私的・北海道地質百選
『雁皮山の付加体』
“付加体” という地質体は端的に書くと海洋性岩石と陸源性堆積物の混合物なので,その岩相のバラエティは通常の地層のそれよりもはるかに多様なものである.
日高町雁皮山(がんぴやま)の南にある三岩四ノ沢林道は,白亜紀付加体『雁皮山コンプレックス』(川村ほか,2001)が模式的に露出するルートで,そこでは付加体岩相のほぼすべてを見ることができる.
長さ 2 km 程度のルートでこれほどさまざまな付加体岩相を見ることができるサイトは,そうはない.ただし,それらの岩相の相互関係が必ずしも明確ではないのが玉に瑕である.
以下に,雁皮山コンプレックスの付加体岩相アラカルトを示す.
右写真左は変形砕屑岩で,伸長破断しブーダン状を示す砂泥互層である.
右写真右は,変形のほとんど見られない赤色成層チャート層である.中川・日高収束帯研究グループ(2002)は,このようなチャートから,前期~後期白亜紀(Albian ~ Cenomanian)放散虫化石を報告している.
右写真左は,薄層理を示す珪長質凝灰岩層である.葉理が発達し,ラミナイト(laminite)と呼ぶべきところもある.
右写真右は,珪質-泥質準片岩で,薄層理のチャート(下写真参照)あるいは右写真左のような凝灰岩互層を源岩としたものと考えられる.
右写真上は付加体の特徴岩相,混在相である.片理の発達した泥質基質と乱雑な包有物からなる.写真上にあるのは,緑灰色チャートのブロックである.
右写真中は,薄層理のチャート泥岩互層で,著しく褶曲している.
右写真下は緑色岩で,枕状を示さず塊状であるが,厚さ 1 m 程度の玄武岩質角礫岩を挟み,火山岩であることが分かる.角礫岩はやや円磨しており,ハイアロクラスタイトの二次堆積物の可能性がある.
三岩四の沢林道は,付加体岩相オンパレードの宝庫である.アクセスがかなり悪いのが非常に残念である.
※ 三岩四の沢林道は,もちろん森林管理署の立ち入り許可が必要であるが,2002 年の時点で非常に荒れており,自動車で入る場合タイヤバースト(経験済)に十分気を付ける必要がある.また熊の気配が濃厚で,林道わきに熊の寝床・トイレらしきものを目撃している.立ち入る際にはこういった点に十分気を付ける必要があるサイトと言える. なお四の沢林道へのアプローチは,岩内川沿いの道を約 6 km 進み,雁皮山北側の沢沿いの林道に入る.その途中から右に入る枝林道があり,山腹を回り込みながら四の沢へ入る.四の沢に直接入る林道はないので注意されたい.
(なし)
※ ここに示した位置は,四の沢林道を一つの位置例で示したもので,個々の露頭については省略する.
川村信人・植田勇人・中川 充・加藤孝幸・日高収束帯研究グループ(2001)空知-エゾ帯の“未分離日高累層群”から高圧変成鉱物の発見.地質学雑誌,107, 237-240.
中川 充・日高収束帯研究グループ(2002)神居古潭帯の新たな高圧変成ユニット-後期白亜紀付加体雁皮山コンプレックス.地学団体研究会第56回北海道総会講演要旨,83-84.
(なし)