私的・北海道地質百選
『くぐり岩のスランプ層』
乙部町滝瀬の国道から海岸方向に脇道を入ると,『滝瀬海岸 奇岩くぐり岩』という看板が立っている.これを目印にして海岸に下りると,“くぐり岩” が右方向に見えてくる(上写真).
くぐり岩を作っているのは新第三系館層のシルト岩・砂岩互層で,やや凝灰質である.
“くぐり穴” の上下の層準は正常な地層の重なりを持っているが,その上方を見ると成層構造が乱れている.
“くぐり穴” をくぐって北側に出て,くぐり岩の反対側を見ると,状況が良く理解できる(右写真).
ここでは厚さ 2 m 程度の地層が折れ曲がり,向かって左から滑り・乗り上がった構造を示している.いわゆる褶曲型のスランプ構造で,折れ曲がった地層の周囲は成層構造が破壊されたシルト・砂で充たされている.
この厚いスランプ層は,滝瀬海岸のほぼ全体にわたって連続しており,くぐり岩北側では正常層中に挟在するスランプ層の上下面を見ることが出来る(右写真).
厚さは少なくとも 7 ~ 8 m あり,内部の互層は破断・流動変形を受けて成層状態をほぼ失っている.
ところによって,径 2 m 以上の不定形シルト岩ブロックを含む部分もある(右写真).ブロックの内部は成層構造が保存されており,その端部は櫛状に分解している.
角ほか(1970)には,この乱堆積を軽石流の発生と流下に関連付けている.いずれにせよ,この付近の館層の斜面性堆積環境を示すものとして興味深い.
(なし)
角 靖夫・垣見俊弘・水野篤行,1970,5万分の1地質図幅『江差』および同説明書.北海道開発庁,53 p.