私的・北海道地質百選
『三石ダムの蝦夷層群』
白亜紀前弧海盆堆積体・蝦夷層群・下部層準の厚層タービダイトは,蝦夷層群における陸源粗粒砕屑物供給の最初のもので,海溝ジャンプによる新たな前弧海盆の出現を告げる “ファンファーレ” とも言うべきものである.
新ひだか町三石美河(みかわ)の三石ダム周辺には,蝦夷層群下部層準の良好な露頭がある(右写真).
『農屋』図幅では,三石川層として塗色されているものに相当する.
タービダイト砂岩層の最大層厚は 1 m 程度で,やや膨縮変形している.
厚層タービダイト砂岩層が,ほぼ癒着して累重する部分も見られる(右下写真).
上の露頭は,2000 年夏から秋にかけて,道路工事の開削によって一時的に出現した露頭で,下部層準タービダイト層の露頭として貴重なものであった.
このような新鮮な露頭で見ると,全体に意外なほど強い構造変形を受けており,層面に準平行~低角斜交する剪断面が発達し,砂岩層はそれによって伸長破断・膨縮している.泥岩部は強いすべり面となっている部分が多い.
こういった強い構造変形は,中部層準にはほとんど見られない.しかし下部層準に普遍的なものなのか,また地域による差異があるのかどうかは,記載報告がほとんどなく,実はよく分からないというのが実情である.
なお,このような強い構造変形にもかかわらず,この露頭ではタービダイト砂岩層底面にさまざまなソールマークが観察できる(右下写真).グルーブ・キャスト,ロード・キャストが主体である.右写真下は,フルート・キャストが荷重によって変形したもののように見えるが,確信はない.
これらのソールマークから分かることはほとんどないが,少なくともこのタービダイト互層が逆転していないことだけは分かる.
(なし)
松下勝秀・鈴木 守(1962)5万分の1地質図幅『農屋』.北海道開発庁,38 p.