私的・北海道地質百選
『当麻鍾乳洞』

 鍾乳洞は,大規模な石灰岩体の多い日本では,それほど珍しいものではない.しかし,北海道では意外なほど数が少ない.当麻町にある当麻鍾乳洞は施設が整備されて一般人が入洞できるものとしては,もしかすると唯一のものなのかもしれない下注)

注)この他に中頓別町の中頓別鍾乳洞があるが,新第三紀の貝殻石灰岩中のもので,鍾乳洞としてはやや特殊なものと言える.


鍾乳洞の入り口.発見者の今村氏の顕彰碑と道天然記念物を示す碑が設置されている.2010 年 6 月撮影.
鍾乳洞内部.ライトアップされ,場所ごとにいろいろな名前が付けられている.2010 年 6 月撮影.

 当麻鍾乳洞は,1957(昭和32)年に今村勇氏によって発見されたもので,1961(昭和36)年に北海道指定天然記念物に指定されている.
 以前は,『蝦夷蟠竜洞』と呼ばれたこともあった.“蟠竜” というのは,とぐろを巻いた飛び立つ前の龍のことだそうである.何故そう呼ばれることとなったのか理由は分からない.

 鍾乳洞の延長は 135 m,面積は約 1,500 m2 とされており,中生代石灰岩体中の鍾乳洞としては比較的小規模なものである.

 鍾乳洞内部には,大小さまざまな石筍・石柱・鍾乳管などが見られ,歩道も整備されているので,快適な見学をすることができる(右写真).

 鍾乳洞の内部は夏でも涼しく,2010/6 の見学の際には,外気温 25 度に対して内部の気温は 8 度であった.

 当麻鍾乳洞の石灰岩は,白亜紀付加体当麻コンプレックス(加藤ほか,1986)中の石灰岩岩塊で,周囲は剪断された前期白亜紀黒色泥岩を主体とする.
 鍾乳洞の南方に分布する石灰岩からは,古生代ペルム紀のフズリナおよび三畳紀新世のコノドント化石が発見されている(Hashimoto et al., 1975).北海道で初めてペルム紀の化石が発見されたところでもある.


入り口横の石灰岩露頭.灰色の塊状石灰岩であるが,低角の不明瞭な層状構造が認められる.2010 年 6 月撮影.

 石灰岩は,鍾乳洞入り口わきの斜面に露出している(右下写真)が,灰色の塊状石灰岩で,視認する限りでは化石は確認できない.

 5万分の1地質図幅『当麻』(鈴木ほか,1966)の鉱床記載を解釈すると,この石灰岩体の規模は,長さ 200 m,厚さ 50 m で,その上部に石灰岩・玄武岩質火山岩・石灰質砂岩を岩塊として含む剪断泥岩を伴っており,全体として混在岩相を持っていると考えられる.


既存の指定など

北海道指定天然記念物.1961(昭和36)年3月17日指定.


所在地

当麻町 開明.


サイトの状態:


参考文献

鈴木 守・藤原哲夫・浅井 宏(1966)5万分の1地質図幅『当麻』説明書.北海道開発庁,23 p.

加藤幸弘・岩田圭示・魚住 悟・中村耕二, 1986, 北海道中央部,当麻-開明地域に分布する先第三系の再検討.地質雑,92, 239-242.

Hashimoto, W., Koike, T. and Hasegawa, T., 1975, First confirmation of the Permian System in the central part of Hokkaido. Proc. Japan Acad., 51, 34-37.


関連サイト



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