私的・北海道地質百選
『クリノ沢の蝦夷層群』

※ このサイトは,一般市民が気軽に訪れることができるような場所ではない(と思う).最終人家から林道を 20 km 以上走り,そこから沢に入るサイトである.そういう類のものをたとえ私的であっても地質百選なんかにに入れるなよと言われそうであるが,『百選』に入ることは間違いないサイトという確信がある.
幸いにもこの上流に北電の春別ダムがあり管理棟があるため,林道自体はゲートもなくフリーパスになっている(2014年現在).20 km の林道走行にもそれなりのスキルが必要であるが,なにしろ山が深い...ヒグマとエゾシカのテリトリーなのである.


 蝦夷層群は白亜紀前弧海盆堆積体である.しかしそれは単なる『アンモナイトを含む地層』ではない.それ自体が島弧-海溝系のテクトニクスを内包している地質体なのである.新ひだか町(旧静内町)春別川の中流部にあるクリノ沢は,“蝦夷層群のテクトニクス” を実感できるサイトである.


珪長質凝灰岩/泥岩の互層.1996 年 10 月撮影.

 クリノ沢に分布する蝦夷層群は,その中部層準の下半部にあたる.

 おもにタービダイト砂岩泥岩互層からなり,その上位には特徴的な珪長質凝灰岩と泥岩の互層がくる(右写真).
 この凝灰岩互層は,いわゆる “丸山層相当層” で,蝦夷層群の key horizon の一つになっている.堆積年代は ca. 100 Ma (Cenomanian) である.

 凝灰岩互層の下位には,タービダイト砂岩泥岩互層があり,そのリズミックな互層は非常に美しい(下写真左).
 タービダイト砂岩は一般に葉理が発達し(Tb-c),単層上部は生物擾乱が著しいのが分かる.まれに層理面上に生痕が観察される場合がある(下写真右).


左:タービダイト互層.2014 年 9 月撮影.右:層理面上の生物擾乱構造.1997 年 7 月撮影.

含礫泥岩の露出.2002 年 7 月撮影.
片理を生じた玄武岩ハイアロクラスタイト礫.2014 年 9 月撮影.

 このサイトでもっとも特徴的なものは,なんと言ってもその最下部に露出する含礫泥岩である(右写真).
 川村ほか(1999)で報告されたものであるが,蝦夷層群の中にこのような岩相が存在するという記載・報告はそれまでまったく無かった.従来の蝦夷層群の研究が,層序と化石に偏っていたことを示すものと言える.

 なお,含礫泥岩の下位には断層関係で神居古潭帯(あるいはイドンナップ帯)の緑色岩が接しており,蝦夷層群の基底部はこのサイトでは見えていない(『上アブカサンベ沢の不整合』参照).

 この含礫泥岩中に含まれる礫の主要なものは,種々の岩相を示す緑色岩類であるが,特筆すべきなのは『変成した緑色岩』の礫を含むということである(右下写真).
 岩石薄片を作製し鏡下観察すると,これらの変成岩礫には驚くべきことに低温高圧型変成作用を示す青色角閃石が含まれていることが分かる.

 そのテクトニックな意味についてはここでは長くなるので省略するが,『“岩清水古陸”-エゾ海盆中の前弧リッジ』に簡単に述べた.
 またクリノ沢含礫泥岩の詳細については,『黒歴史シリーズ-その5,6』にあることないこと(?)すべて紹介しているので,興味ある方は参照して欲しい.


既存の指定など

(なし)


所在地

新ひだか町 春別川中流クリノ沢.


サイトの状態:


参考文献

川村信人・植田勇人・鳴島 勤,1999,前弧海盆堆積物中の不整合とスランプ体-中部蝦夷層群基底部の層位学的現象-.地質学論集,No.52, 37-52.


関連サイト



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