私的・北海道地質百選
『白神岬の泥注入脈』

注)このサイトは本家・北海道地質百選には,大津直さんとの共同執筆で投稿したものです.今回ここに掲載するにあたり,文章表現はすべて見直し,オリジナルとなっていますが,大津さんの書いた文章部分が未分離で残っている場合もあり得ます.ご了解ください.なお写真はすべてオリジナルです.


 海洋プレートの沈み込みで形成される『付加体』を構成する地質体は,通常の地層とは異なるさまざまな特徴を持っている.その一つがメランジュである.その成因についてはさまざまな見解があるが,中でも興味深いのが,高い水圧を持った泥が貫入して形成されるという “泥ダイアピル(mud diapir)説” である.


含礫泥岩の貫入露頭.上の暗色部が付加体砕屑岩(砂泥互層).その層理面は写真上でほぼ水平であるが,それを斜めに切って明灰色の含礫泥岩が貫入している.1989 年 4 月撮影.マウスホバーで説明を表示する.
貫入した含礫泥岩の岩相.泥質基質の中に大きさの不ぞろいな包有物(チャートなど)が散在している.未固結の粥(かゆ)状の流体として砕屑岩中に貫入してきたものと考えられる.1988 年 7 月撮影.
cm オーダーの泥注入脈.大津直氏の発見・採取と研磨サンプル作成による.

 松前町白神岬周辺のジュラ紀付加体(渡島帯)には,この泥ダイアピルの存在を示す含礫泥岩の産状が見出されている(大津・川村,1997).

 右の写真は,含礫泥岩の付加体砕屑岩(砂泥互層)に対する貫入関係を示したものである.
 貫入した含礫泥岩は,母岩の変形砕屑岩の層理と変形構造を切っており,少なくとも付加体の主要な変形ステージのあとに注入したことになる.

 含礫泥岩は,母岩の変形砕屑岩中の泥岩とは色調が異なり,やや明るい灰色を呈している(右写真).が,その理由は明らかではない.きわめて感覚的な表現になるが,“泥粥(mud mush)状” の見かけを呈している.

 この含礫泥岩体の周辺から,大津直氏によってサンプル・顕微鏡レベルの泥注入脈がいくつか発見され(右下写真),川村ほか(1994),大津・川村(1997)で報告されている.
 泥注入脈は,上に示した露頭レベルの貫入関係と同様に母岩の変形構造を切っているが,脈自体も弱い伸長変形を被っている.

 付加体内部の高間隙水圧を示すこの貴重な露頭は,その後の駐車場(白神岬展望広場)と護岸の建設により,その大部分が失われた.

 なお,泥ダイアピルが海底に噴出すると『泥火山(でい/どろ かざん)(mud volcano)』となる.
 陸上の泥火山としては,北海道では新冠泥火山が著名であるが,世界的にはアゼルバイジャンの油田地帯で大規模な泥火山が知られている.プレート沈み込み(付加体)に関連したものとしては,インドネシアのジャワ・チモールの例が有名である.


既存の指定など

(なし)


所在地

松前町 白神岬展望広場付近.


サイトの状態:


参考文献

川村信人・大津 直・寺田 剛・安田直樹(1994) 渡島帯付加体の内部構造.日本地質学会第101年学術大会見学旅行案内書,175-195.

大津 直・川村信人,1997,渡島帯松前コンプレックス中の泥注入構造-付加体中の流体関与現象の一例-.川村信人・岡 孝雄・近藤 務編「加藤誠教授退官記念論文集」,151-159.


関連サイト



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