私的・北海道地質百選
『函淵の古第三系不整合』
地層の中に不整合が存在したり,地層が逆転したりするのは,日本列島のような活動場ではそれほど珍しいことではない.しかしここで紹介する場所は,その二つを同時に見ることができるという意味で非常に貴重なものであったが,ダム新設によって現在は失われた.
露頭は,大夕張ダムの下流(函淵)右岸側にあり,国道247号線の旧道の下まで達する大きなものであった(上写真).
ここでは露頭全体が逆転しており,向かって右側(ダム側)が上部白亜系函淵層,左側(下流側)が古第三系始新統石狩層群の登川層である.
この二つの地層は不整合関係で接しており(右写真),その時間間隙は少なくとも 1500 万年ある(安藤ほか,2007).
登川層は,薄い石炭層を挟んでいる.地層が逆転しているのは,軸が西に倒れた同斜褶曲の一部が露出しているということであろう.
大夕張ダムの上流側に,より提体高の高いシューパロダムの建設が 2005 年頃から始まり,露頭が見える場所は一般人は立ち入れなくなった.
2006 年には提体基礎の掘削で不整合面周辺の新鮮な露頭が現れ,関係者による観察が行われたことがある.2009 年には一部公開され見学会が開催された.しかし,不整合面は思ったよりも不明確なものであった(右写真上).
この写真で黒い四角形のスケールが置かれている部分がほぼ不整合面で,その向かって左(上位)側には石狩層群基底の淘汰の悪い礫岩層がある.右(下位)側は函淵層の帯緑色砂岩層であるが,露頭状態の悪さもあり,両者の境界不整合面は明瞭ではない.
この部分の左上延長部では,両者が明瞭な断層すべり面で接している部分も観察され,事態はシンプルではなかった.
その後提体の建設が進むにつれて露頭はフリーフレームなどで覆われ,そのほとんどが見えなくなり,サイトは消滅した(右写真下).
中生界白亜系と新生界古第三系始新統の間の大きな不整合なので,両者の境界は明瞭なはずとも思われるが,実際は長尾ほか(1954)の記載にあるように,岩相の区別や境界の判定はなかなか難しい.古第三系基底の位置については,研究者によってさまざまな捉え方があるだろう.また,鈴木ほか(1997)はこの地域から古第三紀暁新世の化石を発見しており,時代間隙はもっと短くなる可能性がある.
しかしいずれにせよ,この不整合による時間間隙の間に,地球外天体の衝突と恐竜などの大絶滅,それによる中生代という時代の終焉が存在しているのである.
(なし)
安藤寿男・栗原憲一・高橋賢一(2007)蝦夷前弧海盆の海陸断面堆積相変化と海洋無酸素事変層準:夕張~三笠.日本地質学会第114年学術大会見学旅行案内書,185-203.
長尾捨一・小山内煕・酒匂純俊(1954)5万分の1地質図幅『大夕張』および同説明書.北海道開発庁,119p.
鈴木弘明・栗田裕司・保柳康一・安藤寿男・牧野 彰・伝井 哲(1997)北海道夕張地域での海成暁新統の発見.日本地質学会第104年学術大会講演要旨,136.