私的・北海道地質百選
『霧多布・湯沸のスランプ』
浜中町の霧多布岬西方の湯沸(“ゆわかし” ではない,とうふつ)海岸には,根室層群の上部にあたる霧多布(きりたっぷ)層が露出している.
基本的な岩相は,黒色泥岩中に薄層の砂岩層を挟在するものである(右写真).
泥岩中には,最大径 1 m 前後の石灰質ノジュールを含む場合がある(右下写真).
霧多布層は一般に厚い礫岩層を特徴とするので,この地層の層準については釈然としないものを感じるが,長尾ほか(1966)では砂岩泥岩互層が含まれる場合があるとなっているので,そういった部分を見ているのかもしれない.
いずれにせよ,この地域の根室層群の相互対比や他地域との対比はかなり複雑で,門外漢には理解が難しい点もある.
湯沸海岸では,この地層の中に厚い含礫泥岩層が挟まれている(右写真).その厚さは最低でも 10 m 近くある.黒色泥岩の中に円礫が単に散在するもので,“泥基質礫岩” といったレベルのものではない.
このような特異な異常堆積層の存在は,筆者の知る限り従来報告されておらず,『霧多布』図幅でもまったく触れられていない.
なお,霧多布層泥岩中には海生の二枚貝・有孔虫化石を含んでいる(長尾ほか,1966)ので,その全体が海成層と考えられる.
思い付きとしては,礫質堆積物で充填された海底チャネル域の崩壊によるものと推察されるが,それ以上のことは筆者にはまったくの no idea である.
この霧多布層の泥岩互層には,根室層群では定番の大規模な褶曲型のスランプ層が観察される(右写真).
水平な軸面で折り畳まった褶曲タイプのもので,褶曲部の下面にはすべり・食い違い面が見えている.
このスランプ層と上に述べた含礫泥岩層がなんらかの成因的関連性を持っているかどうかについては,残念ながら判断材料は無い.
いずれにせよ,こういった “異常堆積相” の存在が,根室層群上部の特異な粗粒岩相である霧多布層の堆積テクトニクスを考える際にどのような意味を持っているのかは,興味深いがほとんど論じられていない.
(なし)
長尾捨一・石山昭三・吉田三郎(1966)5万分の1地質図幅『霧多布』.北海道開発庁,38 p.
(なし)