一年金生活者の胆振東部地震体験記

川村信人(HRCG理事:札幌市清田区在住)

(タイトル写真: 地震の余波冷めやらぬ自宅前から見た夕焼け雲.2018/9/8 18:00頃撮影.こういうきつい夕焼けはある意味不気味でもあるので,“不吉な予兆(omen)”と受け取られる場合もあるが...私には,むしろ Mother Earth からの激励のように美しく見えた.)



おことわり: 以下の記述は,川村個人の経験・感想や憶測によるもので,科学的な調査の結果等に基づくものではありませんので,ご了解ください.


前夜

 2018年9月5日の夜,私は珍しくススキノにいました.日本地質学会年会の開催で集まった気のおけない地質仲間の飲み会でした.飲み会からの帰途は江別市在住のT氏と一緒でしたが,話題はやはりお互い関与のある自然災害関係となり,私は“月寒背斜での直下地震とか冬になんて勘弁して欲しいよね”などと言っていたように記憶しています.


地震発生

 その数時間後,私たち夫婦は,二階の寝室でいつもとは違う地震の揺れ(初動)に飛び起きました.階下に置いてあるスマホの緊急地震速報メールの着信音はなかったように思いましたが,あとから確認してみるとちゃんと3:08に着信していました.未明の熟睡時間帯なので,単に気づかなかっただけでしょう.その後,主要動が襲ってきましたが,驚いたのはその加速度の大きさと周期の短さです.グラグラ揺れたというのではなく,ドガガガッとでもいう感じでした.家の中ではドッカン・ガッシャーンという音があちこちから鳴り響き,恐怖で声も出ませんでした.揺れが収まったときには,住宅建物自体の損壊も覚悟していたほどです.また明らかに初動の時間があったので,震源は比較的離れた(=直下ではない)ところと判断され,震源付近の地域はもっと大変なことになっているだろうと気持ちが震えました.その時点で部屋の照明を点けようとしましたが,既に停電していました.窓から外を見ると周りは真っ暗でした.


停電

 まずは懐中電灯の明かりを頼りに階下に降りて状況を確認しようと思い,スマホを持ちました.Yahoo!を見ると,震源は胆振東部と出ていましたので,“あ~...あれが来たのか”と直感しました.暗い中,懐中電灯を持って家の周りをチェックしてみましたが,視認できる範囲ではなにも損壊がなかったので,とりあえず安心しました.そのまま5時の夜明けまで,家の中で一番安全と思われる場所(窓のない・支持構造の多い場所)に座って過ごしました.その間,震度3程度の余震が二,三度あったと思います.東日本大震災の時もそうでしたが,余震というのは心を冷やすいやなものでした.
 それからの情報は,単3乾電池で動く小さなラジオで聞くNHK第一放送が頼りでした.スマホで見るネット情報は,思いのほか多くはなかったような気がします.停電は送電系統や変電施設の故障によるものかと当初思っていたのですが,そのうちそれが全道停電であることが分かりました.伝えられる情報もかなり限定的で,停電がどれだけ長引くかの情報はその日の夕方までほとんど伝えられなかったように思います.厚真火発のダウンによる連鎖的な“ブラックアウト停電”であることが分かったときは,かなりショックでした.


