私的・北海道地質百選
『芦別岳の山容』
富良野市と南富良野町の境界にまたがる芦別岳(1726.1 m)は,富良野盆地の西側に夕張岳から連なる山稜を形成している.芦別岳は,夕張岳とは異なる独特の荒々しい山容を見せている.この山容は,芦別岳周辺に分布する堅硬な海洋性岩体によって作られているものである.
芦別岳の東(富良野)側からは,芦別岳の連峰を間近に見ることができる(上写真).
この急峻な地形は,白亜紀前弧海盆堆積体の下位にある海洋性地質体(空知層群)の緑色岩(=海洋プレート上部)によって作られている.
その層位学的上位には比較的岩質の軟らかい蝦夷層群堆積岩があり,それが芦別岳連峰の東西両側に分布しているため,風化抵抗性の高い緑色岩の部分が急峻な山容を作っているということになる.
しかしその構造は複雑で,空知層群緑色岩と蝦夷層群の累重関係・層序は必ずしも明らかとは言えない.
また,芦別岳連峰の背後(西側)には,狭長な蛇紋岩分布地帯が南北に伸びており,その存在も,この地形特徴の一因となっている.
※ なお,きわめて鋭い岩峰状の富良野西岳は緑色岩体ではなく,後に貫入した珪長質火成岩体からなっている.
芦別岳は西(南幌-長沼町)側からもその迫力ある姿を見ることができる(上写真).あまり知られていないが,札幌市街地周辺からも視界良好な時には芦別岳の姿を確認できる.
この角度から見ると,芦別岳からその南の夕張岳に至るスカイラインが一望でき,非常に魅力的な地質景観サイトとなっている.
右写真は南幌町市街地付近から撮影したもので,上のパノラマ写真とは少し異なる芦別岳への視線となっている.残雪の季節で,立体的な芦別岳の山容が素晴らしい.
実はこの写真には,驚くべき地質景観が写っている(右下写真).芦別岳山麓の手前斜面に,大規模な成層構造が見えているのである.
この成層構造を作る地質体については具体的には未確認であるが,空知層群上部中の珪質岩/火山岩の互層であると考えられる.
これについては地質アーティクルの『風景の中の地質構造』に紹介しているので,詳細についてはそちらを参照していただきたい.
この成層構造の視認にはおそらく,積雪・太陽光の方向という二つの条件が必要で,そう簡単には巡り合えないものなのかもしれない.
(なし)
富良野市・南富良野町.芦別岳:
中富良野町撮影地点: ハートヒルパーク展望台: 南幌町撮影地点:
橋本 亘(1953)5万分の1地質図幅『山部』.北海道開発庁,82 p.
Takashima, R., Kawabe, F., Nishi, H., Moriya, K., Wani, R. and Ando, H., 2004, Geology and stratigraphy of forearc basin sediments in Hokkaido, Japan: Cretaceous environmental events on the Northwest Pacific margin. Cretaceous Research, 25, 365-390.