　砂岩脈を代表とする砕屑物脈（clastic dyke）は，一般にあまり意識されていないが実はほとんどの地層（地質体）の中に普遍的に存在するものである．その大部分は，平板状の貫入脈で多くの記載例があるが，ここで紹介するのは，付加体砕屑岩中に見られる，きわめて特異な構造を持つ砂岩脈－シル複合体である．

　松前町折戸浜には，ジュラ紀付加体渡島帯の海溝充填堆積物である砂岩泥岩互層が露出する．その中に，大津・川村（1991）・川村ほか（1994）・富岡・川村（2003）で記載された特異な砂岩脈－シル群が観察される．折戸浜の駐車場から松前市街方面に砂浜の海岸を約 300 m 歩くと，下写真のような露出が見える．これが見学サイトである．

海岸付近の黒く見える露頭は葉理シルト岩とタービダイト砂岩の互層．向かって左側に砂岩脈－シル群が分布する．2009 年 6 月撮影．

　写真は国道側から遠望したもので，駐車場からここまでかなりの距離があり，ゆるい砂に足を取られながら歩くのは，夏場にはけっこうつらいものがある．国道の歩道を歩いて，この露頭が見えたらヤブをこいで浜に降りるという手もある．
　この砂岩脈露頭は，季節的な海浜砂の移動・堆積によって，短期間で埋積と露出を繰り返している．１週間で 1 m 近い砂に埋もれていたということもあった．このサイトの見学の際には留意されたい．

典型的な砂岩脈－シル．やや膨縮し，褶曲で折りたたまれているところもある．2001 年 7 月撮影．

特徴的な乱雑砂岩脈－シル密集部分．まともな平板状形態を示すところは皆無である．2001 年 7 月撮影．

“まゆ状” 膨縮分岐砂岩脈．1990 年 10 月撮影．

　露頭では，葉理シルト岩とタービダイト砂岩の互層の中に，多数の砂岩脈が認められる（右写真）．この写真に写っている白色の砂岩は，薄層・葉理を除くと，ほとんどすべて砂岩脈－シルである．その一部はプティグマティックに褶曲している．

　砂岩脈－シルの占める割合が大きい部分では，右下写真のような非常に乱雑で板状形態を示さない膨縮砂脈密集部（pinch-and-swell sand vein swarm）が認められる．

　層理面に低角で斜交する砂岩脈が “まゆ状（pod-like）” に大きく膨らみ，そこから少なくとも３本の砂注入脈が向かって左へ分岐しているという特異な構造も見られる（右下写真）．砂の貫入流動に伴う水圧破砕プロセスを示すものと想像される．

　他のバリエーションとして，厚層塊状砂岩層のようにも見えるが，その底面をよく見ると破断膨縮して注入構造もあり，砂岩シルであることが分かるというもの（下写真左）や，母岩の葉理シルト岩の中に，厚さ 1 cm 前後の砂細脈が網状に注入するという構造（下写真右）も観察される．後者は，一見未固結時変形構造のようにも見えるが，仔細に観察すると，注入砂脈であることが分かる．