はあります.周囲には volcanic field と思われるものがいくつもあり,全体としての広がりは 100 km オーダーに達すると思われますが詳細は不明です.
この俯瞰で分かるように,volcanic field の中には無数の溶岩噴出孔(lave crator)あるいは噴石丘(cinder cone)と判断されるものが存在し,それらは明瞭な南北性配列を示しています.
GeologyHub によると Uinkaret Volcanic Field はその東西を南北性の二本の断層,Hurricane 断層(西縁)と Toroweap 断層(東縁)で区切られた上昇帯の上に形成されています.その火山活動は約 3.6 Ma に始まり,長い休息期間を挟んで 0.85 Ma に活動が再開しています.0.7 Ma 頃には大量の溶岩流出によってコロラド川がせき止められ “溶岩ダム(lava dam)” が形成され,それがのちに決壊し大規模な洪水堆積物が堆積したとされています.
この図の左上隅には,通常のグランドキャニオンの崖とはちょっと異なる,閉じた馬蹄形~オタマジャクシ形の巨大な崩壊地形が見えていますが,これが火山作用と何らかの関係があるものかどうかは不明です.
Fenton et al. (2004) によると,Uinkaret Volcanic Field の噴火で流出しているのはすべて玄武岩マグマで,岩石化学的にはアルカリ玄武岩とソレアイトです.おそらくホットスポット関連のプレート内玄武岩と考えられますが,例えば同じようなセッティングにあると思われる Yellowstone 火山との関係など,詳しいことは調べていないので分かりません.
最後に,その出典というかネタモトは分からないのですが,GeologyHub はこの火山活動をもたらしたコロラド高原地域の上昇運動の成因について,数 Ma 近辺に発生した “lithospheric drip” の反動によるものと述べています.“Lithospheric drip” はこのトピックスでも『岩盤ドリップ』として紹介した興味深いテクトニック・メカニズムで,“ここでも出てくる話なのか?!” と正直驚きました.
C.R. Fenton, R.J. Poreda, B.P. Nash, R.H. Webb, and T.E. Cerling (2004) Geochemical Discrimination of Five Pleistocene Lava-Dam Outburst-Flood Deposits, Western Grand Canyon, Arizona. Journal of Geology, 112, 91–110.
ジェミナイ(gemini)とはもちろん双子のことですが,なぜこれが双子なのか...分かりませんが,Google の独自AIが一般ユーザにも 開放 されました.その名前が Google Gemini です.ちょっと地球科学トピックネタというのも違うような気がしますが,関連ネタということでブログ的に書いてみます.
伏線は,だいぶ前に Windows (+ Edge ブラウザ)の標準AIみたいな形でプレビュー版として公開されていた Microsoft CoPilot です.私も “地球科学上の知らないことを調べる” 目的で多少使ってみましたが,必要な情報を集約し場合によっては原典へのリンク付きで提示してくれるので,けっこう悪くありませんでした.ところが...プレビュー版が正規版になったあたりからなにやら雲行きがおかしくなってきました.返答が妖しくなってきて,おまけに原典へのリンクが表示されなくなってしまったのです.後者はなにか設定があるのかもしれませんが,私には見つけることはできませんでした.返答の質も,適当なところで(いい加減に)放り出すような感じになってきて,使うことは無くなりました.要するに退化してしまったのです.
で,先日ちょっと確認したいことがあって久しぶりに『日本最古の化石は?』と CoPilot に聞いてみたところ,その返答には心底仰天しました.こうです.
Ans. 1: 日本最古の化石は奈良県にある大和紀元層という地層から産出したホウライエビの化石です.ホウライエビは脊椎動物の一種で,カンブリア紀に生息していました.
大嘘(フェイク)というか,この答えの中にいったい何か所の嘘・誤りがあるんでしょう.『大和紀元層』『ホウライエビ』はどちらも実在しない架空のものです.エビは無脊椎動物(節足動物甲殻類)です.これはほとんど hallucination のレベルでしょう.気を取り直してもう一度聞いてみると,今度はこういう答えが.
Ans. 2: 日本で最古の化石は、約6億年前のカンブリア紀に生息していた生物の化石です。これらの化石は、主に北海道や九州などの地域で発見されています。特に北海道の石狩川周辺や、九州の熊本県で多くの化石が見つかっています。
聞き直すと全然違うことを平然と言うというのもアレですが,これではどうにもなりません.これだと講義の最中に『AIによると先生のおっしゃることは完ぺきに間違っています!』などと学生から言われそうだな...って私は既に先生ではないので大丈夫ですが.
