私的・北海道地質百選
『臨海実験所裏のスランプ層』
厚岸(あっけし)町愛冠(あいかっぷ)の海岸には,北海道大学理学生物学科の厚岸臨海実験所がある.段丘上の道路からかなり下りた狭い入り江に立っているので,海上からでないと見えない場所にある.
かなり昔の臨海実験所紹介パンフレットの表紙だったと思うが,海上から撮った建物写真の後ろに根室層群の見事な互層が写っているのを見て,いつか見に行こうと思っていたサイトである.
このサイトは厚岸臨海実験所構内にあり,見学には臨海実験所の許可が必要である.
実際に露頭を見ると驚くが,紹介パンフの表紙にあった見事な互層というのは露頭の向かって左(・下)半分だけで,その上位には,巨大なサイズの砂岩ブロックを含む破断相が見えている(上写真).この地層は白亜紀後期~古第三紀最初期の前弧海盆堆積体,根室層群厚岸層である.
厚岸層の基本的な岩相は,砂岩・泥岩からなるタービダイト互層である(右写真).
この露頭では詳細に見ると,砂岩単層の膨縮・破断・食い違いなどの変形が認められる.
タービダイト互層の上位は,厚さ 15 m 以上の破断変形層からなっている(右下写真).内部構造は chaotic で,成層構造はすべて破断している.包有される砂岩ブロックの径は,目測であるが最大で 5 m はある.その形状からは,回転を伴った破断によって形成された可能性が考えられる.
遠目の観察であるが,泥基質は剪断変形により鱗片状劈開を示している.剪断変形は破断変形層下底部付近で著しく,下位のタービダイト互層との境界すべり面状に見える部分もある.
このような剪断した破断変形層が『スランプ層』と言えるのかどうかは筆者には確信はない.
普通の意味のスランプ体は表層の低応力・含水状態で形成されるものなので,剪断強度はないか少なくとも非常に小さいからである.
厚岸層(あるいは根室層群全体)のこのような変形層を記載しその形成メカニズムを論じた論文はおそらくないと思われる.
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