私的・北海道地質百選
『白亜の露頭』

館の岬トンネル乙部側入り口からみた白亜の露頭の横顔.2009 年 6 月撮影.

 乙部町館の岬周辺の海蝕崖には,ほぼ水平な互層からなる地層の見事な露出がある(右写真・下写真).

 この露頭のそばの国道沿いには,乙部町教育委員会が設置した説明看板がかつてあり,それには “白亜の崖” という名前が使われていた.おそらくドーバー海峡のチョークの露頭をイメージして書かれたものであろう.


白亜の露頭.2009 年 6 月撮影.

白亜の露頭向かって左側のクローズアップ.2012 年 4 月撮影.

 この白亜の露頭は,姫川河口をはさんで対岸の乙部漁港から遠望することができる(上写真・ヘッダのサムネール参照).
 露頭をクローズアップしてみると,その迫力に圧倒される(右写真).

 『地層の頁(ページ)』を思わせるこの海食崖露頭は,地層システムの典型的な様相を我々に示してくれる.


互層中に挟在する軽石質タービダイト層.2009 年 6 月撮影.

 この露頭を構成する地層は,おもに新第三系鮮新統の館(たて)層である.館層は,砂岩・珪藻質シルト岩・軽石質タービダイト・礫岩の 0.5 ~ 2 m 厚の互層よりなる.
 シルト岩には著しい生物擾乱が認められる.軽石質タービダイトは,明瞭な正常級化構造を示している(右写真).礫岩層は黒色を呈し,塊状で弱い正常級化を示す.シルト岩のリップアップクラストを含む場合がある.下位の地層を削り込む関係も観察され,重力流堆積物と考えられる.

 この互層中に厚さ 数 m のスランプ体が見られる場合もあり(関連サイト参照),全体として斜面堆積物であると考えられる.


露頭最上部のクローズアップ.館層の上位に,さらに二つの新規の地層が載っている.本文参照.2001 年 7 月撮影.

 館層の上位には,やや固結度の低い礫混じりの粗粒砂岩層が載っている(右写真).両者の境界部にはやや凹凸があり,館層の最上部には風化・分解部も見られる.
 両者の関係は不整合で,上位の地層は鶉(うずら)層相当層と考えられるが,詳細は不明である.
 さらに露頭の最上部には,薄い腐植層を挟んで淘汰のよい砂層が載っており,おそらく古砂丘(~海成段丘?)堆積物と考えられる.


ガウディ露頭.2009 年 6 月撮影.

 この白亜の露頭の真下の海岸に行って見上げると,少し予想外の風景が出現する.この角度から見ると露頭は顕著な塔状になっている.城壁のようでもあり,前衛的な建築物のようでもある.私はこれを『ガウディ露頭』と読んでいる.
 ガウディ露頭の形成要因は,館層堆積岩の中に発達するほぼ垂直に近い節理~割れ目系に沿った選択的浸食である.堆積岩の固結度が高すぎないことも要因の一つであろう.


既存の指定など

(なし)


所在地

乙部町 館の岬周辺.


サイトの状態:


参考文献

角 靖夫・垣見俊弘・水野篤行,1970,5万分の1地質図幅『江差』および同説明書.北海道開発庁,53 p.

石田正夫・垣見俊弘・平山次郎・秦 光男,1975,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)『館地域の地質』.地質調査所,52 p.


関連サイト



私的・北海道地質百選のトップページへ戻る