私的・北海道地質百選
『高見不整合』

 松下・鈴木(1962)は,“メナシベツ川”(現在の静内川上流部を指す?) において蝦夷層群が下位の “岩清水層” の緑色岩を不整合に覆う露頭を報告した.
 この不整合現象は,のちに提唱された『中エゾ地変』の根拠の一つとなるものであったが,なぜかその後あまり顧みられることはなく,詳細な記載等もされないままに,1983 年の高見ダムの完成によって高見湖に水没し永久に失われた.

 しかしおそらく,湛水に伴う道道静内-中札内線(111号線)の付け替えに伴って両者の大規模な接触露頭が出現し,その概要が川村ほか(1999)によって記載された.以下では,この大露頭(下写真)について紹介したい.


蝦夷層群(上)と緑色岩(下)の接触露頭.2002 年 10 月撮影.

上:両者の境界部のクローズアップ.2002 年 10 月撮影.下:境界付近の破砕剪断部.剪断面の発達する泥基質で砂岩包有物を多量に含む.枠中は破砕部の切断研磨標本(森谷明博氏の調製による).2003 年 7 月撮影.

 蝦夷層群と緑色岩の接触露頭(上写真)は,新ひだか町高見湖畔・般別(ぱんべつ)大橋西方の道道111号線沿いにある.

 この露頭では,下部に緑色岩体,その上位に変形した蝦夷層群が載っている.境界面は E ~ NE に緩く(ca. 5°)傾斜している.境界面の形態はほぼ平面的であるが,場所によってはやや凹凸があるようにも見える(右写真).
 緑色岩は均質ではなく,変形した枕状溶岩のようでもあるが,詳細は未確認である.

 全体にロックネットがかかっており,詳しい観察が難しいが,露頭右側で境界面を近接して見ることができる.しかし破砕・剪断変形が激しく(右写真),構造的すべり境界としか言えない.本来どのような関係なのかを確認することはできなかった.

 この露頭の近傍に,蝦夷層群の砂泥互層の良好な露出がある(下写真).全体に著しい非調和褶曲を示し,おそらくスランプ変形と考えられる.しかし,泥質部における剪断すべり面の発達や砂岩層のブーダン状伸長変形などは構造変形の影響があるとも見える.
 こういった岩相は,日高町で見られた蝦夷層群の変形互層(関連サイト参照)に非常によく類似しており興味深いが,不明な点が多い.


蝦夷層群砂泥互層の変形構造.2002 年 10 月撮影.

 もしこの蝦夷層群がスランプ層だとすると,緑色岩との関係は海洋性基盤の “浸食面”(≒ 無堆積面)上にスランプ体が滑動してきて形成された non-conformity という可能性が考えられる.しかし,両者の関係が低角(衝上?)断層である可能性も否定できない.

 なおこの砂泥互層の層準については,松下・鈴木(1962)では “中部蝦夷層群”(=蝦夷層群中部層準)となっているが,それを具体的に指示するデータはなく,夕張地域などの中部層準に対比できるものかどうかについては,疑問な点が多い.


※ 道道静内-中札内(111号)線,いわゆる日高横断道路は,諸般の事情で 2003 年に建設が凍結(中止)された.それ以前から崖崩れ等により頻繁に通行止めとなっていたが,建設凍結以来,立ち入りは非常に難しくなっている.2023 年 8 月現在静内ダムから『進入禁止』(通行禁止ではない)となっており,その措置期限が切られてはいるが,実質自動延長であり立ち入るチャンスは実際のところほとんどない.
筆者は,制限のなかった 1991-1995 年に何回か立ち入っているが,その後は通行止めによりほとんどチャンスがなく,2002, 2003年に立ち入り可能の情報で入ったのが最後である. 2002 年には高見ダムから奥はゲート閉鎖でクルマが入れず,歩いて露頭に到達した記憶もある.
本サイトのこういった立ち入り事情が現在どうなっているのかは,まったく分からない.


既存の指定など

(なし)


所在地

新ひだか町 高見湖畔.


※ 当時は GPS 記録がなく,場所は不正確な可能性がある.


サイトの状態:


参考文献

松下勝秀・鈴木 守(1962)5万分の1地質図幅『農屋』.北海道開発庁,38 p.

川村信人・植田勇人・鳴島 勤,1999,前弧海盆堆積物中の不整合とスランプ体-中部蝦夷層群基底部の層位学的現象-.地質学論集,No.52, 37-52.


関連サイト



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