廃墟の幻想
この写真は,1999/04/05現在の理学部本館南棟2階の廊下です.3月までは生物学科の連中が住んでいたところですが,高層新棟の完成で皆引っ越してしまい,廃墟のようになってます.理学部本館は,北大総合博物館の建物として使われることが決まっていますので,もうすぐ改装工事も始まるようです.
この風景,出勤時に階段を上がってきて必ず目にするものですが,暗い廊下と天井にぶら下がっている薄汚れた蛍光灯...何度見ても,背筋にサワッとくるものを感じてしまいます.最初はその感覚がなんなのか自分でも分かりませんでしたが,そのうち,昔見た夢の風景に似ているせいだと気付きました.
...煉瓦の破片や破れた原稿用紙などが散乱する理学部の廊下を歩いていくと,暗い灯の中に,蝶番からはずれて傾いた実験室のドアが見える.その中に入っていくと,そこは,大学院のときに化学分析をやっていた実験室で,ガスバーナの上やエアバスの中に放置された白金るつぼや水の定量に使ったペンフィールド管は,なぜか私が使った時のまま.過マンガン酸カリウム溶液は滴定瓶の中で乾いてこびりついている.あれから十何年も経ったはずなのに,なぜこのようなものがそのまま残されているのか.みんなはどこへ行ってしまったのか.自分はなぜ一人でこんなところにいるのか...
実は,この情景は,かならずしも100%夢の中のものではないんですね.私が博士課程のときに南部北上帯の石炭紀火山岩の全岩化学分析をやらせてもらった第3講座(当時)の分析室は,その後教授が何代も交代しましたが,なぜかほとんどそのままの形で残されていました.さすがにペンフィールド管がガスバーナの上に放置されているようなことはありませんでしたが,分析台の引き出しの中にビニール袋の中に入ってそのままになっていました.エアバスの中の白金るつぼも,一部ヒータが断線した電気炉も,滴定用の標準溶液が入ったポリ瓶も,現実に,そのままでした.
なんと言うのか...『潮が引(退)いていく時』というのは,こういうものなのかという気がします.旧地鉱教室が“崩壊”してから,まだそんなに時が経ってませんが,退く潮に足を浸している感覚が“心地よい”と感じる時があるのはなぜなんでしょうか...
(1999/04/05)
理学部旧館の廃墟にて
今年の6月,理学部新棟(6号館)の完成により,我々地球惑星科学専攻地球惑星物質分野(“旧地鉱教室”)のメンバーも,住み慣れた理学部本館(いまや,旧館ですが)から引っ越しました.
1999年に生物学科が引っ越してから(“廃墟の幻想”参照)3年もかかったわけです.一時は『永久に本館住まい』といううわさもありましたが...
上の写真は,“廃墟の幻想”の地鉱教室版みたいですが,これは引越し準備中の本館3階の廊下で,私の部屋(S323)の前から東方向を眺めたものです.サンプルケースやらずり箱やらで,完璧に消防法違反のすさまじい状況ですが,これが『特に引越し準備中だからこうなっていた』わけでもないというのが,またすさまじいですね.
1−2階が北大博物館に改装されて以来,とにかくスペースの“15パズル状況”が日常となり,この3年くらいは常にこうだったような気がします.
で,引越し後,からっぽになった旧館の中を徘徊してみると,なんだか“廃墟の幻想”が現実になったようなものでした.
引越しが終わったあとの,旧第3講座分析室のドラフトです.誰もいないときにこっそり忍び込んで撮影したものです.
いまこうやって見ると,木製のドラフトなんて,とても信じられないようなものですが...このドラフトで,南部北上山地下部石炭系火山岩の全岩重量分析をやらせてもらったわけです.今でも,沈殿法で析出してきた鉄分や,ろ紙の中でペースト状になっている白いシリカなどを思い出します.
合掌...って,なにに対して合掌しなければいけないのかは分かりませんが.
(2002/12/13)
北大地鉱出身者の読者でないと意味のないようなエッセイになってしまいましたが...m(__)m
(2002/12/25)
Strati ウェブページのトップへ戻る