私的・北海道地質百選
『羊蹄山』
倶知安町・ニセコ町・真狩村・京極町・留寿都町の5町村にまたがる羊蹄山(ようていざん)(1,898 m)は,北海道では珍しい(?)独立峰の成層火山である.そのボリューム感のある端正な山容から,『蝦夷富士』とも呼ばれている.
注)『後方羊蹄山』というのは,“後志” の誤記ではないかとも思ったのだが,有名な深田久弥の『日本百名山』にも “後方羊蹄山(しりべしやま)” として記載されているものである.これらの表記・読みの源については多少調べてみたが,“しりべしやま” がなぜ “ようていざん” となっていったのか...あまりに複雑怪奇で筆者にはよく理解できない.
羊蹄山は独立峰と書いたが,火山地質学的に見れば,それは必ずしも正しくないだろう.ニセコ連峰から羊蹄山-貫気別(ぬきべつ)山-洞爺カルデラ-来馬(らいば)岳-クッタラ・カルデラと続く “火山列” の一部と見ることも可能であり,それらは支笏カルデラ・空沼(そらぬま)岳・札幌岳を含めた西南北海道の大規模な第四紀火山帯を構成しているからである(例えば;中川ほか,1995).
いつものおことわりであるが,筆者は羊蹄山の火山活動史や噴出物について紹介する能力はない.それらについて興味ある方は,例えば中川ほか(1995)などの火山地質学者による一連の(&大量の)仕事を参照していただきたい.
ここでは,『地質学的風景(geologic landscape)』としての羊蹄山を紹介したい.
上のパノラマ写真は,『羊蹄山を含む火山風景』の2枚である.これで実感できるのは,羊蹄山は後志(しりべし)-胆振(いぶり)地域(西南北海道火山地帯)の中央に堂々とどっしり構え,さまざまな場所と角度から視認できるランドマークであるということであろう.
羊蹄山のさまざまなシーンを上に示す.
個人的な感じ方であるが,羊蹄山が一番美しく見えるのは,山体東(京極町)側からのショットである(上写真上左).この角度からだと羊蹄山はほぼシンメトリカルな形をしており,端正なカーブを示す裾野の広がりも素晴らしい.
山体南(真狩村)側からの姿も素晴らしく,道路わきに展望駐車場も設置されているくらいであるが,山体左肩がやや盛り上がっている.これは山頂から西~南西側に流下した何枚かの溶岩流地形を見ているものと思われる.
羊蹄山から南に約 30 km 離れた洞爺湖温泉街付近からの眺めも捨てがたい.上には4枚の写真を紹介したが,洞爺湖の湖水と北側の火砕流台地の上にマッシブに鎮座する羊蹄山の貫禄にはいつも感動させられる.
羊蹄山には,特に火山学的な意味はないが,“双子の弟” がいる.筆者はこれを勝手に『ニセ羊蹄』と呼んでいる.本家 “後方羊蹄山” にちなんでこれを “前方羊蹄山” と呼ぶ向きもある.
右の写真は東南東側から撮ったものであるが,なぜこれがニセ羊蹄なのかがよく分かる.高さは羊蹄山より 800 m 近く低いが,距離のマジックによりほとんど同じ大きさに見えている.
両者の大きさ・位置関係は,札幌市と喜茂別町との境界である中山峠から展望するとよく分かるが,天候に左右されることが多く,写真は撮れていない.
ニセ羊蹄の正確な山名は尻別(しりべつ)岳(1,107.3 m)であるが,尻別岳の本当の姿は,上のように南東(喜茂別町)側から見ただけでは分からない.実は尻別岳は大規模な山体崩壊を起こした火山で,山体西側は西に開いた馬蹄形の凹地となっており,その内部にさらに成層火山体(989 m)が形成されている.西方にある軍人山(561.2 m)は,山体崩壊によって形成された巨大な流れ山(の一つ)である.
最後に,あまり知られていないのかもしれないが,実は羊蹄山は札幌近郊からも見えている.展望ソフト『カシミール3D』の可視マップ作成機能で簡単に確認できる.札幌市街地は無理であるが,南幌周辺では広範囲に羊蹄山を見ることができる.驚くべきことに,札幌市羊ヶ丘展望台周辺でもぎりぎり見えるようである.
上の図は,南幌郊外から見た展望シミュレート画像である.左に札幌岳,右に無意根(むいね)山がそれぞれ特徴的な形で見えているが,その中間に羊蹄山の頭部が見えている.実際は天候に恵まれる必要があり,残念ながら写真はない.
支笏洞爺国立公園
倶知安町・ニセコ町・真狩村・京極町・留寿都町 羊蹄山.
撮影地点: 蘭越町 八幡神社付近. 京極町 川西北方. 真狩村 光.
喜茂別町 双葉東方. 洞爺湖町 洞爺温泉街.
中川光弘・丸山裕則・船山 淳(1995)北海道第四紀火山の分布と主成分化学組成の広域変化.火山,40, 13-31.
(なし)