私的・北海道地質百選
『白神岬の付加体岩相』

 松前町白神岬は,北海道最南端の岬である.晴れた日には,津軽海峡を挟んで本州の地を遠望することができる.ヘッダー・サムネールでは,岩礁露頭の向こうに竜飛岬と岩木山が見えている.

 この岬付近は,ジュラ紀付加体渡島帯の内部構造が海岸で詳しく観察できる良いサイトとなっている.海岸露出は,付加体に限らず地質体の構造を良好に観察できる場所であるが,実は北海道では付加体の海岸露出はイドンナップ帯の北部を除くとほとんどない.


膨縮変形した成層チャート.2000 年 10 月撮影.
破断変形した砂泥質岩.2001 年 7 月撮影.

 白神岬覆道脇の駐車スペースから海岸へ降りると,まず右写真のような膨縮変形した成層チャートの露頭が見える.ただし周囲の砂泥質岩との接触関係は,ここでは確認できない

 この岩体そのものかは不明であるが,白神岬のチャート岩体から,豊原ほか(1980)によって三畳紀コノドント化石が発見されている.
 これはおそらく,渡島帯のチャート・砕屑岩からの初めての化石の発見であり,その後の北海道の付加体研究の端緒の一つとなったものと言える.

 次に見えてくるのは,層面平行伸長の剪断変形を受けた砂泥質岩である(右写真).砂岩層はブーダン状に破断しており,連続性はほとんど失われている.砂岩自体は石英長石質で,一部チャート砂岩を含む.

 このような変形砕屑岩は付加体の特徴岩相であり,折戸浜などに露出する海溝充填タービダイトの変形したものである.

スランプ・ボール状構造.2009 年 6 月撮影.
砂泥質岩中の流動変形層.2009 年 6 月撮影.

 砂泥互層の中には,破断した砂岩層が連続性を完全に失い “スランプ・ボール状” になっている部分もある(右写真).これが実際に表層スランプで形成されたものか,あるいはなんらかの剪断変形によるものかは不明である.

 この他に砂泥互層中には,非常に不可思議な構造を持った層も認められる(右下写真).
 厚さは 15 cm 程度で,泥基質の中にチャート粒子などが散在する不淘汰乱雑なもので,変形破断した葉理砂岩層を含む.層の(見かけ)上部には,砂岩の角礫状包有物も含まれている.
 このような層は,泥基質のデブリ・フロー堆積物とも見える.しかし,厚さが非常に薄く周囲の砕屑岩の層理を低角にカットするように見える部分もあり,流動化した(fluidized)未固結堆積物のシル状貫入体である可能性も否定できない.


 これらの変形砕屑岩中に,緑色岩の薄いシート状岩体(厚さ 1 m 程度)が含まれている(下写真).緑色岩体の周囲は著しく不規則で,泥岩と cm ~ mm オーダーで複雑に混ざり合い,“墨流し状” となっている.


緑色岩と泥岩の墨流し状混在構造.2001 年 7 月撮影.

緑色岩(淡緑色)と泥岩(黒色)のネットワーク・墨流し状混在構造.2001 年 7 月撮影.

 泥岩が緑色岩中に包有され,その中に緑色岩がネットワーク細脈状に入り込んでいる部分もある(右写真).

 緑色岩は言うまでもなく海洋性岩石であり,砂泥互層とは形成場所の異なる外来岩体である.
 このような産状は,緑色岩体が砂泥互層中に定置した時,その一部(おもに周縁部)と泥岩が延性的(ductile)に変形して混合したことを示している.どのようなシチュエーションでそれが可能かは,いくつかの可能性が考えられるが,不明としか言いようがない.

 実はこういった付加体の enigmatic な内部構造 は,筆者の知る限り報告されている例がほとんどない.堆積時スランプとその後の緑色岩体の定置・剪断変形ですべて説明可能なのかもしれないが,確信はない.

 いずれにせよこれらの種々の構造は,どのような付加体にも存在する もので,たまたま白神岬周辺の海岸露出でそれが観察できる,ということなのであろう.


既存の指定など

(なし)


所在地

松前町 白神岬.


サイトの状態:


参考文献

豊原富士夫・植杉一夫・木村敏雄・伊藤谷生・村田明広・岩松 暉(1980)北部北上山地-渡島半島の地向斜.総研成果報告書「日本列島北部における地向斜および構造帯区分の再検討」,27-36.


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