私的・北海道地質百選
『屈斜路カルデラ』

注)このサイトの後半部分は,本家・北海道地質百選では,柳 敏さんが『屈斜路カルデラの円頂丘溶岩群』として投稿しています.ここに掲載するものは,柳さんの投稿 とは独立したもので,すべてオリジナルです.


屈斜路カルデラの地形陰影図.国土地理院10 mメッシュ地形数値情報を使用してカシミール3Dで図化したもの.

 屈斜路(くっしゃろ)カルデラは日本最大(級)のカルデラで,その幅は長径が約 26 km である.この大きさは阿蘇カルデラよりも少し大きい(右図).

 カルデラの形状はやや不整で,南東側のカルデラ壁が開析されているように見える.そこから釧路川が南へ流下している.
 図から分かるように,少なくとも現在の屈斜路湖は,屈斜路カルデラの西半部を占めているにすぎない.その内部には,中島や硫黄山周辺などの溶岩ドーム群が発達している.

 屈斜路カルデラは,千島列島西端部の知床半島から雌阿寒岳に連続する火山帯の最西端部に位置しており,北西側にある大雪-十勝火山群には連続していない.その火山学的な説明は筆者には不可能である.

※ “屈斜路” の読み方は,論文などでは『くっちゃろ』と表記しているものがある.おそらくアイヌ語語源としてはそれが正解なのだと思うが,現在のあれこれを鑑みて,このサイトでは『くっしゃろ』と表記する.札幌市月寒の “つきさっぷ” が,いつのまにか “つきさむ” となったようなもので,それ以上の意味はない.


美幌峠より見る屈斜路湖パノラマ.2012 年 8 月撮影.

美幌峠から見え得る中島とアトサヌプリ火山群.2019 年 9 月撮影.

 美幌町美幌峠展望台から見る屈斜路湖を上写真に示す.ここから見えている屈斜路湖は,上述したように屈斜路カルデラの西半分だけに過ぎない.

 中央に見えるのは中島.その向こうに,硫黄山(アトサヌプリ)などのカルデラ東半部に位置する活動的な火山群が見えている(右写真).

津別峠展望施設からの屈斜路湖パノラマ.2019 年 9 月撮影.

 屈斜路湖のもう一つの展望ポイントとして,津別町津別峠がある.峠近くから北へ入る側道があり,その終着点が展望施設となっている.標高は 951 m で美幌峠展望台の 526 m よりはるかに高く,よりダイナミックな屈斜路湖の展望が得られる(右写真).

 中島と,その右に対岸のアトサヌプリ火山群が良く見えている.右端に見えるひょうたん状の部分は和琴半島で,これも溶岩ドームの一つである.


摩周湖第3展望台付近から見た硫黄山(アトサヌプリ・508 m).その背後のピークはマクワンチサップ(574.1 m),右がサワンチサップ(520 m).硫黄山はマクワンチサップの前にあるが,光の関係で少し見分けにくい.2019 年 9 月撮影.
硫黄山.2010 年 8 月撮影.
硫黄山溶岩ドームの内部構造.中央左の部分は “転倒褶曲” を示す.2010 年 8 月撮影.

 硫黄山(アトサヌプリ)は,噴気活動が非常に活動的な火山で,気象庁の活火山リストにも入っている.2023/08 現在の活動レベルは,最低のレベル1(活火山であることに留意)となっている.

 右写真は “対岸” の摩周湖周遊道から見た硫黄山である.山体の周囲は,噴気活動のためと思われるが,大半が植生のない裸地で取り囲まれている.

 硫黄山は駐車場・レストハウスが整備された観光地で,多くの観光客が訪れている.山体のふもとでも噴気活動が非常に活発で(右下写真),谷部には鮮やかな黄色の硫黄昇華物が見られる.硫化水素の臭いが激しく,あまりリラックスできるところではないが,それによる事故の発生例は今まで無いようである.

 硫黄山の山体をクローズアップして見ると,ほぼ水平な節理・流理構造を持っている溶岩であるが,部分的にそれが “褶曲” し,急傾斜している部分が見られる(右下写真).これはおそらく,粘性の大きな安山岩~デイサイト溶岩ドームの持つマッシュルーム状の内部流動構造と思われる.


注記) アトサヌプリなどのドームが,一般的な溶岩ドームではなく,カルデラ形成に伴って構造的に形成された『リサージェント・ドーム』(復活ドーム:resurgent dome)とする研究結果がある(後藤・McPhie,2016).
言うまでもなく,専門家ではない筆者には,それらの妥当性を評価することは不可能である.


既存の指定など

(なし)


所在地

弟子屈町 屈斜路湖. 硫黄山.
  風景撮影地点: 美幌峠展望台. 津別峠展望施設.


サイトの状態:


参考文献

後藤 芳彦・J. McPhie(2016)北海道屈斜路カルデラのリサージェントドーム.日本火山学会 2016年度秋季大会予稿集,B3-11.


関連サイト

(なし)



私的・北海道地質百選のトップページへ戻る