私的・北海道地質百選
『判官館のソールマーク』
新冠市街の西方,新冠川河口の判官館(はんがんだて)海岸には,突き立った高い崖がある(ヘッダー・サムネール参照).この崖を正面から見ると,ほぼ垂直な地層からできていることが分かる(下写真左).
この地層は『元神部(もとかんべ)層』と呼ばれ,1500~1600万年前(新第三紀中新世)に堆積した海成層である.地層を作っているのは,おもに砂岩で,礫岩~礫質砂岩も見られる.これらは癒着した粗粒タービダイト互層で,向かって左(南西)側が上位である(右写真右).
露頭の下部には,小さな波蝕洞があり,その中に入って地層の底面を見上げると,見事なソールマークが観察できる(右写真).ソールマークは大部分がフルートキャストで,その古流向が判断でき,流向は右上⇒左下(=北北西⇒南南東)である.
この見事なソールマークも,波浪侵食などにより年々不明瞭になりつつある.
この波蝕洞の上方の露頭を見上げると,地層の境界が波状にうねっているのが見える.これは,フルートキャストの断面を見ているのである.このような断面がはっきりと観察できるというのは,かなり珍しいことで,筆者は他にそういった例を知らない.
礫質タービダイトには,注意して観察すると,右写真のような黒雲母片岩の礫が発見できる.変成度としてはかなり高いもので,この地層の堆積時(約 1,500 万年前)の後背地として現在の日高山脈の元になった山脈が形成されていたわけだが,そこに日高変成帯の比較的深部(10 km 前後)を構成する黒雲母片岩が上昇し,既に地表に露出し浸食されていたことを示すもので,興味深い.
(なし)
松野久也・山口昇一,1958,5万分の1地質図幅および同説明書『静内』,北海道開発庁,36p.