インフラ

 大きな誤算だったのは,スマホです.充電の問題はたしかにありましたが,私はモバイル電池も持っていたし,いざとなれば自家用車のUSBソケットから充電できるので,当面それほど深刻ではありませんでした.問題は,なぜかネット接続が次第にダウンしていったことです.もちろん末端の基地局がバックアップ電源の喪失でダメになる可能性は分かっていましたが,不思議なのは,スマホの4G通信の電波は元気に立っている(=末端基地局はOK)のにも関わらず,ネット接続が次第にNGになっていったことです.地震から夜が明けた午前中は大丈夫だったのに,その昼前からメール・ショートメッセージがダメになり,しまいにはウェブサイトの接続もまったくできなくなっていきました.電話機能も不安定で,つながらなかったり,つながってもすぐに切れてしまうなどの症状が出ていました.つまり,スマホの電源は大丈夫でちゃんと動いているのに,肝心の外部アクセス機能が死んでいるという状態でした.そんな状態でも,携帯電話会社(私はDですが)からのプッシュ通知などは普通に届いたりするのが非常に不思議でした.末端基地局の後ろ側にあるなにか(なんでしょう?)とインターネットとの間のどこかに問題が生じているような感じでした.結局,各種の情報はラジオだけが頼りで,IT社会のもろさを見たような思いです.

 ちなみに,私の家に電気が復旧したのは,7日金曜日の夜8時過ぎでした.真っ暗な夜の二晩目を覚悟して布団にもぐり込んだ後の復旧だったので,ほっとしました.このタイミングは,伝え聞くところでは,“札幌で一番最後”の一つだったようです.私の居住地域は札幌市の縁辺部で,周りに特に配慮が必要な公共機関・インフラ施設・基幹病院もないので,おそらく最後に近い順番だろうと覚悟していましたが,予測通りでした.


地震活動

 次は,地震そのものについて書いてみます.ネットで確認できた震源情報は,『厚真町付近・深さ40 km』というものでした.先ほど“あれが来たのか”と書いた“あれ”というのはもちろん,『石狩低地帯東縁断層』のことです.厚真町付近ということだと,その活断層の地表トレースからだいぶ東になりますが,東傾斜の低角逆断層ですので,深さ40 kmならまあ,その深部延長ということで合っているのかな?と思いました.ただ,40 kmという深さ(のちに37 kmに訂正.USGSのサイトでは33 km)は尋常ではないような気がします.この深さは石英の“脆性-延性遷移境界”(深さ約10 km=内陸直下地震の頻発深度)を明らかに越えていますので,どういうメカニズムによる岩盤破壊なのかな?と考えると,私のような地震学の素人にはよく分かりません.どこかで見た情報では,石狩低地帯東縁断層のルート(根)の深さは25 km程度なんだそうで,これらの断層のルートというか成因・メカニズムは要するに何なんだろう? いずれ地震の専門家から見解が出てくるんだろうとは思いますが.
 で,一市民として何が一番不安かというと,この9/6 3:08の地震が実は前震で,規模が同程度以上の本震が(熊本地震のように)仮に起こったとして,その震源深さがもっと浅い(例えば10 kmの)ところだったら,さらに大きな震度になり,より甚大な被害が再度発生するだろうというところにあります.または,この地震に誘発?されて石狩低地帯東縁断層の主部が浅いところで活動したら...これは考えるだけで怖いです.気象庁のコメントには“1週間程度”という注意期間が述べられています.今日(9/11)現在,地震発生から6日目に入ったわけで,余震活動も若干収まりつつあるみたいなので,そういう可能性は低いのではないかと勝手に思っている(思いたい)わけなのですが.


