私的・北海道地質百選
『早来富岡の火山灰層』
安平町富岡の丘陵地の畑地に,支笏-恵庭-樽前火山噴出物の露頭がある(松井・清水,2024).
露頭の高さは数 m に過ぎないが,それぞれの火山灰層の重なりや堆積状況が観察できる良好な露頭である.
※ 畑地に立ち入ってこの露頭を観察するには,地権者の許可が当然必要である.しかし,畑地の脇を通る道路上から,遠望にはなるが双眼鏡・望遠レンズ等でこの火山灰露頭を観察することが十分可能である.
※ この露頭を知ったのは松井 昭氏(日本工営株式会社)のご教示によるもので,資料も提供していただいた.記して謝意を表したい.
火山灰露頭は馬追丘陵南端部西麓の緩斜面(・段丘)上にある.農地造成に伴う人工法面で,その差し渡しは約 230 m ある.上のパノラマ写真にはその中央部を示している.
松井・清水(2024)を参考にして作成した火山灰露頭の柱状写真を左に示す.下位から,支笏火山噴出物・恵庭火山噴出物・樽前火山噴出物が重なり,それぞれの間には時間間隙を示すローム層が挟在している.ローム層は湿潤・含水のためか暗色で,すぐにそれと分かる.露頭最上部には薄い表土(耕作土)が見えている.
※ 支笏火砕流堆積物(Spfl)の下位には支笏降下軽石層(Spfa-1)・ローム層・倶多楽火山噴出物(Kt-1)が露出するはずであるが,2024/08 の遠望観察時には被覆物・植生のためそれらは視認できなかった.
樽前火山噴出物: もっとも新規の噴出物で,この露頭では Ta-b, Ta-c, Ta-d が見られる.それぞれの間には腐植土層を挟むはずであるが,左の柱状写真では明瞭ではなく擾乱を受けている可能性がある.Ta-b, Ta-c は特徴的な明るい灰色を呈する.Ta-d の上部はオレンジ色に酸化している.なお,露頭の左側で Ta-d から上位の層が小さな谷地形を被覆して覆う部分が見られる(mantle bedding).
恵庭火山噴出物: 比較的粗粒な軽石からなり,上方へ級化する.
支笏火山噴出物: 塊状不淘汰な軽石質堆積物からなり,火砕流堆積物である(Spfl).上部で弱い成層構造を示す部分も認められる.
恵庭-支笏噴出物の間にある厚いローム層は,淡褐色の薄い火山灰層を複数枚はさんでいる.あくまでも遠望であるが,その部分は成層構造の膨縮破断や層境界の垂直方向の変形(炎状構造など)を示しているように見える.このような擾乱は,地震動などで引き起こされた液状化の結果という可能性もあり,興味深い.
付記: 露頭右端には,松井・清水(2024)で記載された正断層群が発達し,上に掲載した露頭全景写真にも写っている.実はこの露頭のすぐ右側には,石狩低地東縁断層帯のメンバーである馬追断層が通っており,明瞭な(活)断層リニアメント地形を示している.両者の成因関係はまだ不明であるが,きわめて興味深いものと言える.
(なし)
松井 昭・清水龍来(2024)安平町早来の露頭にみられる地層の変形の報告.応用地質学会講演要旨.