私的・北海道地質百選
『北海道最大の石灰岩体』
日本列島に存在する石灰岩体のほとんどは,『中生代付加体中の異地性石灰岩体』である.その産状としては,“付加した海山体(の一部)”・“混在岩相中の岩塊” の二つが考えられるが,両者は必ずしも区別が明確なわけではない.しかし一般には,前者の岩体規模は大きくなる.
函館市の北西には,水無沢から宗山川・釜の仙境沢川をへて戸切地川中流にかけて上磯石灰岩体が分布している.新第三系の被覆によって隠れている部分もあるが,全体として南北 5 km 東西 4 km の分布規模を持つ.これはおそらく,北海道では最大規模の石灰岩体の一つである.
石灰岩体の中を流れるこれらの川は,狭いゴルジュを形成しており,その特徴的な景観から『釜の仙境』と呼ばれている(右写真).このゴルジュの遡行には沢登り等の野外スキルが必要であり,筆者は実際に立ち入ったことはない.
上磯石灰岩体は,ジュラ紀付加体渡島帯上磯コンプレックスに含まれ,坂上ほか(1969)などにより三畳紀のコノドントが報告されている.石灰岩体の内部は急傾斜した成層石灰岩で,その内部構造は分布外形とは一致していない.
石灰岩体の上位は,石灰質砂岩・石灰岩礫岩・玄武岩質火山性礫岩からなる粗粒ユニットと,火山性砕屑岩・珪質泥岩・チャートからなる砕屑岩ユニットからなる.砕屑岩ユニットからは川村ほか(1997)により後期三畳紀~前期ジュラ紀の放散虫化石が報告されている.
上磯石灰岩体の南半部は,セメント原料として稼行の対象にもなっている(峩朗鉱山).ここで採掘されたセメント鉱石を船で積み出すための長大なベルトコンベアは,函館湾まで突き出しており,独特の工業的な風景を作っている.
峩朗鉱山の切り羽で石灰岩体を観察することができるが,立ち入りにはもちろん鉱山の許可が必要である.ここでは,厚歯二枚貝化石を多量に含む石灰岩を見ることもできる(右写真).
この石灰岩体は,ジュラ紀付加体中の巨大な石灰岩オリストリスとも考えられているが,混在岩相が確認されているわけではなく,むしろ付加した巨大な海洋性岩体の頂部の一部である可能性が高い.しかし詳細なセッティングは明らかにはなっていない.
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川村信人・小澤 聡・亀山聖二・岩田圭示,1997,渡島帯東部,上磯・戸井コンプレックスに関する補足的データ.川村信人・岡 孝雄・近藤 務編「加藤誠教授退官記念論文集」,111-120.
坂上澄夫・南川純夫・川島幹雄,1969: 北海道渡島半島上磯石灰岩のコノドントとその地質時代の考察.地学雑,78,415-421.
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