私的・北海道地質百選
『折戸浜のジュラ紀タービダイト』

上:ジュラ紀タービダイトの典型的な岩相.薄層理砂岩泥岩互層.2001 年 7 月撮影.下:薄層理シルト岩泥岩互層.2002 年 7 月撮影.

 松前町折戸浜には大きな駐車場が設けられている.ここから海岸に出てみると,ごつごつとした岩場になっている.この一帯は以前は海水浴場となっており,トイレなども設置されていた.岩場なので海水浴はちょっと難しいようにも思えるのだが,どうなのだろうか? 現在も海水浴場かどうかは未確認である.

 折戸浜海岸の岩場を作っているのは,黒色の堅硬な岩石で,北海道の地層堆積年代としてはもっとも古い部類に属するジュラ紀の砂岩泥岩互層である.

 この互層の砂岩層はタービダイトであるが,陸源砕屑物が当時のプレート沈み込み部に形成された狭長な凹地(海溝)に乱泥流として流入し埋め立てた『海溝充填堆積物』である.
 その多くは比較的細粒な薄層の葉理砂岩泥岩互層で,見事な縞状の互層構造を見ることができる(右写真).


ジュラ紀タービダイト互層の未固結時変形構造.上左:粗粒砂岩単層下底の荷重痕.2009 年 6 月撮影.上右:コンボルーション+側方流動構造.2002 年 7 月撮影.下:タービダイト互層の中に見られる未固結時変形構造.砂岩層が全体にわたって複雑な流動変形を受けており,ball-and-pillow 構造に近い.2003 年 6 月撮影.

 注意深く観察すると,この砂岩泥岩互層の中には,堆積直後の含水時に形成されたさまざまな未固結時変形構造を見ることができる(上写真).
 このような未固結時変形が,海溝充填堆積物として特に著しいものかどうかは分からない.しかし,関連サイト『折戸浜の砂岩脈』に示したように,この砂泥互層中にはきわめて特徴的な砂岩脈群が発達しており,海溝充填堆積体としてなんらかの特異性を有している可能性も否定できない.


駐車場向かいの砂岩泥岩互層.ややホルンフェルス化しており,非常に硬い.露頭中央部に見えるのが,厚層理塊状タービダイト砂岩.2009 年 6 月撮影.

 駐車場向かいの海岸に露出している砂岩泥岩互層の中には,粗粒厚層で泥リップアップ・クラストを含むタービダイト砂岩層も観察される(右写真).間欠的に発生する乱泥流によって海溝に多量の土砂が運び込まれていたことを示している.

 これらの厚層粗粒砂岩層の中には,実は堆積層ではない『砂岩脈・シル』が含まれていることが分かっている.それについては関連サイト『折戸浜の砂岩脈』で紹介している.


 この海溝充填堆積物は『渡島帯』と呼ばれる地質体の砕屑岩である.これらの陸源性堆積物と沈み込んできた海洋プレートが一体となって『付加体』と呼ばれる特徴的な地質体を構成していることになる.

 渡島帯海溝充填堆積物の砕屑粒子は東アジア大陸縁辺部から運ばれてきたもので,先カンブリア紀のジルコンや高度変成作用でできた Mg-ザクロ石の粒子が含まれていることが分かっている(川村ほか,2000).これらの砕屑粒子の源岩となった岩石は,現在の日本列島の中には知られていない.


既存の指定など

(なし)


所在地

松前町 折戸海岸.


サイトの状態:


参考文献

川村信人・大津 直・寺田 剛・安田直樹(1994) 渡島帯付加体の内部構造.日本地質学会第101年学術大会見学旅行案内書,175-195.

川村信人・安田直樹・渡辺暉夫・Mark Fanning・寺田 剛(2000)渡島帯ジュラ紀石英長石質砂岩の組成と供給地質体.地質学論集,No.57,63-72.


関連サイト



私的・北海道地質百選のトップページへ戻る