私的・北海道地質百選
『三笠層のストーム礫岩』
三笠市立博物館は,国内でも随一のアンモナイト化石コレクションで有名であるが,そこを訪れると,博物館前の芝生に無造作に置かれている数個の大きな礫岩塊に目を惹かれる.
ヘッダーのサムネールに示したのはその一つで,下半部が粗粒砂岩層.もちろん,層位学的な上位は不明である.
これは,蝦夷層群中部層準の三笠層の礫岩で,近寄って見ると,厚い殻を持ったたくさんの貝化石と鶏卵大の円礫が含まれていることが分かる(右写真).礫種は付加体構成岩類(チャート・緑色岩など)が多い.
この礫岩塊には,まれに珪質片岩礫も含まれている.右下写真は,その一つで,帯青緑色の色調が目を引く.博物館の許諾を得てサンプルを採取し,薄片にして顕微鏡で確認したが,残念ながらアルカリ角閃石のような低温高圧変成鉱物は含まれていなかった.
貝化石の主体は各種の三角貝類(Trigonia)で,そのほとんどは貝殻が離弁しばらばらになっている(下写真).岩塊によっては,このような含貝化石礫岩と粗粒礫質砂岩が互層しているものもある.
これらの岩塊は,桂沢ダム付近の 採石場(原石山)から運ばれたものである.原石山は個人での立ち入りは許諾されていない.
なお岩塊の中には,砂岩の層理面上に明瞭な漣痕(リップル・マーク ripple mark)を示すものもあり(下写真),浅海相を示している.
安藤ほか(1997)によると,三角貝化石を含む堆積物は,ストームによって形成された浅海性ハンモック砂岩であり,その中に挟まれる礫岩は “海進性ラグ(transgressive lag)” であるとされている.
(なし)
安藤寿男・栗原憲一・高橋賢一,2007,蝦夷前弧海盆の海陸断面堆積相変化と海洋無酸素事変層準:夕張~三笠,日本地質学会第114年学術大会見学旅行案内書,185-203.