私的・北海道地質百選
『十町瀬の砕屑物脈』

 地層中に貫入した砕屑物脈としては,砂岩脈(sand dyke)がもっとも一般的なものであるが,それだけではない.出現頻度として低いが,礫脈・泥脈なども普通に見られる砕屑物脈のバリエーションである.

 釧路町十町瀬(とまちせ)海岸は,さまざまな砕屑物脈が観察できるサイトである.
 なお十町瀬海岸には,浦雲泊(ぽんどまり)から西へ道を進み海岸に降りる必要がある.十町瀬には現在,集落・人家はなく漁師小屋の残骸があるのみである.


砂岩脈.十町瀬タコ岩.2013 年 6 月撮影.
左:泥岩脈.右:断層に伴う砂岩脈.十町瀬への降り口付近.2008 年 6 月撮影.
膨縮分岐する石炭脈(左)と石炭細脈(右).十町瀬タコ岩.1997 年 8 月撮影.

 右写真は,典型的な砂岩脈である.いずれも層理面はほぼ水平.厚さは 20 - 60 cm である.岩脈内部は塊状でほぼ無構造である.右写真左の母岩には薄い石炭~炭質泥岩層を挟む.

 右下写真左は,厚さ約 15 cm の泥岩脈である.色調が母岩とほぼ同じなので一見見逃してしまうが,母岩層理が脈内部に連続しないことから貫入脈であることが分かる.

 右写真右は,高角の断層と砂岩脈が随伴する例である.砂岩脈の厚さは 60 cm 以上あり,断層に平行な割れ目が発達する.内部構造ははっきりしない.
 砂岩脈の向かって右側には,厚さ 30 cm 程度の乱雑な内部構造を持った泥岩 “脈” があるが,断層ガウジという可能性もある.断層の規模に比較してガウジの厚さが厚すぎるような気もするが,どちらなのかは不明である.また,断層と砂岩脈の形成順も判断できない.

 最後に,このサイトでもっとも weird な石炭脈がある(右写真).母岩層理面にほぼ直交して厚さ 3 cm あるいはそれ以下の石炭脈が貫入(・充填)しており,右写真の左では下方に分岐している.このような貫入脈の記載例は,筆者の知る限り無い.
 石炭が貫入しているのではなく,泥炭のような未固結含水状態での現象なのかもしれないが,詳細は不明としか言いようがない.


※ 河合(1961)の地質には,十町瀬海岸タコ岩周辺に露出しているのは根室層群汐見層で,そのすぐ上に浦幌層群春採層が不整合で載っているように描かれている.それに従えば,上に掲載した砂岩脈・石炭脈の母岩は汐見層,泥岩脈と断層に伴う砂岩脈は春採層ということになる.
しかし,それらの地層の固結度等に大きな差異はなく,砂岩脈母岩には石炭を含むなど,すべてが浦幌層群春採層という可能性もある.
いずれにせよ筆者には判断が付かないので,ここでは母岩の層準をあえて明記せずに記述することにしておく.


既存の指定など

(なし)


所在地

釧路町 十町瀬.


サイトの状態:


参考文献

河合正虎(1961)5万分の1地質図幅『昆布森』說明書.地質調査所,59 p.


関連サイト



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