※ こういうこと書いてると『AI-ヘイト人種』と思われそうですが,私は決してそうではありません.Photoshop などのAI画像処理は率先して使ってますし,Midjourney などの醸し出す cyberpunk 風のAI画像は大好きでコレクションしているくらいです.
で...Google Gemini が一般の Google アカウント・ユーザにも使えるようになったというので,半信半疑で同じ質問を投げてみました.その返答がこれです(右図).
注)右図の内容と下の文章はキャプチャ時期が違うので微妙に異なっています.AIというのはこういうものなんでしょうか?!
Ans.:日本で最古の化石とされているのは、以下の2つです。
コノドント
岐阜県で発見されたコノドントは、オルドビス紀後期、約4億5000万年前の化石とされています。これは、三葉虫などと共に生息していた奇妙な生物で、長い間「謎の化石」と言われてきました。
植物の胞子化石
岩手県大船渡市で発見された植物の胞子化石は、古生代前期デボン紀、約4億年前のもので、日本最古の植物化石とされています。この発見以前は、後期デボン紀の植物化石が最古とされていました。
ほぼ地質学的に完璧ではないでしょうか? 胞子化石は比較的最近分かった話なので,ちゃんと up-to-date になってます.おまけに,AIモードを “2.0 Flash Thinking Experimental” に設定すると,その原典となったサイト・リンクもきっちり表示されます.検索で先行した Google の強みだと思います.これでは CoPilot の出る幕などまったく無く,Google Gemini の一人勝ちです.大丈夫なのか? ≫≫ Microsoft (+ OpenAI ?).
そこで次に,私が本当に聞きたかった『日本最古の海洋性岩石は?』と質問してみたところ,両者の返答は以下の通りでした.
CoPilot: 日本最古の海洋性岩石は、約4億年前のジュラ紀に形成されたもので、主に北海道や本州中部の山岳地帯に分布しています。これらの岩石は、海洋底で形成された後、地殻変動によって隆起し、現在の地表に現れたものです。
Gemini:
有力な候補 早池峰帯の緑色岩類
岩手県の早池峰山周辺に分布する緑色岩類は、海洋プレート(海洋底)を起源とする岩石で、最古の海洋性岩石の有力な候補とされています。この緑色岩類からは、約3億6千万年前(古生代デボン紀後期)のコノドント化石が発見されており、海洋プレートがこの時期に存在していたことが示されています。
その他の候補 兵庫県の蛇紋岩
兵庫県には、約4億5千万年前(古生代オルドビス紀)に形成されたとされる蛇紋岩があり、これも海洋性岩石の可能性があります。蛇紋岩は、海洋プレートを構成するかんらん岩が変質してできた岩石です。
重要な注意点
1.海洋性岩石の定義
「海洋性岩石」の定義は、研究者によって異なる場合があります。一般的には、海洋プレートを起源とする岩石を指しますが、具体的な岩石の種類や形成年代の解釈によって、候補となる岩石も変わってくる可能性があります。
2.年代測定の難しさ
岩石の年代を正確に測定することは非常に難しい場合があります。特に古い岩石の場合、様々な要因によって年代が変動している可能性もあり、慎重な検証が必要です。
CoPilot は相変わらずいい加減で間違いだらけですが,Gemini は(専門家にしか分からない問題は少しありますが)ほぼ完璧で,おまけに『重要な注意点』などという教育的なことも書いてくれています.早池峰のコノドントは私が投稿者となった論文(濱野ほか,2002)のデータです.いや~...参りました.
ということで CoPilot は宇宙の彼方に捨て,私のデスクトップにはいま Gemini アイコンが晴れやかに置かれています.アプリはスマホ版しかないので,PCの場合はブラウザで上記サイトにアクセスすることになりますが,Microsoft Edge の優れ機能『ウェブサイトをアプリとしてインストールする』で,ブラウザとは独立した設定のウィンドウでアプリみたいに動かせるようになるので便利です.さすが Microsoft!(皮肉)
・最近,Google Gemini の動作モードが一新され,『2.0 Flash』『2.0 Flash Thinking』『Deep Research』『Personalization』の四つのモードとなりました.特に注目されるのは Deep Research モードで,“詳細な調査レポートを提供する” とされています.Personalization モードはユーザの検索履歴を基に,とありますのでおそらく私が使うことは無いでしょう.
・早速試してみたところ,ほとんどレビュー論文か?!と思われる結果が出力されて驚きました.出典へのリンクも豊富です.ただし,出力は段階的に行われますが,その完了にはかなりの時間がかかります.その間コーヒーでも飲んでいるのが良いでしょう.