液状化

 さて最後に,各種報道で全国的に有名になった“清田区の液状化”についてですが...同じ区ということで,いろいろな方々から,『お宅は液状化大丈夫?』という連絡をいただきました.結論から言うと,私の居住区の周辺ではまったく問題はありませんでした.実は15年ほど前,自宅からさほど遠くないところ(たしか清田区美しが丘)で,あまり大きくない地震が来た時に液状化現象が起こり,数棟の住宅が傾いたり沈下したことがあります.この時は,なんでこの程度の地震で自分の区で?と非常に不思議だったので,私も見に行った記憶があります.その後の情報では,これは旧谷地形を砂質盛り土で埋めた上に宅地を造成したところで起きた液状化現象で,きわめて限定的な出来事であるという話を読んだ記憶があります.それで,今回もその辺だろうと思っていたのですが,停電復旧後にテレビで見るとそこから少し離れた国道36号線をはさんで北側の里塚地区でした.テレビ映像で見る限り,“噴砂堆積物”が暗い色をしているのが少し不思議でした.のちに報道で火山灰質の盛り土という話も出ていましたので,それと何か関係があるのかもしれません.河川を暗渠化したところだという情報もありますので,まだ何が真実かわかりません.憶測はやめておきたいと思いますが,いずれにせよ『宅地の特殊な地盤状況』によるものでしょう.
 私の自宅は,ゆるい丘陵地麓に拡がる緩斜面と低位段丘面?およびその前面の沖積低地を切土した地盤の上に立っています.切土地盤であることは20年位前に隣家との境界塀が作られたときに出てきた“露頭”で薄い腐植土層の下位にすぐ支笏火砕流堆積物の周縁相と思われる不淘汰無層理硬質の厚い火山灰質層が存在することを確認しています.そういうわけで,この種の現象は起きにくい場所だろう,と勝手に思っています.
 しかし正直言うと,自宅を購入した時,そんな地球科学的事情を考慮したという記憶はありません.当然ながら,宅地業者からもそういうたぐいの説明はまったくありませんでした.地球科学の関係者なのに,一生に一度の大きな買い物の価値に関わる地形や地質のバックグラウンドを全然気にしていなかったというか,そういう意識などなかったというか...おそらく今回の被災者の皆さんもそうだったのではないでしょうか.無理からぬことだと思います.そういう意味で,宅地の開発造成を行う企業やそれを監督する立場?の行政側にもう少し配慮があれば,と一市民としてはそう思っています.

(2018/09/11記)


付記: 地震後の“ご近所の噂話”から,報道で有名になった里塚や美しが丘とは別の話で,自宅の近くでかなり大規模な液状化現象が起きていたことを知りました.コンビニの建物が傾いて廃業になったとか...その地区では,1990年代から大きな地震が起きるたびに(規模は分からないのですが)液状化が起きていたそうです.そんなことは,この区域に住んでもう30年になろうとしているのに,うかつにも私はまったく知りませんでした.
自宅の周りでも,今回の地震でそうなったかは確証がないのですが,歩道がえらく波打っていることに気づいたところもあり,要するに自宅とその周辺で特に液状化被害が無かったのは,単に紙一重だったのではないかと思い始めています.上に書いている,自宅の敷地が切土地盤だということも,本当にそうなのか自信が持てなくなりました.
札幌市はもちろん『地震防災マップ』の一つとして液状化危険度図を公表していますが,これを見ると,なんと自宅周辺は“色が塗られていない”,つまり危険度が低いのか高いのかも分からない区域になっています.これについて区役所に問い合わせてみたところ,市の防災部署の見解として『お宅のところは調査対象外である』という返事をもらいました.なんとも訳の分からない答えです.自宅周辺区域は,厚別川と低位段丘との間にある“沖積低地”だと思うので,それが『調査の必要がない区域』だとは到底思えません.山地にさえ色が塗られているのですから.なにか裏事情があるのかな?なんて邪推しているところです.いずれにせよ地方自治体は,こういう住民の不安にもっと真摯に向き合うべきではないかと強く思っているところです.(2019/04/03)


再付記: その後,2022年現在公開されている液状化ハザードマップ新版では,自宅周辺の空白域は解消され,無事『可能性が極めて低い』と塗色されました(右図参照).
まずは一安心です.要するにおそらく“未調査・未評価”ということだったんでしょう.最初からそう正直に言ってくれればよいのに...と思うんですけど.私の口調がクレーマーっぽかった(?)んで警戒されてしまったとか...?!
なお,自宅周辺の液状化危険度が非常に低いということは,地形とその変遷についての2019年以降の私なりの調査から,ある程度の確信が得られていました.それについては,別のアーティクルで書くことになるかもしれません.(2022/09/14)

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