私的・北海道地質百選
『札前の付加体岩相』
※ このサイトの観察時期は 1989 - 1991 年と,非常に古いものである.そのため,これらの露頭が現在どのような状況になっているのか,まったく未確認である.また,戸長川河口の露頭は,2005 年頃には砂浜の下に埋もれており,場所も含めて確認できなかった.
また当時はデジタル写真以前で,フィルムで撮影したものを低解像度(横 700 px!)でスキャンしたデータしか残っておらず,掲載したものはそれを現在の技術で復元したものであるが,画質は非常に悪い.
付加体中には,通常の地層の中には見られないような特有の構造・産状が観察される.松前町札前(さつまえ)周辺の海岸は,それが観察できる良好なサイトである.
『キノコ岩のチャート岩体』サイトで分かるように,付加体の変形砕屑岩類とチャート岩体は,チャート-砕屑岩シーケンス中を除くと,一般に堆積関係にはなく “異地性” である.戸長川河口付近の海岸では,この関係が観察できる(右写真).
写真下に見えているのがチャート岩体の見かけ上の上端部で,泥岩と密着接触している.泥岩の中には,剥ぎ取り状のチャート・レンズが見える(スケールの上端部).その左上に見える大きな包有物は砂岩レンズで,砕屑岩互層全体が破断変形している.
こういった産状を明確に説明することは難しいが,砕屑岩とチャート岩体が “延性的に” 接触しているものとしか言いようがない.沈み込む海洋性岩体が海溝充填堆積体と接合(= scraping, underplating)する際にこのような構造ができたということなのであろう.
札前海岸では,変形砕屑岩中に『変形流動層』が観察される.乱雑な構造を持つ不淘汰な泥質基質と砂岩・泥岩の包有物からなるもので,変形した砂質薄層(~ラミナ)も含まれ,非調和に褶曲している.全体の厚は 2 - 3 m 以下である.
このような変形層は,一般にはスランプ層と考えるのが自然である.しかし,変形層が母岩の層理を切断しているように見える部分があることや, “不淘汰シルト岩脈” を伴うことなど,スランプ層と考えるには不審な点もある.もちろん,『のちの剪断変形を被ったスランプ層』という可能性はある.
右の写真は,白神岬の付加体中にも見られたものであるが,変形砕屑岩中に見られる “不淘汰シルト岩脈” である.母岩の層理に準平行であるが,分岐・膨縮しながらそれを切断しており,砕屑岩貫入体(シル)と考えるのが自然である.
こういった付加体の内部構造は,十分に記載されておらず,したがってその形成メカニズムについても不明な部分が多い.
(なし)
川村信人・大津 直(1997)ジュラ紀渡島帯付加体における内部流動現象とチャート岩体の産状.「加藤誠教授退官記念論文集」,183-189.