・『日本最古の植物化石は?』と聞いてみたところ,内容は素晴らしいのですが,飛騨福地産のオルドビス紀コノドントが一つの候補として提示されました.おそらく Gemini は私の質問の “植物” を聞き逃したんでしょう.説明を読むとコノドント動物とありますので,コノドントを植物と思っているということではないようです.どこかで推測論理ロジックがねじくれたのか.
・いずれにせよ,Microsoft Copilot との差はまたもや絶望的なほどに離れてしまったようです.Copilot も有料版なら何らかの選択肢があるのかもしれませんが...Gemini は(Google Account があれば?)無料ですからね.
・最近どうしてるかな?と久しぶりに Copilot に同じ質問をしてみたら...“日本最古の植物化石として知られるのは、約4億年前のシルル紀からデボン紀にかけて存在していた「リニア植物」の一種です。これらは、北海道の網走市で発見された化石などに代表される、陸上植物の初期の姿を示すものです。”...などとまたもや大嘘を.
(2025/03/20 補足追記)
“最も急な斜面” とは何でしょうか? “そりゃ垂直な崖しかないだろ,そんなものどこにでもある,いやオーバーハングというものもあるか...” といった話ではありません.
少し公開時期が古いものですが,2023/02/11 に公開された Youtube 動画 The steepest mountain in the world is in Cuba? | Caribbean geology (by TheGeoModels) は地球上の地形というものについて興味深い insight を提供しています.
それは,地球上の『非常に高いところ』や『非常に低いところ』に着目し,その場所からもっとも近いところにある最低点あるいは最高点との間の標高差を見るというものです.標高差だけでは傾斜が得られないので,2点間の距離が大事なパラメーターになります.言わば,地球上の “メガスケール斜面” といって良いでしょう.
TheGeoModels が着目したのは,タイトルにあるようにキューバ島の南端部の沖に位置する『ケイマン海溝 Cayman Trench』です.キューバ島南端部には,Sierra Maestra という東西に延びる山脈があり,その最高峰は Pico Turquino (標高 1,974 m)です.ケイマン海溝の最深部は -7,686 m ですので,標高差は 9,660 m です.Sierra Maestra の稜線からケイマン海溝軸までの水平距離は約 40 km ですので,その平均斜度は 13.8 度となります.
これについて TheGeoModels は,“地殻岩石は物理的強度が限定されており,急傾斜の山地斜面は崩壊や滑り落ちを引き起こすはずなのに,非常に不思議である” という興味深い言及をしています.
なお,ケイマン海溝は Wikipedia では Cayman Trough となっていますが,たいした違いはありません.ただし,あとに述べるようにこれは本来の意味の海溝・舟状海盆ではありません.
右に,Sierra Maestra からケイマン海溝にかけての地形断面図を示します.標高方向は強調されていますが,ケイマン海溝に向かう斜面が非常に急であることが分かると思います.特に海岸線から陸棚を欠いて急傾斜で落ちる斜面が印象的で,なにか構造要素があるのではないかとも思われますが,詳細は不明です.
それでは,この “急斜面” は地球上の他の場所と比較してどうなのでしょうか? 右の表は,地球上の標高差の大きいものを適当に抽出して Google Earth でその標高をチェックしてみたものです.そのカテゴリーは,島弧-海溝・衝突山脈・海洋島などです.傾斜はもちろん平均になりますが,標高差と水平距離から単純に計算したものです.
これを見ると,ケイマン海溝の傾斜は既に述べたように 13.8 度,他の場所ではどれも 3 - 5 度ですから,圧倒的です.TheGeoModels が “steepest” と表現したのも当然です.標高差は飛び抜けたものではありませんが,なんと言っても水平距離が他の場所の 1/2 ~ 1/6 なのが効いています.
それでは,このケイマン海溝とはいったい何もので,こんなにも急傾斜なのにはどういう要因があるのでしょうか?
右の図は,Google Earth で見るケイマン海溝周辺の海底地形図です.ディープで直線的なケイマン海溝の地形にはまったく驚かされます.周辺を陸・島・浅海で囲まれたこの部分がなぜこんなに stunning なのかというと,(上の表に既に書いてますが)これはトランフォーム断層(transform fault)なのです.ずれのセンスは分かりませんが,キューバ島とジャマイカの形から見ると,もしかすると左横ずれなのかも?
Iturralde-Vinent et al. (2016) によると,この断層はニカラグア海膨の北縁部からケイマン・リッジの南,キューバ島南縁を通り,少し湾曲してハイチ・ドミニカ(Hispaniola)の北縁を通っています.ケイマン諸島の南で短いリフトによって切断され,その部分で南に転位しています.リフトから東側は『北カリブ海トランスフォーム断層帯 Northern Caribbean Transform Fault System』と呼ばれています.Wikipedia では,このトランスフォーム断層がユカタン半島(マヤ地塊)の南を通過する部分を大陸リフトと図示していますが,その部分で本当に拡大しているかは分かりません.
