私的・北海道地質百選
『奔別立坑』
北海道内には現在,わずかな露天掘りサイトを除くと,通常稼行中の炭鉱はない.一時期は道内の産業の花形であった炭鉱は,20 世紀後半に急速に消滅してしまい,それは地域社会にも大きな負のインパクトを与えた.
炭鉱は言うまでもなく,地質学が本質的に深くかかわった産業である.その意味で,炭鉱遺構はすなわち『地質遺構』でもある.それは時の経過とともに次々と失われていきつつある.
三笠市幾春別のはずれにある奔別炭鉱跡は,その堂々たる立坑跡がランドマークとなっている.
三笠ジオパークのジオサイトの一つともなっているが,構内は立ち入り禁止となっており近づくことはできない.正門外から,あるいは立坑の横を走る道からの遠望のみサイトとなっている.
Wikipedia によると,住友奔別炭鉱はその前身が 1900 年に開業したもので,1971 年 10 月に閉山した.奔別立坑は 1960 年から稼働したもので,深さは 700 m 以上と,非常に大規模なものである.
日本列島は変動帯の中に位置しており,石炭層自体が褶曲その他で地下へ延長している.そのため,その掘削には大規模・大深度の地下坑道が必要となる.それが産炭コスト・リスクの増大要因であり,国内石炭産業が海外輸入炭に太刀打ちできなかった原因であろう.奔別立坑はその象徴の一つである.
奔別立坑は,閉山から 50 年以上が経過した 2023 年現在でも,赤錆びてはいるものの,その姿と構造は健在である.2018 年に筆者が訪れた時は,櫓上部のホイール(正確になんというものかは不明)が,風によるものか,からからと音を立てて回っていた.不思議な光景であった.
なお上写真中の竪坑櫓下の建屋の部分は,閉山作業中に起きたガス爆発によってその外壁がすべて吹き飛んでおり,その状態のままとなっている.
※ 三笠市には,もう一つ立て坑跡がある.唐松青山町にある幌内立て坑である(右写真).
2008 年 3 月にこの付近で大規模な地表陥没が発生した.土煙が舞い上がり一時は爆発事故かと思われたくらいであった.おそらく地下にあった立て坑・坑道の空洞が崩落したものであろう.1989 年の閉山以来 20 年が経過しての崩落であった.幸いにしてそれ以上の被害は発生しなかったが,炭鉱遺産の保持に関して考えさせられる事故である.
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