私的・北海道地質百選
『春立海岸の地層』
新ひだか町静内春立(はるたち)の海岸には,干潮時の波蝕棚上に見事な地層の露頭が現れる(下写真).どこにでもありがちなものであるが,少なくとも北海道で筆者の見たものの中ではもっともスペクタクルである.
この地層は,『春立』図幅によると新第三系中新統の静内層で,砂岩とシルト岩の互層からなる.ほぼ直立~南西(海側)に急傾斜している.
『春立』図幅では,静内層の特徴岩相として硬質頁岩を含み礫岩の挟在があるとされているが,この露頭では確認していない.
右の遠望写真で見る限り,層理面はわずかに屈曲している.パノラマ写真にも見えているが,それに直交する方向の断層面(見かけのずれ量は 数十 cm 程度)が複数存在し,屈曲はそのドラッグによるもののように見える.
この露頭の持つもう一つの意味は,右の写真に明確に見えている.
地層の走向線と海岸線の方向が同一なのである.つまり,日高海岸地方の現在の海岸線(の方向)は,新第三系の地層の NW-SE 方向の構造に規制されているということになる.
新第三系は NW-SE 方向の軸を持つ折り畳まれた褶曲構造を示しており,それは日高衝突山脈を形成した新第三紀のプレート衝突による東西(性格には北東南西であるが)圧縮テクトニクスによって形成された.
春立海岸の見事な地層露頭は,このような広域テクトニクスを,ある意味そのまま反映したものなのである.
※ この露頭は,既に書いたように干潮時にしか現れない.筆者も何度かそれで観察の機会を逃しているので,見学の際には当該地域の満干潮時刻を確認して欲しい.また干潮時には,上の写真にもあるように地域住民が海藻等の採取をしているので,ハンマーの使用等には注意が必要である.
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佐藤博之・山口昇一(1960)5万分の1地質図幅『春立』.地質調査所,19 p.
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