Hispaniola からキューバ半島,そしてユカタン半島の東縁に至る弓型に湾曲した部分は,大アンティル造山帯(Greater Antilles Orogen)と呼ばれる,オフィオライトと付加体を含むジュラ-前期白亜紀の変成・褶曲帯です(Iturralde-Vinent et al., 2016).それらを白亜紀~古第三紀の島弧火山岩が被覆しており,Sierra Maestra は古第三紀の島弧です.
M.A. Iturralde-Vinent, A. García-Casco, Y. Rojas-Agramonte, J.A. Proenza, J.B. Murphy, and R.J. Stern (2016) The geology of Cuba: A brief overview and synthesis. GSA Today, 26, no. 10, 4-10. doi: 10.1130.
ケイマン海溝がトランスフォーム断層で,その周辺の地質構成や構造がそうなっていることも大体わかりましたが,『では,いったいなぜこんなに急なのか?』については,結局分かりません.TheGeoModels はそれについて,① 大陸プレートと海洋プレートが接している,② キューバとジャマイカの間の部分は Gonava Microplate となっている,③ カリブ海プレートの運動方向は?...といった要因となり得る要素を匂わしていますが,具体的な言及はありません.③ はちょっと気になる点で,NW~WNW へ 10 cm/y 程度と北米プレートよりかなり遅いのですが,それが要するにどう働くのかというと私は no idea です.
・2025/02/08 23:23 UTC,ケイマン海溝を震源とする M 7.6 という大きな地震が発生しました. USGS サイト によるとその震源深さは 10.0 km という浅いもので,上で紹介したカリブ海北部のトランスフォーム断層を起震断層としています(下図参照).それ自体は,サン・アンドレアス断層を思い起こすまでもなく,特に珍しいことではありませんが,M 7.6 という大きさにはちょっと驚きました.震源は,ケイマン諸島南西方のケイマン海溝南側の断層沿いです.余震もその断層に沿って発生していますが,一部北側断層沿いでも発生しているようです.
・この大きな地震発生に対して,地質系 Youtuber が早速反応しています.私もこの地震をそれらを見て初めて知りました.
M7.6 Quake Strikes Caribbean Region, Tsunami Alert Later Dropped: WHY? by Shawn Willsey, 2025/02/08
Caribbean Earthquake Update; Magnitude 7.6 Strikes, Tsunami Generated. by GeologyHub, 2025/02/10
・この二つの動画は,どちらも津波について言及しています.実際発生したらしいのですが,その規模は非常に小さなものだったようです.Shawn Willsey は『なぜ津波警報がのちに解除されたのか?』というサブタイトルにしていますが,その理由は言うまでもなく,起震断層が横ずれ断層なので上下方向の海底地形変動がほとんど無かったためでしょう.しかしそれ以外に,地震動による海溝斜面の崩壊が津波を引き起こすというのも大きな留意事項です.この斜面の急峻さを見るとけっこう危ないように思われます.しかし幸いそういう大きな現象は起きませんでした.
・で,特に Shawn Willsey の動画を見て,なるほどと思ったことがいくつかあります(上図参照).まず,ケイマン海溝は “北カリブ海トランスフォーム断層” という単一の断層がステップしているのではなく,やはり南北2本のトランスフォーム断層で囲まれているということです.二つの断層の間が Gonâva マイクロプレートとなっています.なお,ケイマン諸島から西側への断層延長(点線)は私が勝手に描きいれたものですが,海底地形を見るとこうするしかないような.次に,これらのトランスフォーム断層は上で予想した通りやはり左横ずれでした.だからどうということでもありませんが.
・最後に個人的に一番気になったのは,ケイマン諸島南西方の “ステップ” が明確に『Mid-Cayman 拡大軸』と書かれている点です.確かに海溝中の南北方向の線状地形を見ると,トランスフォーム断層に挟まれた中央海嶺(mid-oceanic ridge)の構造と非常によく似ています.それでは,拡大するからには物質がそこに上がってきて付加しなければいけないわけですが,この場合それはいったい何なのでしょうか? 中央海嶺であればそれは玄武岩質マグマであって海底火山活動が起きているわけですが,この “海嶺” の場合は? 動画にもその点について特に言及はないようです.
(2025/02/13 補足追記)
2025/01/22 に GeologyHub によって公開された Youtube 動画 The Geologic Formation We Can't Explain; Patomskiy Crater では,シベリア・バイカル湖の北東約 570 km の場所にある不思議なクレーター Patomskiy Crater(左写真)とその成因についての考察が紹介されています.発音は良く分からないのですが,“パトムスキ” でしょうか?
