私的・北海道地質百選
『新冠泥火山』
注)このサイトは本家・北海道地質百選では,田近淳さんが『新冠とその周辺の泥火山』として投稿しています.ここに掲載するものは, 田近さんの投稿 をもちろん参考にしていますが,すべてオリジナルのものです.
泥火山(mud volcano)は文字通り,泥(と水の混合物)が地表に噴出するもので,その結果火山とそっくりな山体が形成される.
その形成メカニズムにはいろいろなものがあるが,現在の地球上で確認される泥火山の多くは,地層中に賦存する石油・天然ガスおよび地層水に関係したものである.
新冠町高江から節婦にかけての地域には,国内最大級の『泥火山群(mud volcanos)』がある.この規模のものは,おそらく国内では唯一のものと思われ,高江の牧場内の泥火山の前には『日本にここだけ新冠泥火山』という看板が立てられている.
高江の牧場には四つの泥火山が存在しているが,そのうちもっとも東側に存在するものが現在でもアクティブな泥火山である(右写真).他の泥火山の活動度ははっきりしない.泥火山の形態は一般に平頂で,流動性の高い溶岩が作る楯状火山(shield volcano)にも似ている.
もっとも東側の泥火山体の高さは基部から約 15 m,基部の直径は地形図から判断すると約 170 m である.
新冠泥火山群の噴泥活動は,現在ではあまり活発とは言えない.しかし,大きな地震が発生するとその振動によりペースト状の泥の塊が噴出することが確認されており,例えば 2008 年十勝沖地震の際に泥火山の頂部に大量のペースト状泥塊が噴出している.
新冠泥火山は,新第三紀の地層の背斜構造部に地層水やガスが “間隙流体” として滞留し,脱水が進ないため間隙水圧が高まっており,地震動などによる液状化-弱線に沿う噴出が要因とされている.
右に,新冠泥火山群周辺の地形特徴を示す.上のパノラマ写真に示したのは泥火山1と2で,現在アクティブなのは泥火山1である.
一目で分かるように,新冠泥火山群は NW-SE 方向に直線的に配列しており,節婦泥火山はその延長上にある.また泥火山1と2は,頂部の噴出孔がはっきりと見えている.
右図の茶色矢印は,節婦川流域にある非アクティブな大規模泥火山である.特に西側のものは基部からの高さが 50 m に達する大規模なものである(右写真).基部の大きさは地形図から判断できる限りでは約 350 x 470 m あり,おそらく日本最大の泥火山体であろう.
北海道指定天然記念物.昭和43年1月18日指定.
千木良雅弘・田中和広(1997)北海道南部の泥火山の構造的特徴と活動履歴.地質学雑誌,103, 781-791.
(なし)