私的・北海道地質百選
『初無敵の根室層群』
釧路町初無敵(そむてき)海岸は,入境学(にこまない)から海岸に出て,そこから西へ入る約 2.5 km の狭い岩石海岸である.
初無敵海岸沿いにはもちろん人家はなく,道路は海岸から 110 m 以上の比高を持つ段丘面上にあり,海岸からそこへ上るルートは絶壁と滝に阻まれている(下写真左).初無敵海岸の西端はローソク岩のある岬になっており,そこが行き止まりで,冬窓床(ぶゆま)側へ抜けることはできない.
つまり,初無敵海岸は one-way のルートであり,歩いてきた岩石浜をまた帰るしかない.満潮時はもちろん,悪天候時や打ち寄せる波が高いときは,行くのはまったく無理なルートである(下写真右).
※ 筆者は 2013 年 9 月に初無敵海岸の単独調査を行ったが,全体の 2/3 を行ったあたりで引き返している.時間(と根性)が足りなかったのである.
釧路市東部海岸から釧路町昆布森地域にわたって分布する汐見層は,根室層群の上部に相当し,時代は古第三紀暁新世中期(ca. 60 Ma)である(Okada et al., 1987).
初無敵海岸には,この汐見層が海食崖の絶壁となって露出している.ほぼ水平な黒色成層シルト岩を主体とし,薄い細粒砂岩を挟む.
シルト岩中には不明瞭な石灰質ノジュール~コンクリーションが見られる(右写真).
汐見層中には,スランプによるものと思われる変形構造がまれに見られる(右写真).絶壁の下から見上げているとまず分からない.
成層泥岩中の砂岩(あるいは石灰質泥岩?)の薄い挟みの層理面が破断・食い違い・折れ曲がりを示しているものである.
写真を拡大して見ても,褶曲破断などの乱雑な擾乱はみられないが,砂脈の貫入らしいものが確認できる.
露頭基部で視認できる範囲では,スランプ構造は確認できなかった.
汐見層の中には,無数の砂脈貫入が観察される.砂脈はすべて平板状で,一般に厚さ 数 cm,最大でも 20 cm 程度である.砂脈の内部は塊状・無構造のものが多いが,時に貫入壁面に平行なラミナ状構造や粒度分化を示す場合がある.まれではあるが,安山岩質火山岩細礫を含む不淘汰礫脈も見出される.この礫脈の起源はまったく不明である.
(なし)
Okada, H., Yamada, M., Matsuoka, H., Murota, T. and Isobe, T., 1987, Calcareous nannofossils and biostratigraphy of the Upper Cretaceous and Lower Paleogene Nemuro Group, eastern Hokkaido, Japan. Jour. Geol. Soc. Japan, 93, 329-48.
河合正虎(1961)5万分の1地質図幅『昆布森』說明書.地質調査所,59 p.
(なし)