このクレーターについては Wikipedia にも項目があり,以前から有名なものだったようです.それによると,径 160 m で高さは約 40 m とあまり大きなものではありませんが,周囲の地形中に孤立して存在するもので,明確な二重の外形を示しています.このような外形は火山性の噴石丘(cinder cone)に非常によく似たものと言えます.クレーターの外形は斜面下方に伸びており,“噴石” の抛出がその方向に向いていたことを示しています.形成時期については複数時期に渡るとするデータもありますが,だいたい 300 - 350 年前とされています.
右に,Patomskiy クレーターの周囲の地形・地質状況を Google Earth 画像で示します.森林(タイガ)に覆われた緩く傾斜した凹凸の少ない丘陵で,どこにも火山性と思われる地形はありません(右上).クレーターやその関連地形と思われるものも他にはいっさい無く,これ一つきり・完全に孤立したものです.
周囲に分布する地質体は,新原生代(600 Ma 前後)の石灰岩を主体とする地層で,強く褶曲した褶曲帯(fold belt)を形成しています(右下).もちろん火山は一つもありません.“クレーター丘” を形成するのはおもに石灰岩の角礫で,GeologyHub の動画によると,砂岩や結晶片岩のブロックも含まれるとされています.これらのブロックはかなり大きなサイズのようですが,それらについての詳しい記述はありません.
では,このクレーターの成因はなんなのかというと...上の動画のタイトルにあるように,諸説ありまだ明確には分かっていません.一つ重要なポイントは,『 “噴石” の中に火山岩や火山性のものはまったくない』という点でしょう.つまりこのクレーターは,少なくとも通常の火山性噴石丘ではないということになります.
Wikipedia には,考えられる成因として三つが挙げられていますが,GeologyHub はそれを含めて,なんと7つの成因の可能性を指摘しています.
① 火山性噴石丘
② 隕石クレーター
③ 泥火山
④ 永久凍土の融解による天然ガスの爆発
⑤ 断層面での圧力低下による温泉関与の熱水性爆発
⑥ 岩塩ダイアピルの上昇によるドーム状構造(非爆発性)
⑦ 揮発成分に富んだアルカリ岩マグマによる水蒸気爆発
⑤ については,私は類似事例を知らないせいでどうもよく理解というかイメージできませんでした.彼は,① ~ ⑥ はそれをサポートする事実が希薄であるとして,⑦ の可能性を推したいようです.火山作用の形跡は周辺も含めて確かに無いのですが,この場所はバイカル・リフトの延長部にあり,リフト関連のマグマ作用があっても良いのではないかということがその背景です.
Wikipedia にも,このクレーターの火山性起源を支持する Antipin and Fedorov (2008) が紹介されています.しかし 2010 年には Patomkiey クレーターに関するカンファレンスが開催され多くのデータ提示と議論が行われたにもかかわらず,その成因に関する明確な結論はまだ出ていないと思われます.まさに “We Can't Explain” ということになるでしょう.
Antipin, V. S.; Fedorov, A. M. (2008) The origin of Patom Crater, East Siberia, from geological and geochemical data. Doklady Earth Sciences, 423 (2): 1335–1339.
自分なりの見方を書くと; ② ③ ⑥ は論外として,このような形態の “噴石丘” が形成されている以上,爆発は一度きりではなくある程度継続的に起きていたことになりますので,④ ⑤ はちょっと難しいように思われます.火山性である ① と ⑦ の違いはよく分からないのですが,火山性噴石丘(①)を作っているものは当然,火道周辺の岩石を破壊したものも含まれるとしても,ほとんどすべてが火山性砕屑物なので,このケースには当てはまりません.⑦ はその点を回避するために,水蒸気爆発で “火道” 周辺地質体を破砕させるという意味だと思われます.しかし水蒸気爆発を引き起こした高熱ホストは固体ではなく溶融体(マグマ)なので,当然それ自身も破砕され火砕物として抛出されるはずです.Patomskiy クレーターの “噴石丘” の中にそれがまったく見当たらないというのは,かなり苦しいと感じます.やはり We Can't Explain ということなのでしょうか...
あいかわらずタイトルだけでは何のことか分かりません.トップページのスライドする目次の関係上,少ない字数の簡潔なタイトルにせざるを得ないのですが...なかなか難しいです.
このトピックスは,いつものような最近どこかで見たネット記事・動画をネタにしたものではなく,ひょんな機会に目にした Moreau et al. (2012) の論文 の内容を紹介するものです.10 年以上も前のもので,最新のトピックスというものでもありません.
