私的・北海道地質百選
『札幌市最古の地層』
注)このサイトは本家・北海道地質百選には,石井正之さんとの共同執筆で投稿したものです.今回ここに掲載するにあたり,文章表現はすべて見直し,ほぼオリジナルとなっていますが,石井さんの書いた文章部分が未分離で残っている場合もあり得ます.ご了解ください.なお写真はすべてオリジナルです.
北海道最古の化石を産する地層は,渡島帯西部地域に分布する石炭紀の地層である.
札幌の西方山地は渡島帯の東縁部に位置しており,定山渓の南西の薄別川にその一部が新第三系の下位に露出している.これが札幌市でもっとも古い地層である.
この地層は,薄別層と呼ばれている(土居,1953).その分布幅はわずかに 300 m 以下で,非常に狭い.
薄別層は,砂岩・泥岩からなるタービダイト互層である(右写真).東(下流)側に傾斜しており,タービダイトの級化構造から東上位と判断される(右下写真).
岡(2007)によれば,薄別層は薄別橋下流で中新統白水川層の緑色火砕岩層によって傾斜不整合で覆われている.
渡島帯はおもに中生代ジュラ紀に形成された付加体であるが,その東縁部の形成時代は白亜紀にかかると考えられている(川村ほか,2000).
薄別層の岩石は変質が激しく,微化石等で正確な形成年代を出すのは非常に難しいが,ジュラ紀〜白亜紀初期(約1億5千万年前)の海溝充填タービダイトと考えられる.この点を明確にするには,砕屑性ジルコン年代が必要であろう.
札幌市周辺で新生代よりも古い付加体の地層・岩石が分布しているのは,倶知安・室蘭・樺戸地域で(川村,1990),いずれも分布規模は非常に小さく,札幌から 40 - 80 km 離れている.そう考えると,薄別層の露出は奇跡的であるとも言えるだろう.
付加体岩石が札幌市の地下に広く存在しているということであるが,その一部が露出しているこのサイトは,きわめて貴重なものである.
(なし)
土居繁雄(1953)5万分の1地質図幅「定山渓」および説明書,7-9.北海道開発庁.
岡 孝雄,高清水康博,垣原康之(2007)IIサッポロカイギュウ化石を取り巻く地質(豊平川上流域,月寒丘陵南部).札幌大型動物化石総合調査報告書〜サッポロカイギュウとその時代の解明〜,8-39.札幌市博物館活動センター編集,札幌市.
川村信人(1990)渡島帯.加藤 誠・勝井義雄・北川芳男・松井 愈(編)日本の地質1 北海道地方,共立出版,7-10.
川村信人・安田直樹・渡辺暉夫・Mark Fanning・寺田 剛(2000)渡島帯ジュラ紀石英長石質砂岩の組成と供給地質体.地質学論集,No.57,63-72.