水車小屋裏の露頭





これは実はけっこう書きにくい話です...いろんな意味で.

上の露頭パノラマ写真は,岩手県陸前高田市小坪沢下流部に露出する,下部石炭系鬼丸層石灰岩層の下底部です.林道の脇に古い水車小屋があり,通称『水車小屋裏の露頭』と呼ばれていました.その水車小屋は10年くらい前に行ってみたら,跡形もなくなっていましたが.私が初めて行ったとき(1970年代)には,実際ごっとんごっとんと水車が回っていました.思い出は切ない.

で! この露頭の意味なんですが...湊(1940)で下位の大平層との不整合露頭とされ,のちに有名なバリスカン造山(安倍族造山運動)の1フェーズである『清水(しず)褶曲』の証拠とされたものです.清水というところはまったく別のところ(住田町小股西方)にあって,そこはたしかに鬼丸層石灰岩が出ているのですが,不整合関係は観察されません.

この露頭の右半部の大部分はヒン岩質貫入岩です.下位の大平層はこの写真が切れるあたりの右端にちょこっと出てきます.鬼丸層との接触部分はありません.
それでは,どこが鬼丸層と下位層との不整合とされたのかというと,露頭の真ん中付近(赤四角部)...




石灰岩の一番下に薄い黒色『粘板岩』があるとされていました.その中には淡緑色のなにやら砂岩っぽい部分があり,それが石灰岩に斜めにカットされているように見える...
この境界については,川村(1985)で記載しましたが,要するに黒色『粘板岩』は断層ガウジ,砂岩っぽく見えるのは変質・破砕したヒン岩質貫入岩です.

つまりこれは,鬼丸層と大平層の不整合関係を示すものではなくて,鬼丸層石灰岩と貫入岩体の間の断層破砕帯であるということに...もちろんこれは,私が初めてそういうことに気づいて書いたわけではなく,御大の大著,小貫(1969)でも『あれは断層であって...ぶつぶつ(大幅意訳)』と欄外注として書かれています.田沢純一さんもどこかで断層と書いていたような.

ただし,ちゃんと記載して引導を渡したのは,川村(1985)だけです.みんな当たり前だからと思ってわざわざ否定もしなかったということなのかも.そういう意味では,私は損な役回りをしたな...と.(^^;

思い出話ですが,この地域の石炭系の論文を作成していた頃,教室のコピー室でばったりと,既に退官されていた湊先生と顔を合わせたことがあります.湊先生は,私の顔を見てもすぐには誰とは思い出せなかったらしく,しばらく私を見てから,『あぁ...最近どんなことやってるの?』とおっしゃられました.私は『はい! 先生が1940年に出された小坪沢の石炭系層序を大幅に再検討しております!』と元気よく答えました.イヤミで言ったんじゃないですよ.そうすると湊先生は,特に表情を動かすわけでもなく,『あっ,そぉ...』とだけ静かにおっしゃられました.
私もこういう歳になってくると,あれは一体どういうお気持ちでおっしゃられたんだろうな?と考えることがあります.ご自分のライフワークである安倍族造山運動の主要時相である清水褶曲を再検討(要するに否定しようと)しているんですから...もう湊先生には執着心が無かったのか...あるいは,私が言っていることが(いろんな意味で)良く聞き取れなかったのかも知れません.なにしろ私は湊先生には,よく『あぁ...カワカミくん』と呼ばれていましたから.

2010/01/29 13:21:55


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