J. Moreau, J.-F. Ghienne and A. Hurst (2012) Kilometre-scale sand injectites in the intracratonic Murzuq Basin (South-west Libya): an igneous trigger? Sedimentology, 59, Issue4, 1321-1344.
右の Google Earth 画像は,アルジェリアとリビアの国境部にある Telout(テラウト?)山です.ピークの標高は約 960 m ですが周囲の標高が 660 m 前後なので,高さ 300 m 程度の小さな山です.しかし,この形状というか,砂漠の中に円形の depression リムに囲まれて孤立したこの円錐形の山はいったい何なのでしょう? 普通こういうのは火山だよね?と思いたいところですが,まったく違っています.これは『世界最大の砂インジェクタイトの山』なのです.
その規模(後述)と形状にはまったく驚きましたが,実は私の一番の驚きはその成因でした.ある意味では,私が砂インジェクタイトについて思い込んでいたことをぶっ壊してくれたと言うか.
Moreau et al. (2012) にしたがってその概要をおさらいすると以下のようになります.Telout 山を囲み同心円状の形態を示す depression の直径は 6 - 7 km,Telout 山の基部の直径は約 1.5 km です.Telout 山の高さは 325 m とされています.
Telout 山を構成するのは,無層理・不淘汰の中粒砂岩で,数 cm 以下のシルト岩クラストを散点的に含んでいます.なぜそれがこんなに真っ黒に見えるのかというと...分かりません.
Telout 山周辺の Murzuq Basin に分布するのは厚さ 2 km 以下の下部古生界(カンブリア~デボン系)で,おもに浅海成・河川成シーケンスから構成されています.シルル系の下部は頁岩・シルト岩などの細粒相を特徴としています.これらは北アフリカ・プラットフォーム(North Africa Platform)を構成する大陸性の地層です.
左の模式図は,Moreau et al. (2012) によるものを基にして描いた Telout 砂インジェクタイトの成因模式図です.
まず,泥質のシルル系下位にあるオルドビス系はおもに砂岩からなり,地下水面(water table)の下底はその中にあったと考えられます.シルル紀泥岩は遮水層・シールの役割を果たしていて,下位のオルドビス紀砂岩に高い間隙水圧を保持させていたようです.
その含水堆積層の中に,前期デボン紀に玄武岩質のマグマが貫入し,地下水・間隙水と接触して(マグマ・)水蒸気爆発を起こしました.その際の衝撃波などがトリガーとなって砂質堆積物の液状化が起こり,上位の地層を破壊しながらドーム・ダイアトリーム(diatreme)状に貫入・上昇していったと考えられます.
最終的に,砂流体はシルル紀砂岩層の上部に達し,大規模な砂火山体として当時の地表に現れ,ドーム下部の重力崩壊によって砂火山体の周囲はカルデラ状に陥没しました.
これが Moreau et al. (2012) のシナリオですが,自分的にはいろいろ気になる点があります.
まず,『オルドビス紀砂岩が前期デボン紀に液状化した』という点です.正確な年代は記されていないのですが,仮にオルドビス紀最末期からデボン紀最初期としても,そのタイムギャップは 23 mys(2,300 万年!)以上になります.そんな古い堆積物が含水していてよいのか?とも思われます.
この点については二つのことが考えられます.①安定した大陸プラットフォーム上では変動帯と異なりそういうことが起きても良い.②油ガス田地帯のような地下流体の存在が支配的な場所ではそういうことが起きても良い...という2点です.特に,②は今まで私のアタマから抜け落ちていた点です.例えば『新冠泥火山』では,液状化の産物である噴泥中に新第三系のシルト岩などのブロックを含むわけですから,少なくとも新第三系中新統(ca. 10 Ma)の堆積物が地層水関与で現に液状化しているわけです.それを考えると,大陸地域なら 25 mys 経っていてもそういうことがあっても良い...いい加減な論理ですが,今まで考えてもみなかったことで,ちょっと目からうろこが取れました.
もう一つは,そういうマグマ関与の水蒸気爆発が地下深部で起こったとすると,それなりの破砕相があって当然のような気がします.しかし,顕微鏡的な玄武岩砕屑物の記載はありますが,chaotic な角礫相などの存在は示されていません.また,地層パイル深部でのマグマ-水反応の結果として水蒸気爆発が起きるというのは,封圧の点で大丈夫なのだろうか?という疑問もあります.水蒸気爆発が起こった深度は,論文中では詳しくは触れられていませんが,彼らの層序柱状図を見る限りでは,500 m ~ 1 km の間にあるものと推察されます.そういう深度で水蒸気爆発が起きている例はあるのでしょうか?
