私的・北海道地質百選
『ワッカケ岬の崩壊』
豊浜トンネル崩落事故現場周辺で,崩落時期が分かっている大規模岩盤崩落の例が『ワッカケ岬の崩壊』である.
余市町ワッカケ岬は,湯内漁港からさらに余市側にある(右写真).
急崖を作っている地質は,豊浜・湯内とほぼ同じ安山岩質火砕岩・水冷破砕岩で,陸側にゆるく傾斜している.
崩壊は岬のほぼ突端の急崖で発生した.その時期は,豊浜トンネル事故調査委員会によると 1993 年 12 月で,近隣の住民が未明の崩落音・振動に気づいている.豊浜トンネル崩落事故の2年少し前ということになる.
崩落範囲の直下や近辺には人家や人工構造物はないので実害の無いものではあったが,崩壊規模としては非常に大規模なものである.
崖面上部のおでこのように見える部分は,剥離面の向かって右側にある残留部で,いずれは崩落するものと思われるが,2023 年現在まだ崩落していないようである(未確認).
海上から撮影した写真を右に示す.左側がワッカケ岬,右側に見える建物は,崩落音を聞いた住民の民宿である.
岬の基部には船着き場があり,崩落個所はそれにかなり近接したものである.筆者が 2000 年 5 月に現地に行ったときには,船着き場から岬側は立ち入り禁止になっていた.
海上から接近して崩壊箇所を見ると,右写真のようになる.崩壊面はまだ新鮮で,崖の前に崩落した岩塊も波蝕等を受けることもなくほとんどそのまま残っていた.
崩壊剥離面中央部にハイアロ岩塊の濃集部があり,その上位が細粒なため,弱い “段差” がついている.周囲の露頭面にも,その部分に弱いオーバーハング部が認められる.その段差から上位の剥離面はわずかに前側に傾斜しているように見えるので,上部岩塊は前方転倒(toppling)して落下した可能性もある.
ちなみに,右写真はヘリからの空撮ビューである.
撮影が 1998 年なので,上に掲載した写真よりは若干新鮮な状況である.斜め空撮で崩積岩塊の様子など,非常に分かりやすい.
現在であればドローン(UAV)ということになるが,斜め空中観察が斜面崩壊の把握にきわめて役立つ手法であることが如実に分かるショットである.
(なし)
豊浜トンネル崩落事故調査委員会,1996,豊浜トンネル崩落事故調査報告書.