私的・北海道地質百選
『小砂子の海洋性岩体』
注)このサイトは本家・北海道地質百選には,大津直さんとの共同執筆で投稿したものです.今回ここに掲載するにあたり,文章表現はすべて見直し,オリジナルとなっていますが,大津さんの書いた文章部分が未分離で残っている場合もあり得ます.ご了解ください.なお写真はすべてオリジナルです.
『付加体』は,海洋プレート構成岩体と陸源の海溝充填堆積物の混合地質体と言える.しかし,『混合地質体』というのは,そのすべてがメランジュをはじめとする混在相の地質体という意味ではない.付加体中には,時にかなりの規模を持った海洋プレート及びその上位の堆積岩のスライス状断片(海洋性岩体)が含まれていることがある.
上ノ国町小砂子(ちいさご)の日方泊(ひなたどまり)岬には,数百 m 以上の規模を持った海洋性岩体の露出が見られる.その内部および周囲にメランジュ混在相は存在しない.
この岩体は最下部の塊状玄武岩・玄武岩枕状溶岩に始まり,石灰岩・玄武岩角礫岩から玄武岩質火砕岩・砕屑性石灰岩・珪質細粒堆積岩の互層まで至る海洋性層序を持っている.各岩相を上写真に示す.
小砂子海洋性岩体は,周囲の変形砕屑岩類の見かけ上の上位にあり,両者の関係は弱いすべり面を伴った密着接触関係である(上写真右下).
さらにこの互層の上位には,成層チャートと石炭紀化石を含む(吉田・青木,1972)石灰岩礫岩がかさなっているが,岬周辺の露出域では見ることはできない.その岩相的特徴から,全体として海山周辺斜面で堆積した海洋プレート上の堆積物と考えられる.
日方泊岬の海岸露頭には,以前は護岸の横を通って容易に立ち入ることができた.しかし 2000 年代に入って小砂子漁港の改修工事が行われ,巨大な防波堤・護岸が建設されて,2009 年頃までには立ち入りはほとんど不可能になってしまった.灯台付近の路傍から遠望で見下ろすしかない状態となっている(上写真).
(なし)
川村信人・大津 直・寺田 剛・安田直樹(1994) 渡島帯付加体の内部構造.日本地質学会第101年学術大会見学旅行案内書,175-195.
川村信人(2010)渡島帯のジュラ紀付加体.日本地質学会(編集),日本地方地質誌『北海道』,19-25.
吉田 尚・青木ちえ(1972) 北海道松前半島の古生層と渡島半島の南部のコノドント. 地質調査所月報,23, 635-646.