タイトルはいったい何のことかさっぱり分かりませんが....“雪玉” というのはもちろん Snowball Earth(雪玉地球)のことで,簡単に言うと 730 - 630 Ma 前後(新原生代後期)に地球はなぜか全球が氷床におおわれており,その終結がカンブリア紀の爆発的な生物進化をもたらし...という アレ です.私はこれが既に実証されている学説と思い込んでいたのですが,そうではなくまだ単なる仮説段階で,その当否についてはさまざまな議論があるそうです.
で,雪玉地球が『氷河の下に押し込まれた岩石によって証明された』という話を某新聞記事で最近読んだ時,いったい何のことか地質屋の私にはさっぱり理解できませんでした.その後見た MSN 記事 でも似たようなものでしたが,その出典は space.com の この記事 でした.ここに至って,はじめて “押し込まれた岩石” というのが 砂岩脈(sand injectite)のことだと分かったわけです.その元ネタは,Courtney-Davies et al. (2024) でした.また,この砂岩脈については Siddoway and Gehrels (2014) による詳細な報告があります.
L. Courtney-Davies, R.M. Flowers, C.S. Siddoway and F.A. Macdonald (2024) Hematite U-Pb dating of Snowball Earth meltwater events. Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences, 121 (47).
C.S. Siddoway and G.E. Gehrels (2014) Basement-hosted sandstone injectites of Colorado: A vestige of the Neoproterozoic revealed through detrital zircon provenance analysis. LITHOSPHERE, 6, no. 6, 403–408.
以下ではこれらの論文に基づいて,砂岩脈と雪玉地球にいったいどういう関係があるのかを紹介したいと思います.まず要点を箇条書きにまとめると,次のようになります.
・ アメリカコロラド州中央部には Pikes Peak 花崗岩 が分布し,その年代は 1.0 - 1.1 Ga(中原生代後期).※ Pikes Peak は,モータースポーツ・ファンには超有名なヒルクライム・レースが行われる山です.
・ Pikes Peak 花崗岩の内部には,Tava 砂岩と呼ばれる砂岩体が分布し,その産状は砂岩脈.
・ Tava 砂岩脈の砕屑性ジルコン年代の最若年代は 825 Ma(新原生代前期).
・ Tava 砂岩脈中には,それを切るあるいはそれに切られる赤鉄鉱-石英脈が見られる.
・ 脈中の赤鉄鉱 U-Pb 年代から制約される Tava 砂岩脈の貫入時期は 690 - 660 Ma(Cryogenian:新原生代中期).
・ Tava 砂岩脈は,厚い大陸氷河の融氷期に,その底部における過剰間隙水圧-液状化によって発生した.
・ その時期のコロラドは古地磁気的検討から低緯度地域に位置するとされており,全球が氷河におおわれていたことを示唆する(雪玉地球).
砂岩脈の存在が雪玉地球を証明したという非常に興味深い報告です.個人的に特に注目されるのは,砂岩脈の貫入時期を推定する手法です.砂岩脈の砕屑性ジルコン U-Pb 年代を測定しても,その源岩の堆積年代が分かるだけで貫入時期は当然分かりません.砂岩脈を切り・砂岩脈に切られる赤鉄鉱-石英脈の年代によりそれを制約できたというのは画期的です.
ちなみに,赤鉄鉱の U-Pb 年代が測定できるというのは私には初耳で,非常に驚きました.他にも測定できる鉱物があるのでしょうか?
ただし専門外の素人目に見ると,いくつか不明点・疑問点もあります.
① Tava 砂岩脈の源岩堆積年代は 850 Ma 前後,貫入年代は 670 Ma 前後なので,その時代差は2億年(!)程度あります.この堆積-貫入ギャップは長すぎないでしょうか? それだけ時間が経過すれば砂岩は完全に固結してしまい間隙水は無いので液状化など起きないような? 大陸や先カンブリア紀での常識は私のような島弧地質屋の常識とはかけ離れているということなのでしょうか...
② 氷床下で砂岩脈が形成されるメカニズムがよく分かりません.彼らは現在の南極氷床下での現象に言及していますが,その具体的な記述は見つかりませんでした.通常の砂岩脈の形成条件については, こちらのページ で模式的な説明を書いていますが,氷床下となるとちょっと(かなり?)話が違います.まず,氷床下の堆積物に間隙水があった場合,その水圧は;氷床底面の “静氷圧”+底面より下の静水圧,になるはずです.氷の密度は 0.9 前後で水より小さいので,間隙水圧は地表まで水柱が連続していた場合の静水圧よりも小さくなってしまいます.この状況でどうすれば過剰間隙水圧が発生してその下の岩盤を破壊できるのかがよく分かりません.
