私的・北海道地質百選
『兜岬の水中火山岩』

注)このサイトの忍路漁港脇の露頭については本家・北海道地質百選では,石井正之さんが投稿しています.ここに掲載するものは,石井さんの投稿 とは独立したもので,すべてオリジナルです.


安山岩質ハイアロクラスティック角礫岩.忍路漁港脇恵比寿岩.2011 年 4 月撮影.
左:安山岩質溶岩中の pseudo-pillow 構造.右:フィーダー岩脈.忍路漁港脇恵比寿岩.2011 年 4 月撮影.

 小樽市忍路(おしょろ)半島周辺の海岸沿いは,新第三紀水中火山岩類の良好なフィールドである(Yamagishi, 1982).

 まずは,忍路漁港の北端にある “恵比寿岩” 周辺で,その一端を観察することができる.

 右の写真は,安山岩質ハイアロクラスティック角礫岩で,水中火山岩類の中でもっともポピュラーなもので,水冷破砕によって生じた安山岩角礫の間を,細粒の火砕質基質が充填しているものである.基質は粘土化変質(おそらくモンモリロナイト化)のため,特徴的な黄白色を呈している.

 ハイアロクラスタイトの中には,破砕していない溶岩部もあり,その中に枕状構造が観察される(右写真左).

 右の写真の右はハイアロクラスタイトに貫入する安山岩脈で,火山体に溶岩を供給したフィーダー岩脈(feeder dyke)である.


上:忍路漁港から遠望した兜岬.下:兜岬(兜岩)の特徴的な形状.2011 年 4 月撮影.

 忍路半島の北西側の突端部,兜(かぶと)岬(右写真)は,植生もほとんど無く水中火山岩類がそのまま露出しており,良好な観察サイトである.

 忍路漁港から兜岬を遠望すると(右写真上),鋭く突き出た形状ですぐにそれと分かる.

 兜岬に陸路から到達するには,末尾に注記した通り多少の苦労を要するが,右写真下のような独特な形状を示し,兜岬(兜岩)の名称の由来がよく理解できる.

 石狩湾の眺望も素晴らしい.背後に見えるのは,まだ雪をかぶった積丹半島の山々である.

成層ハイアロクラスタイト.兜岩下部の絶壁露頭.2011 年 4 月撮影.
左:ハイアロクラスタイト中に貫入する安山岩角礫岩脈.右:ハイアロクラスタイト中の火山弾.2011 年 4 月撮影.

 兜岬に露出しているのは,主に成層した細粒/角礫ハイアロクラスタイトである(右写真).

 その層理面は向かって左(南東)側にゆるく傾斜しており,上に示した兜岩の特徴的な形状は,その成層構造に規制されたものである.

 兜岩周辺を詳しく見ていくと,水中火山岩のさまざまな構造が観察できる.

 右下写真の左は,兜岩のハイアロクラスタイト中に貫入している安山岩角礫岩脈である.兜岩の上面付近にその終端部がある.
 これがどのようにして形成されたかはよく分からないが,貫入母岩がまだ含水状態の細粒ハイアロクラスタイトなので,それによる急冷が関係しているのかもしれない.

 右上写真の右は,ハイアロクラスタイト中に散在する火山弾(volcanic bomb)である.急冷縁を持ち,抛出直後に内部が未固結あるいは未冷却の状態で変形したことがよく分かる.内部の色調が異なる理由は高温酸化のためだろうか?


※ 忍路漁港から兜岬へ至る道は残念ながら無い.もっとも簡単なアクセスルートは,以下のとおりである.忍路漁港の北端から恵比寿岩の下を通って入り江に出る.そこからヤブの斜面を直登して尾根(標高約 50 m)へたどり着くと,踏み分け道がある.それを西へ進むと兜岬の付け根に出る.草葉の生い茂る夏季には,おそらく到達が難しいと思われる.行けるのは 5月上旬以前,あるいは 10月以降だけであろう.

※ 兜岬は,言うまでもなく安全柵のようなものは一切ない自然そのままの岬である.岬先端に向かって右側は断崖絶壁,左側は海岸へ向かって草付きの無い斜面となっている.非常に危険なサイトであるので,充分な注意が必要である.


既存の指定など

(なし)


所在地

小樽市 忍路 兜岬.


サイトの状態:


参考文献

Yamagishi, M. (1982) Miocene subaqueous volcanic rocks of the Oshoro Peninsula, Southwest Hokkaido, Japan. Jour. Geol. Soc. Japan, 88, 19-29.

猪木幸男・垣見俊弘(1954)5万分の1地質図幅『小樽西部』.北海道開発庁,27 p.


関連サイト

(なし)



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