私的・北海道地質百選
『幌去橋の蛇紋岩砂岩』
蛇紋岩は,上部マントルを構成しているかんらん岩が加水変質してできた岩石である.機械的・化学的に非常に脆弱で,砂や礫などの砕屑物として残るのは非常にまれな岩石であると言える.そのような岩石の砕屑物が地層中に多量に存在していた場合,それはかなりの規模の蛇紋岩体が構造運動に伴って堆積場の近傍に露出していたことを示している.
平取町の沙流川・仁世宇川合流点付近にかかる幌去(ほろさり)橋の下やその下流の河床部には,特徴的な帯緑色のざらざらとした砂岩層が露出している(右写真).これが蛇紋岩砂岩である.鉄分を含んでいるため,風化すると赤褐色を呈する.
全体に貝殻破片を含むのが特徴的であるが,露頭によっては,合弁した二枚貝化石を多量に含んでいるのも観察できる(右下写真).このことは,この蛇紋岩砂岩が浅海成堆積物であることを示している.
この蛇紋岩砂岩を含む地層は新第三系中新統ニニウ層群で,北海道中央部の滝の上層に相当するものである.滝の上相当層の中には,蛇紋岩砂岩などの蛇紋岩質堆積物が随所で特徴的に含まれている(Okada,1964など).
新第三紀中新世という時代は,日本列島にとって大きな変動の時代と言える.漸新世から中新世にかけて日本海が形成され,日本列島はアジア大陸の東縁から切り離され,各地で山地や盆地の形成・火山活動や新しい海域の出現などが起きた(吉田・新井田,2002).
蛇紋岩砂岩は,このような構造運動に密接に関連して形成されたきわめて特殊な堆積物であると言える.
蛇紋岩砂岩の露出する幌去橋下の河原から下流側を見ると,黒色の軟質な岩石の露頭が続いているのが見える(右写真).蛇紋岩である.
もちろん現在の地質分布が中新世のそれと同一であるわけはなく,手前に露出する蛇紋岩砂岩の供給源が向こうに見えているというわけでもない.しかしこの地質情景は,上に書いた新第三紀のローカルな構造的堆積環境を象徴的に現わしているものと言える.
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Okada, H., 1964, Serpentinite sandstone from Hokkaido. Mem. Fac. Sci., Kyushu Univ., Ser.D (Geol.), 15, 23-38.
吉田孝紀・新井田清信,2002,蛇紋岩と火山の海.『夕張1億5千万年の歴史-大地が語るもの-』,27-30,夕張市教育委員会.
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