私的・北海道地質百選
『蝦夷層群の砂岩脈群』
砂岩脈(sand dyke)は.北海道の代表的な白亜系の地層,蝦夷層群の中にも普通にしかも多量に含まれている.
夕張市白金川に分布する蝦夷層群は中部層準に相当し,滝の沢層と呼ばれている(本山ほか,1991).おもに黒色~暗灰色泥岩と砂岩の互層からなる.
滝の沢層の中にはさまざまな形状の砂岩脈が頻繁に観察される.もっとも一般的なものは,平板状の単純な形状で内部構造のほとんど見られない砂岩脈である(右写真).
右写真の露頭では,母岩(泥岩)の層理面は露頭面にほぼ平行なので,砂岩脈はそれに直交していることになり,シルではない.右下に斜めに走る “砂岩層” も砂岩脈である.このようなものが単独で産出すると,通常の(堆積性)砂岩層とほとんど区別できない.
左写真は,タービダイト砂岩層と,その層理にほぼ直交する砂岩脈が共存する例である.
この例では,タービダイト砂岩層と砂岩脈がほぼ同じ厚さを持ち,岩相や構造もあまり変わらないので,一見すると両者を区別できない.わずかに,砂岩と互層する泥岩のパーティングの方向で区別できるだけである.
筆者はこのようなものを “十字交差砂岩層” と呼んでいる.
蝦夷層群砂岩脈は,白金川下流部という狭い範囲でありながら,さまざまな構造が観察できる.その例を上に示す.
①:貫入壁面上にロードキャスト様の凹凸を示す例.砂流体内の乱流による浸食構造の可能性があるが詳細は不明である.なおここには示していないが,貫入壁面上に明瞭なリップル構造を持つ例も知られている.
②:砂岩脈内部に脈幅とあまり変わらないサイズの泥包有物を含む例.包有物の配列が認められないのが不思議と言えば不思議である.
③:砂岩脈が分岐して母岩を大きく取り込み,再度合流している例.貫入の向きは不明である.
白金川入り口付近では,滝の沢層中にやや規模の大きなスランプ体が挟在する(上写真).写真中央部の少し色調の違う部分がスランプ体である.拡大して見ると,内部が乱雑な構造を持っていることが分かる.
スランプ体の厚さは 15 m 以上.地層は全体に逆転しており,向かって左側が層位的上位.スランプ体の下位に砂岩脈密集部がある.
スランプ体の下位層準には,砂岩脈の密集した部分(sand dyke swarm)が見出される(上写真).スランプ体と砂岩脈の共存例はこのサイトに限らずよく見られ,形成にはなんらかの関連があるものと推察される.しかしスランプは表層現象なので,直接の成因関係があるとは思えない.残念ながら,こういった現象について詳しい研究は行われていない.
(なし)
※ 見学・撮影は,GPS レシーバーをまだ所有していなかった 1998-2009 年前後のもので,位置は不正確なもの(あるいは不明)である.
本山 功・藤原 治・海保邦夫・室田 隆,1991,北海道大夕張地域の白亜系の層序と石灰質微化石年代.地質学雑誌,97, 507-527.
(なし)