私的・北海道地質百選
『二股温泉の石灰華』
長万部町二股温泉は,明治以前から温泉として利用されていたと言われているが,平成13年に新築され,『二股らじうむ温泉』という名前になっており,道路整備でアクセスも便利になった.
脇水(1922)により,温泉沈殿物中に放射性のラジウム等を含むとされ,現在の温泉名の由来ともなっている.
この温泉の圧巻はなんと言っても,温泉旅館の横にそびえたつ巨大な石灰華ドームである.長万部町の設置した説明看板によると,その高さは少なくとも 25 m ある.複数のドームが複合しているようで,基部の大きさは判然としない.
温泉の下を流れる小沢に入って見上げると,このドームの規模を実感できる.沢の中で見る苔・藻類に覆われた石灰華の表面には,“大仏の頭” のような奇妙な凹凸(径 数 cm 程度)が見られる.おそらくコロフォーム沈殿構造であろう.
浴場のすぐ外には温泉水の蛇口が立っており,そこから流下する温泉水により,鍾乳洞で見られるようなテラス状の “畦”(rimstone)を持った沈殿池が形成されている(右下写真).
石灰華はこのドームだけではなく温泉周辺に散在しており,その分布地域は全体として 400 x 200 m に及ぶとされている.国内の石灰華ドームとしては,岩手県夏油(げと)温泉の “天狗の岩” が有名であるが,規模的にはこれに勝るとも劣らないものであろう.
なお,石灰華がここに発達している要因であるが,新生代の地層の下位にある中生代付加体の中に石灰岩体が賦存しており,そこに浸透した温泉水が石灰岩を溶解しカルシウム・炭酸イオンに富んだ温泉水となって上昇したため,という説をどこかで読んだ記憶があるが,その根拠・真偽は不明である.
北海道指定天然記念物.1965(昭和40)年6月14日指定.
黒沢邦彦・田近 淳・八幡正弘・山岸宏光(1993)5万分の1地質図幅『大平山』および同説明書.北海道立地下資源調査所,78p.
脇水鐵五郎(1922)北海道二股温泉の放射性石灰華.地学雑誌,34, 1-11.
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