私的・北海道地質百選
『沼前地すべり』

※ ヘッダー・サムネールは,沼前上空から北の神威岬方面を見たもの.沼前地すべりの北半部が手前下方に写っている.開発局ヘリから 2002 年 2 月撮影.


注1)このサイトは本家・北海道地質百選では,田近淳さんが『積丹半島沼前の大規模地すべり地形』として投稿しています.ここに掲載するものは, 田近さんの投稿 とは独立したもので,すべてオリジナルです.
注2)この地名-沼前-は『のなまい』(not のまない)ですが,例えば 岬地名コレクション サイトでは “ぬままえ” と表記されています.北海道のアイヌ語源地名の常ですが,いずれ早晩 “ぬままえ” と呼ばれるようになってしまうでしょう.『沼(ぬま)』を “のな” と読ませるのは,どう見ても無理があると思います.本サイトでは,とりあえず『のなまい』と表記しておきます.
  ⇒ ちなみにこのような読み変化の個人的なチャンピオンは,ピパイロ → 美生 → びせい でしょう.なぜ “ピパイロ” に “美生” という漢字を当てたかというと,“びはえる” だから,だと思います多分.


 積丹町沼前(のなまい)にある沼前地すべりは,横幅 1.7 km,奥行 1.0 km の半楕円形の地すべり地形である.北海道の地すべり地形としては特別大規模なものではないが,平均的には 500 x 400 m 程度のものが多いので,平均以上の規模ということにはなるだろう.
 下に,地すべり対策工完了(?)後に設置された駐車広場からの沼前地すべりのパノラマ・ビューを示す.横スクロールしてご覧いただきたい.地すべりと対策工に関する簡単な説明パネルも設けられているが,残念ながらその写真は撮っていない.


沼前地すべりのパノラマ・ビュー.国道 229 号線駐車広場より.2012 年 5 月撮影.

 ある程度地すべり地形というものを見慣れている人であれば,このようなビューから沼前地すべりの規模と形態を実感できるだろう.しかし筆者もそうであるが,多くの一般市民にとっては,なかなかイメージしにくいものがある.
 上に見える絶壁が地すべりの滑落崖,その手前の起伏のある林地が地すべりの移動体集積部となっている.そう言われるとそうかというレベルでもある.

 例のごとく,このページは沼前地すべりの滑動史やメカニズム・要因などを正確に紹介するものではない.それらについては,田近・岡村(2010)に詳しく記述されているので,興味ある方はそちらを参照していただきたい.


沼前地すべりの Google Earth 画像.西北西側の高度 2,500 m から俯瞰したもの.

 右図は,Google Earth で俯瞰した沼前地すべりである.このようなビューで初めて沼前地すべりの全体像を理解することができる.
 滑動方向は海岸線に直交しているわけではなく,南東⇒北西である.平面形態は半楕円状なので,地すべりの端部は海中に突っ込んでいるということであろう.田近・岡村(2010)によると,地すべり下底のすべり面は,海岸線付近では海面下 35 m にあるとされている.


ヘリから見た沼前地すべり.上:2004 年 9 月撮影.下:2002 年 2 月撮影.

 右写真は,道路防災点検のヘリ・フライトの際に撮影した沼前地すべりである.点検の対象ではないので,あくまでも “通りかかってシャッターを切った” だけのショットということであるが.

 上は,地すべり南西側からの斜めショットで,巨大な滑落崖が印象的である.滑落崖の比高は最大で 210 m 以上ある.滑落方向は,その下から左下方向である.

 下は,冬季の正面からのショットで,積雪のため地すべり移動体部の微地形が非常に良く見えている.
 海岸部から地すべり地内に伸びる道路が見えている.対策工事に関連したものの可能性があるが詳細は不明である.手前は沼前の集落であるが,現在は住民は退去しほぼ無人となっているはずである.

滑落崖上に見える水中火砕岩層.2012 年 5 月撮影.

 滑落崖向かって右側には水中火砕岩が露出している(右写真).向かって左へ緩く傾斜しており,傾斜方向は北東のように見える.

 この地層は新第三紀中新世の尾根内層で,平板な層理を示す安山岩質成層ハイアロクラスタイトである.遠望であるが,安山岩ブロックの含有率は低く,ハイアロクラスティック基質が卓越している.溶岩層・供給岩脈のようなものは見えない.

 露頭の中央から少し上側に暗色層があるが,拡大して見ても岩質は変わらず溶岩層ではない.地下水の浸透部である可能性が考えられるが不明である.
 露頭最上部には,厚さ 数 m 以下の比較的淘汰の良い未固結砂層が載っている.新第三紀鮮新世の野塚層あるいはその上位の高位段丘堆積物と思われる.

 山岸・石井(1979)によると,この水中火砕岩相の下位には,比較的抵抗性の低い尾根内層下部の頁岩・凝灰岩互層がある.そのため,相対的に堅牢な水中火砕岩が『キャップ・ロック』となり,地すべりの発生要因の一つと考えられている(田近・岡村,2010).


既存の指定など

(なし)


所在地

積丹町 沼前.


サイトの状態:


参考文献

田近 淳・岡村俊邦(2010)大規模地すべり地形の発達:積丹半島沼前地すべりの例.地すべり学会誌,47,15-21.

山岸宏光・石井正之(1979)5万分の1地質図幅『余別及び積丹岬』.北海道立地下資源調査所,49 p.


関連サイト

(なし)



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