③ もしかすると...Siddoway and Gehrels (2014) が指摘しているように,氷床下の Pikes Peek 花崗岩が既に古風化等で degradation を被っており強度が著しく低下していたことと関係しているのかもしれません.それに加えて,氷床すべりに起因する剪断力・引きずり力が働いているのかもしれません.Siddoway and Gehrels (2014) に掲載されている砂岩脈の露頭写真を見る限り(転載できませんが),砂岩脈は膨縮や湾曲に富んだ不規則な形態を示しているものが多く,単なる裂罅充填脈ではないように見えます.このへんは,アイスランド氷河底部の現象を記載した Ravier et al. (2015) あたりが参考になるかもしれないのですが,残念ながらそのアブストしか入手できていません.とりあえず想像するしかないので,通常の堆積岩中の砂インジェクタイトと対比して,勝手な想像図 を描いてみました(右上図).科学的な正確さを無視したもので,真に受けないでください.あくまでも,私の持っている砂インジェクタイトのイメージを表したものということで.
E. Ravier, J.-F. Buoncristiani, J. Menzies, M. Guiraud and E. Portier (2015) Clastic injection dynamics during ice front oscillations: A case example from Sólheimajökull (Iceland). Sedimentary Geology, 323, 15 June 2015, 92-109.
④ Courtney-Davies et al. (2024) は,新原生代におけるコロラドの古地理的位置が当時の赤道に近く,全球氷結を示唆すると述べています.この点について C.R. Scotese による Atlas of Phanerozoic Paleogeographic Maps (2021) の 690 Ma の古地理復元図を見てみると,どうもよく合いません.彼は雪玉地球を全面的に取り入れていて,この時期の古地理図は氷床ですべて覆われています.それによると,北アメリカ(ローレンシア)の当時の位置は南ロディニア超大陸の南部にあって,古緯度は少なくとも 60 度はあるように見えます.このへんをどう考え(・評価し)たらよいのか,もちろん私には分かりません.
※ 余計な話ですが,当時の日本列島(南中国)は,北アメリカとは反対側,北ロディニア超大陸の北縁に近いところに位置していたとされています.
2024/11/15 に公開された GeologyHub の Youtube 動画 Explosive Mud Volcano Erupts in Colombia; 2,500+ Foot Fireball, Road Covered では,2024/11/11 に発生した南米コロンビアの北部に位置する Cacafual 泥火山(緯度経度:8.3406, -76.4565)の噴火がレポートされています.
この動画では,噴火(eruption)の様子自体は紹介されていませんが,例えば Weather events による A large-scale eruption of a mud volcano, in San Jose de Mulatos, Colombia を見てください.一般に泥火山の場合,erupt するものは含水泥とガス(多くはメタン)なので,日本語にすれば噴火ではなく『噴出』が正しいと思います.しかし今回の Cacafual 泥火山の場合,上の動画で分かるように巨大な火柱を伴う文字通り『噴火』と言ってよいものでした.
その動画で見る限り,最初のステージでは一般の泥火山でよく見る含水泥の噴出でしたが,その後突然巨大な火柱が上がり,そのプルームはおそらく高さ 数百 m に達していると思われます.周りは居住区域ですので,住民がそれを見て逃げ惑う様子が記録されています.
火柱はもちろん溶岩ではなく,可燃性ガス(メタン)の爆発によるものですが,引火源がないのになぜ爆発したのかと感じます.自然発火ということなのでしょうか? 噴出で気体は膨張しますから温度が上昇するはずはなく,不思議です.GeologyHub の言っているように,噴出物の中に含まれる岩片等の摩擦による静電気の発生やそれが衝突する際の火花発生などが考えられるでしょう.
※ なお,この “噴火” を紹介する動画は他にもたくさん公開されていますが,その中には通常の火山噴火と区別がちゃんとついていないと思われるものもあります.泥火山というものに対する一般のリテラシーを示すものかもしれません.
右に,Cacafual 泥火山の Google Earth 画像を示します.植生の多い地域なので,この泥火山の基部の径や高さ等は良く分かりません.Google Earth で見えている植生被覆のないアクティブ部分はそれほど大きくなく,直径が 250 m 程度と言ったところです.
その周囲には平坦面が広がっていますが,これが人工的な改変によるものかそれとも泥火山噴出物の作る地形なのかは不明です.平坦面上には,小規模な噴出孔と思われる凹地がいくつか見られます(図中の茶色矢印)が,その分布・配列には特に傾向は見られません.
Cacahual 泥火山の地質学的・テクトニックなバックグラウンドとしては,GeologyHub の動画に衝上断層の存在とそれに沿った流体の上昇が紹介されていますが,私は十分にフォローできていません.いずれにせよ油ガス田地帯なので,それが主要因だとは思いますが.