私的・北海道地質百選
『三石海岸のスランプ』

 新ひだか町三石鳧舞(けりまい)の旧三石温泉下の海岸には,大規模なスランプ層が露出している.海岸に出るのは容易で砂浜も歩きやすく,スランプ体の内部構造を観察できる良好なサイトである(下写真).
 露出している地層は新第三系中新統のアザミ沢層で,粗粒タービダイト相の卓越する地層である.旧みついしキャンプ場跡の脇から海岸に出るとすぐに,タービダイト互層からなるアザミ沢層の露出がある(ヘッダー・サムネール).地層はほぼ直立しており,向かって右(海)側が層位的上位である.

スランプ体の全景.2011 年 6 月撮影.

 海岸を東に進むと,露頭のほぼ全体がスランプ層となっている(上写真).露出幅は約 150 m あるが,地層の走向は露頭に低角斜交しているので,実際の厚さはかなり薄いものと思われる.それでも,少なくとも 10 - 20 m はあるだろう.


混沌としたスランプ体内部の構造.2011 年 6 月撮影.
一見成層構造を保存している部分.2011 年 6 月撮影.

 スランプ体の内部は chaotic で混沌としており,スランプ・ブロックと基質を区別することも難しいほどである.

 右写真に示した部分は,もっとも典型的なスランプ内変形・破断・褶曲部である.元の成層構造は辛うじて残存しているが,その連続性は完全に失われている.

 右下写真は,一見やや褶曲した母岩互層のようにも見えるが,よく見ると成層部の砂岩層が見かけ上の下側で伸長破断により薄くなり,黒色泥質基質様の部分が相対的に増えている.正常な地層の範疇に入るものでは到底ない.
 これもスランプ体の内部を見ているということなのであろう.


砂質のスランプ基質に包有される泥ブロック.上:湾曲破断した成層シルトブロック.下:やや円磨した外形の泥ブロック(“装甲泥球”).2011 年 6 月撮影.

 スランプ体内部には,泥ブロック・包有物を含む含礫砂岩部がある.特に露頭の向かって左側(層位的下位側)で顕著に見られるが,産状・形態がはっきりしない.

 泥包有物にはさまざまな形状のものがあり,大きく湾曲し破断した葉理シルト岩破片(右写真上),やや円磨した外形を示しその周囲に礫が埋め込まれた “装甲泥球(armoured mud-ball)” (右写真下)などが観察される.装甲泥球の外側の砂基質は,礫の外形に沿った流動構造を示している.

 こういった岩相は砂基質デブリ・フロー堆積物であることは間違いないが,これがスランプ体基質なのか,それともスランプ発生以前にもともと母岩にあった粗粒岩相なのかは必ずしも明瞭ではない.しかし他地域のスランプ体の観察例から類推すると,前者の可能性が高い.


既存の指定など

(なし)


所在地

新ひだか町 三石鳧舞.

サイトの状態:


参考文献

和田信彦・高橋功二・渡辺 順・蟹江康光,1992,5万分の1地質図幅説明書『三石』,北海道立地下資源調査所,73p.


関連サイト

(なし)



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