謎の砂





私は開発局の委託業務で,黄金道路の岩盤調査のため,その上空をヘリでよく飛ぶのですが,そのときいつも『アレはなんなんだろうな?』と思っているのが,左の写真に写っている砂堆積物です.

最初は,露頭上部が花崗岩かなんかで,その風化で生成した砂が talus 状になっているんだろう,と思っていました.ところが良く見ると,砂の向かって右側はたしかに花崗岩質岩の露頭ですが,上部は,硬質のホルンフェルスのようです.
砂堆積体の上部は,道路から比高70m近くあり,かなりの規模です.




で,機会を見て現地に行って見ることにしました.そもそもヘリからの遠望では,ほんとに普通の砂かどうかも分からないし.ちなみに場所的には,えりも町と広尾町の境界のところだったと思います.
一番右側のフリーフレームのかかった出っ張り部分が音調津の花崗岩体で,そこから左側はすべて中の川層群のホルンフェルスです.砂の淘汰が最上部でも非常に良いことが分かります.どうみても崖錐ではありませんね.左上から右の方にごろごろ落ちているのが,ホルンフェルスの崖錐です.

うーむ...とんでもない妄想ですが,『津波性堆積物』なんていうイメージも湧いてきました.でもなんでここだけ?




砂堆積体の上部まで,足を取られながらひいこら歩いて登っていくと,もうこんな感じで,海岸砂そのものです.
こんな砂がなんで比高70m以上まで分布しているんでしょうか? 謎です.

詳しいことは書けませんけど,某トンネルの事前調査でこの堆積物の断面を調べたらしいのですが,厚さは鉛直方向で 20m近くあり,最下部は礫質だったそうです.下底面は少し段差が付いていて,結局『海岸段丘性』という結論だったみたいな.
でもこの堆積形態は,段丘というにはちょっとしっくり来ません.不思議です.謎だ...

今のところ考えているのは,これが『風成層』なのではないかということです.南東からの強風で海岸から運ばれた海岸砂がこの斜面に吹き付けて這い上がり,斜面に沿って定着しているのではないかと...でも,なんでここだけなんでしょう?

結局良く分かりません.学生巡検で学生からこの成因を聞かれて何も答えられなかった私は,『自然は良く分からんことだらけなんだ』と誤魔化しましたが.:-p

2011/02/21 14:13:18


コメント:
 アンモナイト (2011/03/07 18:53:19)
  自分は関東に住んでいますが、関東には、縄文時代の貝塚がかなり高い所まで分布しています。北海道の岩見沢にも縄文時代の堆積物があるようですので、海岸近くに侵食されないのが残っていても不思議ではないと思いますが、如何でしょうか?

コメント:
 mkawa (2011/03/08 14:26:26)
  アンモナイトさん,こんにちは.コメントありがとうございます.

そうですね...縄文海進はたしかにありますが,それによる海面上昇は数m程度のものですので,このような高さ(70m前後)まで砂は堆積しないでしょう.
襟裳岬付近には『ヤンケベツ面』という比高40-70mの海成段丘面が分布しますが,それとは分布様式がまったく違います.何しろ海岸急崖に張り付いているようなものですから.

貝塚は人為的堆積物(堆積体)なので,居住空間が存在するところなら,理論的にはどんな場所にも存在しえます.しかしこのような砂は自然の堆積物ですから,『砂が堆積しうるところ』にしか堆積できません.

そうすると,高さ数十mのところにまで砂を堆積させる機構として,すぐに思いつくのは『津波』です.私も最初は冗談半分に,これは津波堆積物(の残存物)なのではないかとさえ思いました.十勝海岸地帯は過去に巨大地震があっても何の不思議もないところですので.まあでも,そういう成因を指し示す根拠もありません.

謎だな...と思いますが,露頭最上部を見ても現世の海岸砂そのものなので,やっぱり風成と考えるのが一番(面白くないけど)妥当なのかな?なんて思ってます.


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