私的・北海道地質百選
『崕山の石灰岩』

芦別市崕(きりぎし)山は,のこぎり状の独特な山容を示す稀有な山である(下写真).このような特異な地質景観は,北海道ばかりか日本国内でも筆者の知る限り,他にはない.


惣芦別川上流から見た崕山の石灰岩山稜.それぞれのピークにはすべて風流な名前が付けられている.惣芦別川支線林道から.2009年 7 月撮影.

石灰岩山稜の向かって右側のクローズアップ.中央が『青月峰』.石灰岩は遠望する限り無層理に見える.稜線はまさにナイフリッジである.惣芦別川支線林道から.2009年 7 月撮影.

 この独特な山稜を作っているのは,白亜系蝦夷層群の下部に挟在する石灰岩体である.
 前弧海盆堆積体の中にこのような大規模な石灰岩体が発達するのは極めて不思議で珍しいことであるが,当時の陸域周縁部の浅海域にあった生物礁が大規模に崩壊して地すべりを起こし,大規模なオリストストロームとして形成されたものと考えられている(佐野,2001;Takashima et al., 2004 など).
 石灰岩山稜の周囲は,蝦夷層群の泥岩砂岩互層からなり,半深海性の堆積物と考えられており,ところによってスランプ構造を示す部分がある.
 つまり崕山の石灰岩体は,当時の陸域の海岸線付近から,水深 1,500 m といった半深海まで,おそらく数十 km の距離を,それほど破壊されることなく原形をほぼ保ったまま滑り落ちてきたものと考えることができる.現在の地球上にはそのような現象は(おそらく)知られていないので,さすがに想像できないものがある.


山水画のような崕山石灰岩体.惣芦別川林道終点付近.2009年 7 月撮影.
石灰岩体の近接写真.惣芦別川林道終点付近.2009年 7 月撮影.

 惣芦別川林道終点付近では,崕山石灰岩の南端部(右写真)に近接でき,石灰岩の露頭を実際に林道脇で観察することができる(右下写真).

 石灰岩は全体に nodulous で,おそらく大型化石を多量に含むものと推察されるが,有名な Orbitolina (大型有孔虫)を含めて肉眼で認識することはできなかった.
 サンプルを採取することは下記の理由で不可能となっている.崕山石灰岩に含まれる化石については,佐野晋一による一連の古生物学的研究がある.

崕山の立入り規制について: 崕山の石灰岩体は,その独特な景観にもかかわらず,実際に目にした人は多くない.それは,国道など通常の道路からはまったく見えない山奥にあるためである.この景観を見るためには,芦別側から惣芦別川に沿って林道を 10 km 以上入る必要がある.それに加え,崕山周辺は高山植物保護のため 1999 年から厳重な入山規制が実施されており,たとえ学術調査であっても単独の立ち入りは認められておらず,崕山自然保護協議会の許可と立会いが必要となっている.


既存の指定など

(なし)


所在地

芦別市 惣芦別川上流 崕山.
  撮影場所: 惣芦別川支線林道. 惣芦別川林道終点.


サイトの状態:


参考文献

吉田 尚・神戸信和(1955)5万分の1地質図幅『幾春別岳』および同説明書.北海道開発庁,31 p.

Takashima, R., Kawabe, F., Nishi, H., Moriya, K., Wani, R. and Ando, H., 2004, Geology and stratigraphy of forearc basin sediments in Hokkaido, Japan: Cretaceous environmental events on the Northwest Pacific margin. Cretaceous Research, 25, 365-390.

佐野晋一(2001)蝦夷層群下部“石灰岩”オリストリスからの炭酸塩プラットフォームの復元.日本地質学会第108年学術大会講演要旨,244.


関連サイト



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