私的・北海道地質百選
『嶮淵川の地層露頭』
千歳市泉郷(いずみさと)の国道337号線から追分方面へ抜ける道に入り,小高い丘陵を抜けて嶮淵(けぬふち)川に下りると,すぐ右に土取り場が見えてくる(下写真).ここには三つの地層が露出しており,興味深い層位関係や地層の構造を見ることができる.
この露頭では,下位から新第三紀層・地層A(仮称)・降下火山灰層の三つが認められる(右写真).それぞれの関係は明確な傾斜不整合である.
なお,これらの観察結果はすべて遠望によるもので,露頭の現地観察ではない.岩相や層位関係など誤りを含む可能性が十分にあるので注意していただきたい.
新第三紀層: シルト岩・砂岩・礫岩の互層からなり,露頭北側の面で見ると西に急傾斜しているのが分かる.
地層A: 成層した砂層からなり,礫層を挟む.ほぼ水平層で,新第三紀層を傾斜不整合で覆っている.基底部は含礫砂層で,不整合面上に海進ラグ状に礫が配列している.礫層は低角のトラフ状斜交成層を示す.浅海相の可能性が高い.
降下火山灰層: 地形に沿った mantle bedding を示す.下部は淘汰の良い灰色降下軽石堆積物(①)からなり,その上半部はオレンジ色を呈する.その上部にロームを挟んで薄い淡灰色火山灰層がのる(②).②はおそらく樽前火山噴出物であるが,①は樽前火山噴出物の下部なのか恵庭火山噴出物かは筆者には判断できない.①と地層Aとの境界にはやや厚いローム層がある.
新第三紀層は,『恵庭図幅』の長沼層・『追分図幅』の由仁層に相当し,いずれも中新統とされている.しかし岡(1998)は,これらを “追分層” と再定義している.この露頭に露出するものは砂質粗粒相からなる上部層であろう.
ここで『地層A』としたものは,その所属・名称がはっきりしない.『恵庭図幅』では長沼層の上位に第四紀洪積世の野幌層・竹山礫層が重なっている.『追分図幅』では,由仁層の上位に同じく洪積世の角田層がのっている.地震研究本部の資料『千歳市泉郷地区 a.地形面とその堆積物』によると,新第三系の上位には高位段丘堆積物がのるとされている.単に観点の問題なのかもしれないが,どの呼称が適切か判断できないので,ここでは『地層A』と仮称しておきたい.
なお岡(1998)では,追分層の上位に支笏火山噴出物がのるとされているが,この露頭では確認できなかった.
岡(1998)を下敷きとした地震研究本部の資料『4-6 追分層および萌別層』でも指摘されているように,この露頭の追分層シルト岩層はスランプ変形と思われる層理の膨縮や衝上型の褶曲構造を示している(右写真).スランプ体の移動方向等は露頭の制約もありよく分からない.
※ 泉郷側から嶮淵川に降りるときに通過した小高い丘陵は,実は道央部最大の活断層である石狩低地東縁断層帯のメンバー・泉郷断層の作る断層地形である.泉郷断層はこの土取り場の背後の稜線の東側を抜けているが,この露頭では特にその影響を見ることはできない.
(なし)
※民間企業所有の土取り場で,入り口はチェーンが張られ立ち入り禁止となっている.稼行は現在行われていないようにも見えるが未確認である.地権者からの立ち入り・見学許可を得られるかも不明であるが,露頭の向きが良く,入り口規制チェーン外からの遠望観察が十分可能である.
岡 孝雄(1998)国営農地再編整備事業計画地区,千歳地区表層地質調査報告書.北海道開発局農業水産部・北海道立地下資源調査所,121p.