私的・北海道地質百選
『白亜の露頭』
乙部町館の岬周辺の海蝕崖には,ほぼ水平な互層からなる地層の見事な露出がある(右写真・下写真).
この露頭のそばの国道沿いには,乙部町教育委員会が設置した説明看板がかつてあり,それには “白亜の崖” という名前が使われていた.おそらくドーバー海峡のチョークの露頭をイメージして書かれたものであろう.
この白亜の露頭は,姫川河口をはさんで対岸の乙部漁港から遠望することができる(上写真・ヘッダのサムネール参照).
露頭をクローズアップしてみると,その迫力に圧倒される(右写真).
『地層の頁(ページ)』を思わせるこの海食崖露頭は,地層システムの典型的な様相を我々に示してくれる.
この露頭を構成する地層は,おもに新第三系鮮新統の館(たて)層である.館層は,砂岩・珪藻質シルト岩・軽石質タービダイト・礫岩の 0.5 ~ 2 m 厚の互層よりなる.
シルト岩には著しい生物擾乱が認められる.軽石質タービダイトは,明瞭な正常級化構造を示している(右写真).礫岩層は黒色を呈し,塊状で弱い正常級化を示す.シルト岩のリップアップクラストを含む場合がある.下位の地層を削り込む関係も観察され,重力流堆積物と考えられる.
この互層中に厚さ 数 m のスランプ体が見られる場合もあり(関連サイト参照),全体として斜面堆積物であると考えられる.
館層の上位には,やや固結度の低い礫混じりの粗粒砂岩層が載っている(右写真).両者の境界部にはやや凹凸があり,館層の最上部には風化・分解部も見られる.
両者の関係は不整合で,上位の地層は鶉(うずら)層相当層と考えられるが,詳細は不明である.
さらに露頭の最上部には,薄い腐植層を挟んで淘汰のよい砂層が載っており,おそらく古砂丘(~海成段丘?)堆積物と考えられる.
この白亜の露頭の真下の海岸に行って見上げると,少し予想外の風景が出現する.この角度から見ると露頭は顕著な塔状になっている.城壁のようでもあり,前衛的な建築物のようでもある.私はこれを『ガウディ露頭』と読んでいる.
ガウディ露頭の形成要因は,館層堆積岩の中に発達するほぼ垂直に近い節理~割れ目系に沿った選択的浸食である.堆積岩の固結度が高すぎないことも要因の一つであろう.
(なし)
角 靖夫・垣見俊弘・水野篤行,1970,5万分の1地質図幅『江差』および同説明書.北海道開発庁,53 p.
石田正夫・垣見俊弘・平山次郎・秦 光男,1975,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)『館地域の地質』.地質調査所,52 p.